第82話 ギルドマスター
「アイツら最低な奴等だな! ロディに攻撃しただけじゃなく、嘘まで吐くなんて! 今度会ったら絶対にぶっ飛ばしてやる!」
ヘクトルはかなりの怒りを見せている。
それとは対照的にミラは悲しそうな表情をしている。
「それでこれからどうするの? 私達の言うことを信じてくれるのかな...」
「心配しないで。俺達は何1つ悪いことはしてないんだ。ギルドもわかってくれる筈だよ」
「ロディ様...申し訳ありません...私のせいで...」
マリスが頭を下げる。
確かに、マリスがザックを殺そうとした時に隠していた力を知られたのは事実だが、それがなくても何か虚偽の報告をされていたことは間違えない。
「マリスは気にしないで。悪いのは全部ザックさん達なんだから」
「ロディ様...」
特に良い考えが浮かぶこともなくスタンリスへ到着する。
街の中へ入った俺達は真っ先に冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドに到着し中に入るが、ザック達はおろか冒険者の姿が1人も見えない。
珍しいこともあるものだと思いながら、受け付けカウンターのギルド職員の元へ向かい、先ずは依頼の報告をする。
依頼を受けた時とは別の職員のため、俺達のことはわからないようだ。
「ミスリルゴーレム討伐の依頼を完了させました」
俺が受け付けにギルドカードを提出し、職員がチェックを始めて直ぐに驚いた表情をする。
「あなた方にはある容疑が掛けられています。それが事実だった場合、今回の依頼は達成扱いとならず、更には冒険者の資格剥奪の可能性もございます」
おそらくザックの報告で、臨時に組んだパーティー内の人間を殺そうとしたことになっている。
それが事実なら冒険者資格の剥奪はおろか、牢に入れられるべき罪だろう。
俺は真実をありのままにギルド職員に伝えた。当然マリスの力のことに関して触れてはいない。
「暫くお待ち下さい。私では判断出来かねますので、上の人間の指示を仰ぎたいと思います」
そう言うと職員はカウンターの奥へと姿を消して行った。
暫くすると1人の男を連れて俺達の前へと戻ってきた。
「んー? お前達が殺人未遂の容疑を掛けられた奴等か?」
男は身長2m近い大男で、ピッチリと身体に密着したタンクトップのような服を着ている。
露出している腕には相当な筋肉が付いており、俺の倍くらいの太さはありそうだ。
「貴方は...?」
「俺の名はゼロムス。このギルドでギルドマスターをしている人間だ」
この男...相当な強さだ。今まで会った人間の中でもトップクラスの能力値を持っている気がする。
俺はゼロムスの能力値を覗いてみた。
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ゼロムス
闘士 職業LV7
LV95
HP1456(40%)
SP406
MP0
力798(30%)
技406
速さ396
魔力0
防御625(25%)
[装備]
なし
攻撃力798 守備力625
[加護]
炎E 水E
風F 地C
聖E 魔E
光E 闇E
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凄いな...。エレンが戦ったこの国で最強の騎士と言われていた男よりも強いんじゃないのか。
「坊主。俺の能力値を見て驚いてるのか?」
「あ、すみません...。勝手に見てしまって...」
「別に構わんよ。見られて困るものではないしな。それよりも不思議なのはこの姉ちゃんだ」
ゼロムスの視線はマリスの方を向いている。
「Aランクの実力を持っているって話だが、隠蔽された能力値のせいで本当の能力値を見ることが出来ねぇんだ。それどころか隠蔽をされてる形跡すら発見出来ねぇ」
隠蔽というのは元々そういう能力なんじゃないのか? 隠蔽されてると気付かれてしまうようでは、隠蔽の意味がない。
どうする...。このままマリスの能力値のことは黙っておくべきか...。
だが、今の状況で嘘を吐くのは後々問題になってしまうかも知れない。
「あ...あの...」
「俺には隠蔽された能力値を確認出来ると解析いうスキルがある。それなのに本来の能力値が見れないということは、本当にこの能力値が真実なのか、もしくは俺の解析を越える隠蔽を持っているかだ」
意外だな...。明らかに脳筋タイプに見えるのに解析のようなスキルを持っているなんて。
「ああ! 面倒くせー! こうするのが一番早いか!」
突然ゼロムスが俺に殴りかかってきた。
この拳はヤバイ...。どう考えても食らえば確実に死んでしまう。
かと言ってこの速度では避けることも出来ない。これは死んだな...。
死を覚悟した俺の前に横から手が飛び出てきた。
「おいおい...マジかよ...」
マリスが俺の目の前でゼロムスの拳を受け止める。
力はゼロムスの方が上回っている筈なのに、その拳は完全に勢いを殺されてしまっている。
「いきなり何をするのですか? ロディ様を殺すつもりですか?」
ゼロムスが俺の前から拳を引く。
「魔法職だという話だったが、まさか魔法で防御するのではなく、素手で俺の拳を受け止めるとはな。想像以上だったぜ。まぁ、これで確実に能力値を隠蔽していることが証明されたな」
それだけのために俺に殴りかかったと言うのか? もしマリスが止めてくれなかったら、俺は確実に死んでいたのだが...。
だが、これでマリスが実力を隠していたことは気付かれてしまった。
流石に偽装している能力値でゼロムスの攻撃を止められる筈がないからな。
「ちょっと俺に付いてこい」
ゼロムスがカウンターの中へ入り奥へと進んで行く。
とにかく今はゼロムスに従うしかない。
俺達はゼロムスの後に続きカウンターの奥へ進んで行くと、地下に降りる階段がありゼロムスが階段の前に立っている。
「この階段を降りるんだ」
ゼロムスが階段を降りるのに続き俺達も地下へと降りて行く。
地下に降りると、そこには少し大きめな空間があった。
部屋の壁には木製の武器が取り付けられており、中央には円形の舞台がある。その周りには何席か椅子も置かれており、どうやらここで試合などを行うことも出来るようだ。
何故ギルドの地下にこんな空間があるのだろうか。
「そんな不思議そうな顔をすんなって。ここは俺の趣味で作らせた場所でな。普段は俺の鍛練に使うだけなのだが...」
ゼロムスは壁に掛かっていた木製の斧を手に持った。
「久し振りに強い相手と戦えそうで楽しみだ。本気で俺と戦って貰うぞ」
ゼロムスはマリスと戦うことを望んでいる。
仮にゼロムスと戦っても俺達に得ることはないと思うのだが。
「もしもその姉ちゃんが俺に勝つことが出来たら、お前達に処分を下すことはないと約束してやる」
マリスが勝てば罪に問わない。それも全く意味がわからないが、そもそもマリスが自衛以外で戦うことはエレンとの約束を破ることになる。
「ロディ様。エレン様に戦う許可を頂いても宜しいでしょうか?」
マリスはやるつもりのようだ。確かにエレンの許可さえ取れれば問題はない。
そもそも何も悪いことはしていないのに、戦いに勝てば処分なしというのは納得いかないが、今はそれしか方法がないのならマリスに託すことにしよう。
「わかった。母さんには俺から話してみるよ」
俺は思念通話を発動させ、エレンとの通話を試みた。




