第83話 マリス対ゼロムス
(一体なんだい? 今ちょっと忙しいんだけど)
思念通話がエレンに繋がり、俺は現在の状況を説明した。
ザックに裏切られ突然攻撃されたこと。
そのザックによって逆に俺達がザックを攻撃した容疑を掛けられていること。
そしてゼロムスがマリスとの勝負を望み、その勝負に勝てば俺達に掛けられている容疑を何とかしてくれると約束してくれたこと。
俺が説明している間、エレンはただ黙って話を聞いていた。
(なるほどね...。それで私に戦う許可を貰うために連絡をして来たって言うんだね?)
(うん。ゼロムスさんの能力値を見たけど、流石に近接戦闘だけじゃマリスでも厳しいかも知れない。攻撃魔法を使うことになると思う)
(あのゼロムスがギルドマスターになっているとはねー)
どうやらエレンはゼロムスのことを知っているようだ。
あの能力値的にも元々ゼロムスが実力のある冒険者だったのは間違えない。エレンが知っていたとしてもおかしくはないだろう。
(良いだろう。マリスには私がゼロムスをボコボコにしてやりなって言っていたと伝えておいてくれ)
(そんなこと言ってもマリスが絶対に勝てるかはわからないよ)
魔法が使えることを考えたらマリスの勝率が9割はあると思っているが、ボコボコに出来る程の実力差がある訳ではない。
(アンタは能力値だけを気にし過ぎなんだよ。おそらくマリスは魔法を使わずともゼロムスに圧勝するだろうさ)
どういうことだ? 魔法を使わなければ勝負は五分五分な気がするが...。
動きの速さではマリスの方が優れているが、一撃の威力や打たれ強さならゼロムスに軍配が上がる。圧倒することなんて無理だと思うのだが...。
(後、何て言ったっけ? 〖夜月〗だっけ? そのパーティーには2度と冒険者として活動が出来ないようにしてやらないとね)
エレンが〖夜月〗に何をするつもりかはわからないが、それに関しては触れないでおこう。
(それじゃあ私は忙しいからもう切るよ)
エレンとの通話が切れる。
一番懸念していたエレンの許可も取れたことだし、ここはマリスに全てを委ねよう。
「ロディ様。エレン様は何と?」
「母さんがゼロムスさんとの勝負を許可してくれたよ」
ボコボコにすると言うのはわざわざ伝える必要はないだろう。ただこの勝負に勝つだけで良いのだから。
「わかりました。ロディ様のためにも勝利をお約束致します」
マリスがゼロムスの方へ近付いて行く。
「お待たせしました。それでは始めましょうか」
「そうこなくてはな。本当ならいつも使ってる得物でやりたいところだが、部下がうるさいのでな。武器はそこにある木製の武器を使ってくれ」
壁に付けられている木製の武器は6種類。
剣、短剣、大剣、槍、斧、弓矢。マリスは何を選ぶのだろうか。
そう言えばマリスが何か武器を使って戦っている姿を見たことがない。
「必要ありません。私が使っている武器はここにはないようですしね」
マリスが普段使っている武器なんて見たことないのだが...。
俺の前で武器が必要になるような戦闘をしたことがないからだと思う。
「だったら普段使っている得物を使ってくれても構わねーぞ?」
ゼロムスが舞台の上へと上がる。
「いえ。必要ありません。先程貴方はロディ様を傷付けようとしましたよね? 正直私は怒っているのです。なので貴方には直接私の拳をぶつけたいと思っています」
マリスも舞台の上へと上がる。
先程のゼロムスの拳が当たっていれば、俺は確実に死んでいた筈だ。
よく考えればそれに対してマリスが何も思っていない筈がない。
「素手で俺の相手をするとか流石に少し舐めすぎじゃないのか?」
「充分です。それで勝負の勝敗は何で決めるのですか?」
「その自信がいつまで続くか見物だな。勝負はどちらかが降参をするか戦闘不能になるまでだ。木製の斧だからと舐めてると大怪我をすることになるからな。ちなみに魔法は好きに使ってくれて構わん」
「わかりました。では始めましょう」
勝負が始まるがお互いに動きはない。
ゼロムスなら直ぐに突っ込んで行くかと思っていたが、それなりに考えてはいるようだ。
「来ないのですか? それでは私から行きますね」
マリスが一瞬でゼロムスの懐に入り込む。
「何!?」
そのまま突き上げるようにゼロムスの腹に拳をぶつける。
「ぐはっ!」
大きなゼロムスの身体が宙に浮く。
落下するのと同時にゼロムスが斧を振り上げる。
「食らえ!」
ゼロムスがマリスの頭上に斧を振り下ろす。
マリスは攻撃を避けるとカウンターでゼロムスの顎を殴り上げる。
再びゼロムスの身体が宙に浮く。
「くっ、くそ...」
今度はゼロムスを追い掛けるようにマリスが飛び上がる。
そのまま空中でゼロムスを何度も殴り付ける。
ゼロムスの身体が舞台に叩き付けられる。
「がはっ! バカな...」
「まだやりますか?」
ゼロムスの身体にはかなりダメージが入っているように見える。
マリスの拳でゼロムスにあれだけダメージを与えるなど、能力値だけを見れば無理な気がするのだが...。
マリスが強化を掛けていたり弱化を掛けている様子は見られない。
「こんなやられっぱなしで止められる訳がないだろう!」
ゼロムスは腕を伸ばしその場で身体を回転し始めた。
その遠心力で小さな竜巻が巻き起こる。
『竜巻旋風斧!』
竜巻に包まれたゼロムスの身体がマリスへと接近する。
あんなのに巻き込まれたら吹き飛ばされてしまうぞ。
「無駄です」
マリスは接近する竜巻に右手を差し出す。
マリスの右手が竜巻に触れると、竜巻は収まり、マリスのその右手にはゼロムスの木斧が握られていた。
マリスが右手を上に上げると木斧はゼロムスの身体ごと宙に浮く。
「バカなぁ!」
恐らく3倍くらいの体重差であろうゼロムスが簡単に持ち上げられてしまっている。
そのままマリスはゼロムスの身体を投げ飛ばす。
舞台の外に投げつけられたゼロムスの身体は滑りながら俺の前で停止する。
「おわっ! ビックリしたぁー」
身体を震わせながらゼロムスは立ち上がろうとする。
「まだ続けますか?」
マリスがゼロムスの前に手を差し出す。
「へっ」
ゼロムスはマリスの手を取りその場に立ち上がる。
「いや...俺の敗けだ。アンタとは100回戦ったとしても勝てる気がしねー...」
こうしてマリスとゼロムスの勝負はマリスの圧勝にて幕を閉じることとなった。




