第81話 虚偽の報告
ミスリルゴーレムが両腕を大きく振り上げる。
ミスリルゴーレムが腕を降り下ろすのと同時に俺は飛び上がり攻撃を回避する。
腕が地面に激突し、床が大きく砕ける。
俺は剣を振り上げミスリルゴーレムの右腕を切り付けた。
「はぁっ!」
ザックの攻撃では傷1つ付かなかったゴーレムの右腕が切断され、ズシンと地面に落下する。
「よし! 意思持つ剣ならやれる!」
続けて攻撃をしようと剣を振り上げたところにミスリルゴーレムの左拳が迫る。
「しまった!」
身体を横に剃らし拳を避けようとしたが、完全には避けきれず拳が胸に触れる。
衝撃が身体に走り少し後ろに飛ばされる。
「くっ...」
『ヒール』
直ぐに受けたダメージを回復させ体勢を建て直したところで、ミスリルゴーレムが俺に迫る。
いくら意思持つ剣の力があったとしても、モロに攻撃を受ければ一発退場もあり得る。
速さのみなら俺の方が優っているので、攻撃は全て回避するつもりで戦わなければ。
再びゴーレムの拳が迫る。
「いまだ!」
俺は飛び上がりミスリルゴーレムの拳の上に着地する。
そのまま拳の上を駆け上がり顔の目の前に立つ。
『剣強打!』
スキルを発動させミスリルゴーレムの頭目掛けて剣を降り下ろす。
「これで終わりだぁ!」
剣はミスリルゴーレムの頭を切り裂きそのまま身体に浸入する。
真っ二つに切断されたミスリルゴーレムは左右に別れ地面に倒れる。
切断面からミスリルゴーレムの内部が見えるが、身体の半分以上がミスリルの素材で出来ている。
これはかなりの量のミスリルが手に入ったんじゃないだろうか。
「ロディ。凄かったなぁー」
ヘクトルが俺の方に小走りで向かってくる。
「うん。この剣は本当に凄い剣だよ」
ミスリルゴーレムの身体を切断したというのに、意思持つ剣には刃こぼれ1つない。
「ロディ様。お見事でした」
マリスが笑顔で俺に近付いてくる。
ザックのあれだけ無力な姿を見てしまったので、マリスの言葉がなければミスリルゴーレムと戦おうとはならなかったかも知れない。
「ロディ。お疲れ様。身体は大丈夫?」
「うん。一応自分でも小回復なら使えるようになったからね」
正直俺の小回復では受けたダメージに回復量が追い付いていない。
まぁ、少し身体が痛いくらいのレベルだからどうってことはないが。
「あの人達酷いよね...あんな冒険者も居るんだね...」
ミラが悲しそうな顔をする。
あの人達というのは〖夜月〗のことだ。
冒険者=善人という訳ではない。金の為ならどんなことでもする連中もいるだろう。
「〖夜月〗のことはギルドに報告しよう。これだけのことをしたんだ。重い処分を受けることになる筈だ」
奴等が俺達のことをどうギルドに報告しているかはわからないが、ミスリルゴーレムに殺されたと報告していた場合は、俺達の生存が奴等の嘘を暴く証拠になる。
「でもどうやってここから出るんだ? あの姉ちゃんの魔法で道が完全に塞がってるぞ」
崩れた天井により帰り道は塞がれてしまっている。
他に進める道はなく、この状況を何とかする以外に鉱山から出る方法はない。
「私が魔法で吹き飛ばしましょうか? 収束させて放てば鉱山にダメージを与えることなく、邪魔な物だけを排除することが出来ますよ?」
エレンとの約束で攻撃魔法は使わないことになっている。
戦闘で使う訳ではないので問題はないかもしれないが、出来れば使わせたくはない。
というかあの道を塞いでいる鉱山の欠片がミスリルゴーレムより頑丈な訳がないよな。
「いや。魔法は待ってて。ちょっと試してみるよ」
討伐したミスリルゴーレムを異空間収納袋へ収納した後、俺は崩れた天井の前に立ち意思持つ剣を振り上げた。
「はあっ!」
振り下ろした剣が塞がれてた道を切り開く。
二振り三振り。人1人が余裕で通り抜けられるスペースが完成する。
「よし。これなら十分だろう。皆、ここを抜けて入り口へ戻ろう」
全員俺が切り開いた道を通り入り口を目指す。
帰り道で魔物に遭遇することはなく、最短で入口へと戻ることが出来た。
鉱山の入口から外へ出ると、来た時に言葉を交わしたギルド職員が俺達を見て、かなり険しい顔をしている。
「あなた方はギルドの定める規定に背きました。当ギルドの方から処罰が下されるでしょう」
一体どういうことだ? 規定に背いたのは明らかにザック達の方だ。
「全く心当たりがないのですが、あの3人は俺達のことを何と言っていたのですか?」
「...報酬を渡さなくても良いように、そちらの女性が突然攻撃魔法を放ってきたと言われたのですが、事実ではないのですか?」
ギルド職員はマリスの方を指差す。マリスが突然ザック達を攻撃したと伝えたようだ。
もしかしたらザックは意外に頭がキレるのかも知れない。
あの一瞬でマリスの力を知ったことにより、マリスがミスリルゴーレムを討伐してしまう可能性も考慮しての行動だろう。
「違います! 攻撃をしてきたのはザックさんの方で、俺はいきなり後ろから切られたんです!」
「...聞いた話しとは真逆ですね。確かにCランクのザックさんがEランクの女性を相手に逃げるのはおかしな話だとは思いましたが、ザックさんはそちらの女性が明らかに力を隠していると仰っていました」
マズイな...。確かにマリスが実力を隠しているのは真実だ。
嘘を言っているのは間違えなくザックの方だが、それを証明する手段がない。
「マリスは本当に攻撃魔法を使ったりはしていません!」
本当にマリスが攻撃魔法を使っていれば、あの3人は既にこの世界に存在していないだろう。
「私達では判断をすることが出来ません。取り敢えずはギルドに行き今言ったことををお話し下さい」
どうせギルドにも既にザック達の話が伝わっていることだろう。
どうすれば嘘だと証明することが出来るかわからないが、ギルドに真実を伝えるしかない。
「わかりました...」
俺達は重い足取りでマロウ鉱山を後にしスタンリスへと向かった。




