第8話 捕らわれのロディ
兵士達3人に取り押さえられて身動きが全く出来ない。
そんな俺をヘクトルとミラが心配そうな顔をしながら見ている。
「スフィーダ様。この男はどう致しますか? この場で処刑しますか?」
俺を捕らえる様に指示を出した神官はスフィーダと言うらしい。もしもこの場でスフィーダが処刑の指示を出せば間違えなく俺の命は尽きてしまうだろう。
「魔族のスパイの可能性もある。処刑するのは尋問をして色々と聞き出した後だ。取り敢えず牢に連れて行け。私は陛下に報告に行く」
「こちらの子供2人はどうしますか?」
子供2人。ヘクトルとミラのことだ。あの2人は俺が魔族の血を引いていることなんて一切知らない。何せ俺自身も知らなかったことだ。
俺のせいで2人まで捕らえられることになれば、俺は2人にどう詫びれば良いのだろうか...。
「その2人は魔族の少年とは関係ない。恐らく自分が魔族だということを隠して親しくなったのだろう。卑劣な魔族の考えそうなことだ」
「ロディ。お前が魔族だとしても俺とお前は友達だぜ!」
ヘクトル...そう、コイツはバカだけど本当に良い奴だ。今だって魔族だと言われている俺のことを友達と言ってくれている。
「ロディ...」
ミラは俺が魔族の血を引いていると知り、ショックは受けている様だが、俺を怖がる様な素振りは見せていない。
「魔族と友達だと? それを本心から言っているのであれば、お前に罰を与えねばならんが良いのだな?」
このままではヘクトルやミラにまで迷惑が掛かってしまうかも知れない。
ここで俺が取るべき手段は...。
「ヘクトルもミラも今まで騙してて悪かったな! 俺はお前達のことを利用していただけで、友達だと思ったことなんて一度もない!」
胸が痛む...。だが、今の俺にはこれ以外に出来ることが思い浮かばなかった...。
「ロディ...」
2人ともかなりのショックを受けているようだ。ミラに関しては今にも泣き出しそうな顔をしている。
「やはり魔族は忌むべき存在。さっさと牢に連れて行くのだ! お前たちも天礼は終わったのだ。早く村に帰るが良い」
兵士2人が俺の両腕を掴みどこかへ連れて行こうとする。
ヘクトルとミラはそんな俺を、部屋の外に連れて行かれるまでじっと見ていた。
兵士達に連れて行かれた場所は地下に降りる階段の前だった。
階段を降りる様に指示をされ、降りた先は地下に広がる牢屋だった。
辺りは暗く、各牢の入り口1つ1つに小さな蝋燭が1本づつ立てられているだけで、視界はかなり狭い。
兵士に連れられて奥へと進んで行くが、殆どの牢は人の気配がなく、捕らえられている人間は居ないようだ。
「ここに入れ!」
兵士が1つの牢を開けると俺は牢の中に突き飛ばされた。
突然突き飛ばされて身構えることも出来なかった俺は、牢の床に身体を打ち付けてしまった。
「痛てっ!」
「直ぐに見張りの兵士と尋問官が来るからな。下手なことは考えない方が身のためだぞ。まぁ、どっちにしろお前が死ぬことに変わりはないが、少しでも長生きしたいだろう」
そう言うと兵士達は牢の鍵を閉めてその場から去って行った。
入口の蝋燭の灯りを頼りに牢の中を見渡すが、牢の中には硬そうなベッドが1台置かれているだけで、他には何もない。
どうせ殺されるなら脱走をと考え、牢の鉄格子が曲げられないかと両手で握り、おもいっきり引っ張ったがピクリともしない。
当たり前だ。素手で牢から脱出出来る様では牢の意味がない。
脱走をするチャンスがあるとすれば、誰かがこの牢を開けたその一瞬しかない。
今は何も出来ることがないので、ベッドに横になるがやはりとても硬い。
まるで石の上にでも寝ているかの様な感覚だ...。
現実世界で殺されて、この世界に転生して俺はまた殺されるのか? そんなのゴメンだ...。次に殺されたらまた転生するという保障もない。
現実世界と合わせて彼女居ない歴37年の俺なら魔法使いになっていても良いんじゃないか? 今欲しい魔法は牢の鍵を開ける魔法だけで良い。
MPはあっても魔法が使えないとか意味がない...。
待てよ? 天礼を受けた今の俺は4つの職業になることが出来る筈だ。
その職業の中にこの牢から脱出する為のスキルや魔法が使える職業はないのだろうか...。
...ないだろうな...。俺が就ける職業は勇者、魔王、旅人、遊び人の4つだけ...。
この4つの職業の中に牢を脱出出来る方法があるとは思えない。
しかし物は試しだ。勇者と魔王に関しては慎重に考える必要があるが、他の職業なら今選んでも問題がない気がする。
取り敢えず無難に旅人になってみるか...。俺はベッドの上で身体を起こした。
「職業決定旅人」
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ロディ
旅人 職業LV1
LV1
HP200
SP100
MP80
力81(1%)
技92(2%)
速さ92(2%)
魔力70
防御70
[装備]
なし
攻撃力81
守備力70
[加護]
炎D 水D
風D 地D
聖D 魔D
光S 闇S
[スキル]
地図作成
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[地図作成]一度歩いた場所を地図として記憶することが出来る。記憶した地図は頭の中で思い浮かぶだけではなく、紙などがあれば転写することも出来る。
くぅ...冒険では役に立つかも知れないが、今の状況では全く使えないスキルだ。
何せ今の俺が行動出来る範囲は歩いて3.4歩程の空間しかない。
これだけの範囲ならスキルに頼る必要は全くない。
遊び人になるのは抵抗があるので、諦めて俺は再びベッドの上で横になった。
暫くするとこの牢に近付いて来る足音が聞こえてきた。
足音の数は複数で、少なくとも3人以上なのは間違えない。
足音が牢の直ぐ前まで近付くと、人の姿を確認することが出来た。
おそらく兵士が3人。それにもう1人...。スキンヘッドで、かなりゴツい身体に右手には鞭を握っている。
何だろう...。凄く嫌な予感がする...。スフィーダが尋問をすると言っていたが、拷問の間違えじゃないよな...。
俺は明らかにヤバそうな男の姿を見て、恐怖を覚えていた。