表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/120

第75話 名工

「こっちは腹を空かせて待ってるっていうのに、どれだけ待たせれば気がすむんだい!」


「ゴメン...依頼が長引いちゃって...」


「だったら連絡くらいすれば良かったじゃないか。何の為に魔王になったんだい!」


 おそらくエレンが言っているのは思念通話(テレパス)のことだと思うが、別に思念通話(テレパス)を覚える為に魔王になった訳ではないのだが...。


 だが、確かにエレンには思念通話(テレパス)を使って遅くなることを伝えておくべきだった。


「エレン様。申し訳ありません。今直ぐにお食事を用意しますね。今日はとっておきのワインをご用意しますから」


 マリスが駆け足で台所へと向かう。


 ワインの話を聞いて若干エレンの顔から怒りが引いた気がする。


「本当にゴメン。今度から遅くなる時はちゃんと連絡するから」


 連絡をしたとしてもエレンが自力で食事を作れるとは思えないが...。


 産まれてから1度もエレンが家事をしている姿を見たことがない。





 マリスが姿を消してから20分程が経過すると料理の方が完成したようだ。


 かなり早い時間だが、出来上がった料理に手抜き感は全くない。


 エレンの席の前には高級そうなビンに入ったワインが置かれている。


 前世で1度だけワインを飲んだことがあるが、クソ不味くて1口飲んだだけでそれ以上飲むことが出来なかった。


 安物のワインだったからなのかはわからないが、今後2度と飲むことはないだろうと思った記憶がある。


 元々酒自体があまり好きじゃないのもあり、酒を飲むくらいならジュースを飲んでいた方が全然良いという考え方だ。


 一応こっちの世界では15歳から成人扱いとなり、酒も解禁となるのだが全く飲もうという気持ちにはならない。


 食事が始まるとエレンが真っ先にグラスにワインを注ぎ口を付ける。


「確かにこれは良いワインだね」


 エレンはご満悦のようだ。


 剣のことを聞くならこのタイミングが良いかも知れない。


「ねぇ、母さん。これからは剣を使って戦っていきたいと思ってるんだけど、どこかに良い剣はないかな?」


「剣? まぁ私ならどんな剣を使おうが問題はないけど、確かにあんたの実力ならその辺りに売っている剣じゃ厳しいだろうね」


 エレンと比べられても困る。


 自分で言うのも何だが、レベルの割にはかなり強い能力値(ステータス)だと思う。


「それでどんなタイプの剣を使おうと思っているんだい?」


 一口に剣と言っても様々な種類がある。


 一般的によく使われる片手剣から基本的には両手で扱う大剣。基本的にはというのは大剣を片手で振り回すような猛者も居るからだ。


 それから俺の元居た世界にあった刀のように片方にしか刃が付いていない剣。


 レイピアと呼ばれ斬撃ではなく突きに特化した剣。通常の剣に比べるとかなり軽くなっており、速さを生かして戦う人間などに好まれる。


 他にも様々な剣があるが、主に使われているのはこの4種類くらいだ。


「最終的に闇の剣(レーヴァテイン)を使うことを考えると、片手剣が良いかなーって」


「片手剣ねー。だったらミスリル製の剣とか良いと思うけど?」


 ミスリルで作られた剣は鉄よりも強度が高いくせに鉄よりも軽く、その切れ味は鉄製の剣を遥かに上回る。


 ただその分値段も相当高価な代物になる。


 パントからの報酬の1万コルだけでは全然足りない筈だ。


「ミスリルの剣、良いとは思うけど流石に買うだけのお金は足りないかな...」


「アンタいくら持ってるの?」


 パーティーの為にプールしてある金を計算に入れることは出来ない。


 あくまでも自分の持っている個人的な金だけとなると...。


「12000コルくらいが限度かな...」


「それだけあるなら何とかなると思うよ。スタンリスに住んでいるファヴァルのことは知ってるかい?」


 スタンリス。テベルから西に1時間チョイ歩いた所にある街だ。


 この街には有名な鍛冶師の男が住んでいる。


 男の名前はファヴァル。ファヴァルの作る武器を求めてラウンドハール中から人々がやってくるという。


 ファヴァルはかなりの変わり者で、自分が気に入らない相手にはどれだけの大金を積まれても武器を打つことはないと聞く。


 と言っても噂で聞いただけで、俺自身は会ったこともなく、実際にどんな人物なのかもわからない。


「有名な鍛冶師だよね? 噂だけは聞いたことがあるよ」


「ファヴァルの所に行って剣を打って貰うと良い。エレンの息子だと伝えれば1万コルでも受けてくれる筈だ」


 それだけの名工にミスリル製の剣を打って貰うとなれば最低でも、その10倍くらいの価格はする気がするのだが本当に大丈夫なのだろうか。


 エレンの息子だと伝えればって条件があるのなら何かあるのだとは思うが...。


「ありがとう。近い内にファヴァルさんに会いに行くよ」


「それじゃあ早速明日にでも行って来なよ。スタンリスにも冒険者ギルドはあるし、あっちで依頼を受ければ良いよ」


 明日はクレイアに行き、ヘクトル、ミラと一緒に何か依頼を受けるつもりだったが、スタンリスで受けても特に問題はないだろう。


「わかったよ。明日はスタンリスに行くことにするよ」


異空間収納(マジックストレージ)


 突然エレンが魔法を使用する。目の前に歪みが出来るとエレンがその中に手を入れる。


 エレンが手を引き抜くと1本の剣が握られていた。


 何か禍々しさを感じる剣だ。


 おそらくエレンが使った魔法は異空間収納袋(マジックバッグ)の魔法版といったところだろう。


 普通なら驚くところかも知れないが、エレンがどんなことが出来たとしても俺が驚くことはない。


「この魔剣をファヴァルに渡して貰っても良いかい? 修復を頼みたいんだ」


 何故だろうか...勇者だというのに不思議とエレンには魔剣が似合っている。


 俺はエレンから受け取った魔剣を異空間収納袋(マジックバッグ)へと収納した。


「修復作業に掛かるお金は?」


「ああ、そうだったね」


 エレンが俺に100コルを差し出す。


 名の知れた名工に修復作業を依頼して100コルとか、舐めてるとしか思えないのだが。


「それじゃあ私は部屋に戻るから後は宜しくね」


 食事が終わったエレンは自分の部屋へと向かう。


 エレンに少し遅れて食事を終わらせた俺も、マリスに明日の予定を伝え自分の部屋へと向かう。


 自分の部屋へ戻るとそのままベッドへダイブする。


「今日は疲れたな...」


 初めてのソロ依頼。シュトラウスとの戦い。疲れ切っていた俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ