第88話 魔石の力
『魔法障壁』
マリスがヘクトルの方へ手を向け、ヘクトルの前に魔法の障壁を張る。
風刃は障壁に触れると消滅した。
「危ぶねー...。マリスさんありがとう!」
魔法に対するヘクトルの防御力は皆無に近い。
流石に一撃で死ぬことはないと思うが、受けていれば軽傷ということはなかっただろう。
「本当に魔法を使ってきたな。多分クラークさんの腕を奪ったのは今の魔法だと思う」
俺は狼に視線を向けて頭の中で能力値と唱えた。
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銀狼
職業なし
LV10
HP330
SP110
MP130
力180
技190
速さ230
魔力150
防御130
[装備]
なし
攻撃力180
守備力130
[加護]
炎F 水F
風D 地F
聖F 魔F
光F 闇C
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確かに強いことは強いのだが、俺の能力値と大差ない。
もしかして今の俺の能力値はBランクくらいの実力があるのだろうか。
よくよく考えてみればBランクのスレイブは、今の俺の能力値よりも低かった気がする。
まぁ、一概にランクが高い=能力値が高い。ランクが低い=能力値が低いということにはならないとは思う。マリスが良い例だ。
先程の風の魔法の速さはそれなりの脅威だが、マリスの魔法で防げるならそれも恐れる必要はない。
ただ防御魔法の発動よりも早く魔法を受けてしまえば意味がないので、接近戦では要注意だ。
取り敢えずこちらからも攻撃を仕掛けよう。
『火球』
火球に向けて魔法を放つが簡単に避けられてしまう。
やはり速さが高いだけはある。遠距離からの魔法で仕留めるのは難しそうだ。
「ヘクトル。俺がアイツの足を止めるから、足が止まったらヘクトルが倒して!」
「任せろ!」
「ミラは魔法で援護を頼むよ」
「任せて」
俺は銀狼に向かって突っ込む。
銀狼も俺に向かって突っ込んでくる。
俺は拳を握り締め銀狼に向けて突き出す。
拳は避けられ、銀狼の爪が俺の左肩を切り裂く。
「ぐっ!」
更にもう一撃が来るが何とか二撃目は回避することに成功した。
『小回復』
ミラの回復魔法が俺の肩を包みこむと出血が止まり、傷口が塞がっていく。
「ミラ。ありがとう」
銀狼に向けて、今度は足を突き出して横蹴りを狙う。
またもや攻撃は避けられてしまう。
『火球』
避けた先にミラの魔法が放たれる。
魔法を回避するため銀狼が飛び上がる。
「チャンス!」
いくら速いといっても翼を持たない魔物が空中で素早く動ける筈がない。
銀狼の身体を横から蹴飛ばす。
「ウォォォン!」
銀狼は叫び声を上げて地面に叩き付けられる。
「まだまだぁ!」
今度は自分が飛び上がり銀狼の身体を目掛けて着地する。
「ギャイーン」
銀狼を地面に押し潰す形となり、苦しそうな表情を見せる。
「今だ! ヘクトル!」
ヘクトルがこちらへ走り込んでくると、俺の前で斧を大きく振り上げる。
「うぉぉぉ!」
ヘクトルが降り下ろした斧が銀狼の身体を真っ二つに切断する。
「へへっ! どんなもんだい!」
ヘクトルが自慢気な顔をする。
動きさえ止めてしまえば俺の火球で留めを刺すことも出来たが、そうしなかったのには理由がある。
そう。この魔物の体内に進化の魔石があるかを確認するためだ。
俺くらいの魔法なら魔石ごと燃え尽きてしまうことはないと思うが、念には念を入れてだ。
銀狼の死体を確認すると、切断面から赤い石が見える。
パッと見た感じでは一角ウサギの体内から出てきた石と同じような石に見える。
回収しようと石に手を伸ばすと突然石から人の血管のような物が大量に出現する。
「何だこれは...」
血管のような物は離れた銀狼の身体に伸び、2つに分かれた身体を引き寄せていく。
「嫌な予感がする...。ヘクトル! この石を破壊してくれ」
ヘクトルが斧を振り上げると、2つに分かれた身体が1つにくっつき銀狼の目が開く。
ヘクトルが斧を降り下ろしたと同時に銀狼が起き上がり、ヘクトルの斧を回避する。
思い切り降り下ろした斧は地面に突き刺さる。
「痛ててて...アイツ何で生きてるんだ?」
身体を切断された時、銀狼は確実に死んでいた筈だ。
まさか進化の魔石には死んだ魔物を蘇生させる力でもあるというのか。
だが、一角ウサギの時はこんな現象は起こらなかった。何か原因がある筈だ。
ともかく再び戦闘体制を整える。
視線が俺の方に向けられたと同時にこちらに突っ込んでくる。
その鋭い爪が俺の身体に向けられるが、紙一重で攻撃を回避する。
「危なかったなー。というかさっきよりも速度が速くなってる気がするんだけど...」
攻撃をかわされた銀狼の口が開かれると風刃が俺に向かい飛んでくる。
『魔法障壁』
マリスが魔法の障壁を張るが、障壁が俺の前に現れるのが先程よりも遅かったように感じる。
「やっぱり何かがおかしい...」
マリスの魔法の発動が遅かった訳じゃない。
銀狼の放った魔法の速度がさっきよりも速くなっているんだ。
俺は再び銀狼の能力値を確認してみる。
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銀狼
職業なし
LV20
HP410
SP140
MP160
力220
技230
速さ270
魔力180
防御160
[装備]
なし
攻撃力220
守備力160
[加護]
炎E 水E
風D 地F
聖E 魔E
光F 闇C
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やはりだ。先程よりも強くなっている。
何故こうなったのか原因は不明だが、復活する度に強くなるというのであれば下手に倒すことも出来ない。
「マリス。銀狼が復活した理由はわかるかい?」
ミラに張り付いているため、少し離れた場所にいるマリスに声を掛ける。
「申し訳ありません。私にはわかりません...。しかしあの魔物からは不死属性の力は感じません。おそらくあの魔石に何か秘密がある筈です」
確かに銀狼が復活する時には、魔石が明らかにおかしい反応を見せていた。
あの魔石の力で復活しているというなら、魔石を破壊しなければ。
先程よりも強くなった銀狼の身体の中にある魔石を破壊するのは簡単なことではない。
俺は改めて覚悟を決めると銀狼へ向かい走り出した。