第84話 Dランク
「それにしてもアンタ強いな...。俺がここまで相手にならなかった相手はアンタが2人目だ」
結局マリスが圧勝に終った理由はわからない。
何か特殊なスキルでも持っているのだろうか。
「マリスが勝ったってことは今回の件は?」
「ああ。お前達に着せられた容疑は間違えだろうな。そもそもこれだけの強さを持っている人間がたかがCランクの人間を殺すのに失敗する筈がないからな」
やはりゼロムスはただの脳筋男ではないようだ。
確かにマリスが本気でザック達を殺すつもりなら生きていられる筈がない。
「ミスリルゴーレムを討伐することが出来たのもアンタの力があったからだろ?」
「いえ。ミスリルゴーレムを倒したのはロディ様で、私は何もしていませんよ」
ゼロムスの視線が俺の方へ向くと、腰に付けてある意思持つ剣へと向く。
「驚いたな...意思持つ剣を使えるのか? 今までにその剣を使えることが出来た人間は1人しか見たことがないぞ」
ゼロムスが俺の方へと近付いてくる。
どうやら意思持つ剣が気になるようだ。
「坊主。お前何者だ?」
「何者と言われましても...」
俺は闇の勇者エレンと光の魔王クロードの息子だ。
だが、それを正直に言うことは出来ない。
「ロディの母ちゃんはあのエレンさんだ。だからロディはこんなに強いんだぞ」
ヘクトルが勝手に話し出す。
エレンのことだけならまだしも、クロードのことを言ってしまわないかとヒヤヒヤしてしまう。
「エレンってもしかしてあの闇の勇者エレンのことか!?」
「闇の勇者? それはよくわからないけど、エレンさんはメチャメチャ強いんだぞ」
多分ヘクトルにはエレンが闇の勇者だと伝えた筈なのだが、興味がないのか記憶にないようだ。
クロードのことなんて記憶の片隅にもないかも知れない。
「エレンの息子か...。それなら意思持つ剣を使えたとしても不思議じゃないか...」
「それで依頼の達成についても認めて頂けるのでしょうか?」
元々の目的はミスリルを手に入れることだ。
依頼を完了させ、正式にミスリルを確保しなければならない。
「それなんだが、チト面倒なことになっていてな」
面倒なこと? ザック達に分け前を払わなければいけないと駄目とかか。
一応合同パーティーとして受けた依頼なので、本来ならば報酬を分配する必要があるが、この状況でそれを行うのは俺としては納得出来ないぞ。
「何か問題があるのですか?」
「ああ。あの依頼はBランク依頼になっていただろ? 達成報告がEランクのお前達だけでは色々と問題があるんだ」
確かにミスリルゴーレムの討伐はBランクの依頼で、俺達だけでは受けることが出来なかった。
だからこそザック達と合同パーティーを組むことになったのだ。
「俺達だけでは報酬を受け取ることは出来ないということですか?」
「うーん...。少し待っていろ」
ゼロムスが階段を上がって行く。
何をするのかはわからないが、待っていろと言われたからにはここで待つことにしよう。
「それにしてもさっきの戦いは圧倒的だったけど、どうして? マリスとゼロムスさんにそれだけの力の差があるとは思えないんだけど...」
「はい。本来ならばそれほど力の差はないでしょうね。私があれだけの力を出せたのはロディ様が居てくれたからですよ」
またか...。俺は精神論を聞きたい訳じゃないのだが...。
だが、実際俺も自分の超タイプな女性が傍にいたら、本来以上の力を発揮出来そうな気がする。
「なぁ、別にミスリルが欲しいだけなら依頼なんて関係なしに、今持ってる分を使っちゃえば良いんじゃないのか?」
ヘクトルの言う通りそれならわざわざギルドを通す必要はないが、その場合窃盗のような扱いになってしまう。
本来ならこのミスリルの所有権はマロウが持つことになるからだ。
「そう言う訳にはいかないんだよ。これは俺達の物って訳じゃないからね」
話をしていると階段を降りる足音が聞こえてくる。
階段の方に目を向けるとそこにはゼロムスの姿があった。
「問題を解決する方法を見付けたから、受け付けカウンターまで来てくれ」
再びゼロムスが階段を上がって行く。
俺達はゼロムスに続き階段を上がり、受け付けカウンターの方へと向かう。
受け付けカウンターには先程のギルド職員が立っている。
「それじゃあコイツらのランクアップと依頼の完了手続きをしてくれ」
「わかりました。それでは皆様、ギルドカードの方をご提出下さい」
「一体何を?」
「俺の権限でお前達をDランクに昇格させようと思ってな。Dランクに上がればBランクの依頼の完了報告をするのも問題がないからな」
昇格させてくれるというのなら、こちらとしては願ったり叶ったりだが。
「でもそんなことして良いんですか?」
「問題ない。ギルドマスターともなればそれくらいの権限はあるからな。さぁ全員ギルドカードを出してくれ」
4人分のギルドカードをギルド職員に提出する。
ギルド職員が処理を行うとギルドカードがDランクへと更新される。
「それではミスリルゴーレム討伐の達成も確認致しますね。討伐部位の方を提出して頂けますか?」
異空間収納袋に収納してあったミスリルゴーレムをカウンターの前に取り出す。
ドスンと大きい音が響き地面が振動する。
「これだけのミスリルを持つゴーレムは珍しいですね。少しお待ち下さい」
ギルド職員がミスリルゴーレムに手をかざすと、その手から魔力が放たれゴーレムが光り出す。
「ミスリルの総重量は210キロですね」
ギルド職員が使ったのは重さを量ることが出来る魔法のようだ。
「それでは20キロ分のミスリルだけ貰いたいのですが、宜しいでしょうか?」
「かしこまりました」
再びギルド職員がミスリルゴーレムに手をかざすとミスリルゴーレムの身体が光りだし、多数の四角いミスリル鉱石へと変化をする。
ミスリル鉱石は均等な大きさで上へと積み上がっている。
こんなことが出来るなんて、このギルド職員何気に凄いんじゃないのか? ギルド職員がいくつかのミスリル鉱石を俺の前へと置く。
「これが20キロ分になります」
俺は目の前に置かれたミスリル鉱石を異空間収納へと収納する。
「残り190キロ分のミスリル、確かに受け取りました。こちらが報酬の19万コルになります」
日本円に換算すると1900万円。
こんな大金を見るのは初めてだ。
受け取ったお金を異空間収納袋へ収納する。
3人で分けたとしても5年は暮らしていける金額だ。
「ありがとうございます。それじゃあ俺達は行きますね」
「俺もまだまだ鍛えておくからまた勝負を頼むな」
マリスは無言で微笑む。
目的だったミスリルは手に入った。これをファヴァルに渡すべく俺達は冒険者ギルドを後にし、ファヴァルの工房へと向かった。




