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第9話 八竜勇者

 兵士により牢の扉が開けられ、鞭を持った男が牢に入って来る。


 3人の兵士は牢の中へは入って来ず、外で待機している。


 今から何が始まるかはわからないが、流石にベッドに横になっているのはどうかと思うので、俺はベッドから起き上がった。


「こんなガキが魔王の素質を持っているだと? 何かの間違えじゃないのか?」


 俺も何かの間違えだと思いたい...。天礼(レクシール)により魔王という職業さえ選ばれていなかったら、こんなことになることもなかっただろう。


 むしろ勇者という職業に目が行き、今とは真逆の対応を受けていたに違いない。


 別に勇者という職業だけで考えれば、この世界には100人近くの勇者が居るので、激レアという訳ではないが、国単位で考えればどの国でも10人前後と言ったところだ。


 勇者の中でも各国に1人だけしか存在しない八竜勇者(ブレイブエイト)となると話は変わって来るが、八竜勇者(ブレイブエイト)にはなろうと思ってなれる訳ではない。


 選ばれた勇者のみが与えられる称号なのだ。


 八竜勇者(ブレイブエイト)と言うからには当然8人存在していて、この世界には8つの国があることになる。これは人間の国だけの話であって魔族が統治する国も合わせれば実際にはこの倍の数になる。


 確かラウンドハールの八竜勇者(ブレイブエイト)は闇の勇者だった筈...。


 どんな奴かは知らないけど、勇者なのに闇とか、正直微妙な気がする...。


 俺が勇者のことを考えていると男は俺の目の前にまで迫ってきていた。


「まぁ、俺にとってお前が魔族だろうと魔族じゃなかろうとどうでも良いことだ!」


 男は俺に向けていきなり鞭を振り下ろした。


「ぐうぅっ!」


 鞭は俺の着ていた服を破り皮膚を裂いた。


 ヒリヒリとした熱い痛みを感じる。


 一体なんだって言うんだ...。普通、拷問をするにしても先ずは俺に話を聞いて、俺が話さなかったら身体に聞くんじゃないのか...。


 いきなり鞭でシバくとか聞いたことがないんだが...。


 どちらにせよ何か聞かれたとしても俺は何も言うことが出来ない。


 エレンのことを話してエレンまで狙われる様なことになれば、いくら最強のエレンだとしても国相手に戦うのは流石に厳しい筈だ。


 それこそ闇の勇者を派遣されるかも知れない。


「おっと...順番を間違えて先にやってしまった...。さぁ、小僧。知っていることを全て話して貰おうか?」


「俺は何も知りません...。自分に魔族の血が流れているってことも今日初めて知ったんです...」


「知らばっくれおって!」


 再び男の鞭が俺の皮膚を裂く。


「ぐうっっ!」


 2回。3回。何度も男の鞭が振り下ろされる。


「お前が魔族ということはお前の親も間違えなく魔族ということになる。親のことを話して貰おうか?」


「うっ、うぅぅぅ...両親は俺が子供の頃に死んで、今は俺1人なんです...」


 更に男の鞭が俺の身体に降り下ろされる。


 何度も何度も鞭で叩かれる痛みで意識が飛びそうになる。


「白々しい嘘を吐くんじゃない! さっさと本当のことを言え! 本当のことを言えば、楽にとは言わないが少し痛め付けるだけで殺してやるぞ?」


 少し痛め付けるだけ? 既にこれだけやっておいて少しとかふざけてるのか...。


 ああ...もうさっさと意識がなくなれば良いのに...早くこの痛みから解放されたい。


 俺が願うのはそれだけだった。


「何だお前は!?」


 牢の外で兵士が騒いでいる。


「ぐあっ!」


 兵士の1人がその場に崩れ落ちる。


 一体何が起こっているのかと思っていると、兵士の1人が牢の中に入り中から牢に鍵を掛ける。


「うぐっ!」


 外にいるもう1人の兵士も突然その場に倒れ込んだ。


「おい? 一体何が起きているんだ?」


「女です! 恐ろしく速い女が牢の外に!」


 兵士の言葉を聞き、牢の外を見ると蝋燭の灯りに照らされ、その場に居たのはエレンだった。


「か、母さん...」


「ロディ。アンタ随分やられたねー? まぁ、一応生きているみたいだから良しとするか」


 辛うじて生きてはいるけど、結構限界なんですが...。メチャクチャ身体は痛いし...。


「母さん...。俺、天礼(レクシール)で魔王が選ばれちゃって...」


「だろうね。アンタに天礼(レクシール)の時に私の名前を出すことを言っておくのを忘れてたわ」


 エレンの名前を出す? エレンの名前さえ出せば何とかなっていたと言うのか...。


 やっぱりエレンは魔王でこの国の弱味でも握っているのか? だが、この現状ではいくらエレンでも何もしようがない。


 俺と俺を痛み付ける男と、エレンの間は頑丈な鉄格子によって遮られているのだから...。


「なんだテメェは? コイツの母親か? 大人しくコイツが痛め付けられているところをそこから眺めていな。お前のことはコイツを処刑した後で相手をしてやるから」


 エレンが現れたことで少し俺との距離が離れた男だったが、再び俺の側に近付いて来る。


 男は人を痛み付けることに快感を覚えるサディストの様で、ニタニタと嬉しそうな顔をしている。


「次にロディに何かしようとしたらお前を殺すよ?」


 エレンは倒れている兵士の腰の鞘から剣を引き抜いた。


「殺せるものなら殺してみろよ!」


 男が鞭を振り上げると同時にエレンが剣を振った。


 一振り、二振り。


 すると牢の鉄格子がまるで、竹でも切ったかの様にバラバラになった。


 遮る物がなくなるとエレンは一瞬で男に近付き、俺に向けて振り下ろそうとしている右手を切断した。


「うぎゃぁぁぁ!」


 男の右腕が鞭と共に床に落ちる。


「ちゃんと忠告はしたよ。無視したお前が悪い」


 男の左胸に剣が突き刺された。剣は男の胸を貫き背中から剣の先端が突き出ている。


「がっ! がはっ!」


 男はその場に倒れると数秒間身体をピクビクと痙攣させ動かなくなった。


 俺にとって目の前で人が死ぬということは初めての経験だった...。


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