第78話 臨時パーティー
「そうですが...」
「やっぱりそうか。それを持っているってことは意思持つ剣を抜くことが出来たってことか?」
「はい。ミスリルゴーレムを討伐する為にファヴァルさんから借りたんですけど、俺達のパーティーじゃ依頼を受けることは出来なかったです...」
Bランクの依頼を受けるためにはリーダーである俺がDランクにまで昇格する必要がある。
今がEランクなので後1段階上がればDランクになることが出来るが、流石にそれを待っている時間はない。
「ミスリルゴーレムねー...確かに意思持つ剣があれば討伐はかなり楽になるだろうな」
いくら討伐が楽になると言っても鉱山内に入れなければ話にならない。
「ちょっと待ってろよ」
男は少し下がり自分の後ろにいた2人の男女に何やらボソボソと耳打ちをしている。
格好を見る限り2人も冒険者で、この男のパーティーメンバーといったところだろう。
話も終わったようで再び男が俺の前へと立つ。
「良かったら俺達と臨時パーティーを組まないか? そっちは4人みたいだから、俺達と合わせても7人で人数的には問題ないぞ。ちなみに俺の名前はザック。Cランクの冒険者だ」
確かにこの男がCランクならAランクの依頼まで受けることが出来る。
だが、Cランクの人間が俺達のようなEランクの人間とパーティーを組んだ場合、流石に報酬を平等にという訳にはいかないだろう。
まぁ、俺としてはミスリルが欲しいだけなので報酬は必要ないのだが、肝心なのはこの依頼内容だ。
[Bランク依頼]マロウ鉱山に出現したミスリルゴーレムの討伐及びに、そのミスリルゴーレム討伐時に入手したミスリルの提出。
[報酬]提出したミスリル10キロにつき1万コル。
この内容を見る限りでは討伐自体には報酬はなく、提出したミスリルの量で報酬が変動するとある。
手に入れたミスリルを全て提出してしまっては手元に残らなくなってしまう。
依頼の報酬で買うことが出来るとは思うが...。
「俺達は全員がEランクのパーティーですけど良いんですか?」
「問題ないぞ。俺達でもミスリルゴーレムの討伐は可能なんだが、強力なスキルや魔法を使用した場合、まともに使える素材が少なくなってしまうからな。その点意思持つ剣を使えるお前がいれば、ほとんどの素材を無駄にすることなく手に入れることが出来る筈だ」
強力な攻撃魔法などでミスリルゴーレムを討伐した場合、素材が使い物にならなくなることが多い。
仮にマリスが全力の魔法でも放とうものなら、ミスリルゴーレムが粉々に砕け散り素材がその場に残らないことも全然有り得るだろう。
素材のことを考えるなら物理攻撃で討伐するのが一番だ。
「実はミスリルを手に入れてファヴァルさんに剣を作って貰いたかったのですが、この依頼内容だと手に入れたミスリルは全てギルドに提出しなければいけませんよね?」
「剣を作るのに必要なミスリルなら大剣でも10キロもあれば充分だろ? コッソリ10キロだけ確保してから残りをギルドに渡せば良いと思うぞ?」
ファヴァルは剣を作るのに必要なミスリルは2万コル必要と言っていた。
それが大剣なのかはわからないが、仮に大剣で2万コルだとしてもギルドに提出で貰える報酬は10キロで1万...半額だ。
それならギルドに提出せずに独自に売った方が明らかに儲かるだろう。
鉱山の入り口でギルド職員が見張っているとしても、異空間収納袋を使えば気付かれず、簡単にミスリルを運搬することが出来る。
だが...そういう不正行為みたいなことはしたくないのが本音だ。
「あまりギルドに嘘を吐くようなことはしたくないんですよね...」
「そうか...だったら少し待ってな」
ザックが受け付けカウンターの方に歩いて行く。
カウンターに立つ職員と話をしているが、何を話しているかここまでは聞こえてこない。
「おい。ちょっとこっちに来てくれ」
ザックが俺の方に視線を向け、カウンターまで来るように手招きをする。
俺は呼ばれるままにザックの元へと歩く。
「今の話をコイツにもしてやってくれ」
「わかりました。ミスリルゴーレム討伐の素材のことですが、鉱山の持ち主でもある依頼主のマロウ様から、入手した1割のミスリルまででしたら討伐者が自分の物にしても良いとの話を聞いております」
なるほど鉱山の持ち主が依頼を出していたのか。
1割ということは手に入れたミスリルが100キロあれば、10キロは提出しなくても良いということだ。
ミスリルゴーレムと言っても内部までが全てミスリルという訳ではない。
個体差があるが、外側に薄くミスリルが張り付いているだけなら、とても100キロにはならないだろう。
「どうだ? 提出しなくても良い分は全てお前達が持っていっても良いぞ? もちろんその分は報酬から引かせて貰うけどな。もしやるなら報酬は2パーティーで均等に半分にするってことでどうだ?」
元々俺達だけでは鉱山に入ることは出来ないし、Cランクのパーティーと組んで報酬は均等なら悪くない提案だ。
「それならぜひお願いしたいのですが、パーティーのメンバーにも聞いてみますね」
俺は3人の元へ行きザックからの提案の話を伝えた。
ヘクトルとミラは俺に任せると言ってくれたが、マリスは浮かない顔をしている。
「マリスは何か気になることがあるの?」
「いえ、ロディ様がそうされたいと思うなら私も従います。ただ、見知らぬあの男を全て信じるのは危険かと思われます。用心なさって下さい」
後から報酬の分配に付いてゴネるかも知れないということか。
正直ミスリルが手に入れば報酬はどうでも良いので、ザックに多く渡しても良いとは思っている。
金だけならまだしも、ガラムの時のように信じて裏切られることもある。マリスの言うように用心をしておくに越したことはないな。
「わかった。忠告ありがとうマリス」
再びザックの元へ戻りパーティーを組むことを受託する。
全員が集まり一時的な合同パーティー結成の申請をすると、7人それぞれが軽く自己紹介を済ませ、マリスは戦闘に参加をしないことも伝える。
ザックのパーティーは3人でパーティー名は夜月。メンバーは剣士のザック。戦士のバーツ。それから魔導師のジェニーだ。
3人全員がCランク冒険者で、バーツはスキンヘッドにムキムキの筋肉をした明らかに脳筋タイプの槍使い。
ジェニーは金髪ロングで露出の多い衣装をした巨乳が目立つお姉さんといった感じだ。
本人いわく炎属性の攻撃魔法が得意らしい。
ミスリルゴーレムとの戦闘では基本的に残りのメンバーが援護に回り、俺が止めを刺すという役目だ。
「それじゃあ早速今から鉱山に向かうとするか」
「わかりました」
俺達7人の臨時パーティーはミスリルゴーレムの討伐に向かうため、スタンリスを後にした。




