第89話 倒せない敵
下手に倒せばまた復活して強くなってしまう可能性がある。
攻撃は慎重に行わなければならない。
「ヘクトル。アイツを倒さずにあの魔石を破壊することを考えるんだ」
「えーっ!? だって石はアイツの身体の中にあるんだぞ? 倒さずに石だけ壊すとか無理じゃないか?」
ヘクトルの言い分は最もだ。正確には銀狼を倒しつつあの石を破壊する。
もしくは銀狼を倒した後、直ぐに石を破壊すれば良いかも知れないが、直ぐに破壊出来なければ復活してしまう。
「取り敢えず、何とかアイツの動きを止めよう」
俺は右手に魔力を集めて銀狼に向けて放つ。
『火球』
魔法は銀狼に向かい飛んで行くが、簡単に避けられてしまう。
俺も簡単に当たるとは思っていない。続けて連続で何発も魔法を放つ。
銀狼は飛び上がり魔法を避けるが、着地した先にヘクトルの斧が振り落とされる。
「うぉぉぉ!」
ヘクトルの斧が銀狼の前足に迫る。
銀狼の口が開き風刃が放たれる。
魔法はヘクトルの斧に直撃し、斧が宙に舞う。
「あっ! やばっ...」
無防備なヘクトルに向かって銀狼が飛び掛かる。
「うおっ!」
銀狼に飛び掛かられてヘクトルが地面に倒れる
倒れたヘクトルの上に銀狼が乗り掛かる。
「ヘクトル!」
俺は全力でヘクトルの元に走る。
完全に有利な体制に立っている銀狼がヘクトルの首元に噛み付こうとする。
「させるか!」
走ってきた勢いを乗せたまま銀狼に飛び蹴りを食らわせる。
間一髪でヘクトルに噛み付くよりも早く蹴りが当たり銀狼が吹き飛ぶ。
「ロディ。助かったぜ」
ヘクトルが起き上がり、飛ばされた斧の元へ向かい斧を拾いあげる。
ヘクトルが斧を拾ったタイミングと同じタイミングで、銀狼も起き上がり口から風刃が放たれる。
放たれた魔法は俺の方へ向かってきている。
マリスとの距離が離れ過ぎている。この距離では魔法障壁の発動よりも俺への着弾の方が早いだろう。
『火球』
向かってきた風刃に俺が放った火球が当たると、風刃を消滅させそのままシルバーウルフの元へ向かって行く。
魔法の力に関しては俺よりも銀狼の方が上だが、炎魔法は風魔法に対して相性が良い。
多少の差なら逆転することが出来る。
銀狼は横に飛び魔法を回避すると、そのまま俺の方へ向かい走ってくる。
やはり銀狼を倒さずに身体の中にある魔石だけを破壊するのは困難だ。
銀狼を倒した後で、復活する前に魔石を破壊するという方法に切り替えよう。
接近してくる銀狼に目を向けたまま右手に魔力を集める。
目の前まで迫ってきた銀狼が飛び掛かってくる。
俺の頭に噛み付こうと口を開けた瞬間を狙って魔法を放つ。
『火球』
俺の放った魔法は銀狼の口の中に入り、頭を内部から燃やす。
「ウォォォン!」
頭を揺らしながらシルバーウルフは苦しんでいる。
「ヘクトル! 一旦コイツを倒すからさっきと同じ場所を切って!」
「うぉぉぉ!」
ヘクトルの斧が銀狼の身体を切断した。
先程とほぼ同じ場所で、切断面からは魔石が見える。
「ヘクトル! その魔石を破壊して!」
「任せろ!」
ヘクトルが全力で斧を降り下ろす。
完璧な一撃が魔石を捉える。
「嘘だろ...」
魔石には傷1つ付いていない。あれだけ破壊力のある一撃を受けても傷1つ付かないとか、金剛石よりも固いんじゃないのか...。
『火球』『火球』『火球』
何発も魔法をぶつけるが魔石には傷1つ付かない。
先程と同じように魔石から血管のような物が伸びて、銀狼の身体を再び繋げていく。
銀狼の目が開き復活を果たす。
「くそっ! 魔石を破壊出来ないとか、どうすれば良いんだ...」
三度銀狼の能力値を確認してみる。
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銀狼
職業なし
LV30
HP490
SP170
MP190
力260
技270
速さ310
魔力210
防御190
[装備]
なし
攻撃力260
守備力190
[加護]
炎E 水E
風C 地F
聖E 魔E
光E 闇C
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やはり、また強くなっている。
魔石の力によって復活をすると強くなるということで間違えないだろう。
だが、一体どうすれば良いんだ? 倒せば何度でも復活するし、魔石を破壊することも出来そうにない。
一角ウサギの時はこんな現象起こらなかったのだが。
一角ウサギとの戦闘の記憶を探ってみる。あの時はヘクトルが首を叩き落としてその切断面から魔石を...そうか! 何故、こんな簡単なことに気付かなかったんだろうか。
今回と同じ魔石だとすれば一角ウサギが復活をしなかったのには原因がある筈だ。
それと同じことをすれば、この銀狼も復活することはないだろう。
やるべきことは見付かったが、もう一度銀狼を倒す必要がある。
これだけ強くなってしまっては全員の力を合わせないと無理だろう。
「ミラ。残りのMPを全て使っちゃっても良いからひたすら魔法を打って。当たらなくても良いから銀狼の動きを制限したいんだ」
再度銀狼を倒した時にミラとマリスは俺の近くにまで接近してきている。
「うん。わかった」
「マリスは俺達のことよりもミラを守ることに専念してほしい」
「お任せ下さい」
攻撃魔法を使わなくても防御魔法を使ったり、いざとなればミラの盾になることも出来る。
銀狼の攻撃くらい受けても、マリスならほぼノーダーメージですむだろう。
「ヘクトルにはチャンスがあったらもう一度同じ場所を切断してほしい」
「おう! 任せろ」
さぁここから第3ラウンド。いや...ファイナルラウンドの開始だ。




