第74話 始祖
「ローゼンブルク城を出る時に感じた大きな魔力。あの魔力がマリスが言ってたロックウェルの魔力なの?」
「いえ。ロックウェルの魔力はあんなものではございません。ロディ様は吸血鬼の始祖をご存じでしょうか?」
吸血鬼の始祖。全ての吸血鬼達の始まりと言われている存在。
不死の肉体を持っているということなので今もこの世界のどこかで生きているだろう。
その力は魔王や勇者をも越えると言われている。
「一応その存在は聞いたことはあるけど、まさかロックウェルが吸血鬼の始祖なの?」
吸血鬼の始祖の話は聞いたことがあるが、その名前は聞いたことがない。
ここ数百年は表舞台にも姿を現していないみたいだし、今現状、何をしているのかも全くわからない。
「いいえ、違います。始祖の直系の血族と呼ばれる3人の吸血鬼がいるのですが、ロックウェルはその内の1人なのです」
要するに始祖にもっとも近い存在ということか...。
それならばローゼンブルク城で感じた魔力よりももっと強い魔力を持っていたとしても頷ける。
「マリスはロックウェルのことに関して詳しいのかい?」
「はい。過去に何度か戦ったことがあります」
何度もマリスと戦っているのに生きている。それだけでロックウェルが物凄い力を持っているとわかる。
「おそらく過去にあの城に住む人間が全滅したのは、ロックウェルの力によるものでしょう。何故、そのようなことをしたのかはわかりませんが、もしかしたらあの城には何かあるのかも知れません」
魔力は明らかに城の下から感じられた。
ということは、あの城の地下に何かがあるということだ。
流石に吸血鬼でも何もない土の中に埋まる趣味はないだろう。
「あの城の地下には何かがある。そしてその地下にはロックウェルやシュトラウスと関係のある吸血鬼が存在する。多分そういうことだよね?」
「ロディ様のお考えの通りだと思います」
シュトラウスよりも遥かに強い魔力。今の俺が城の地下を探索したところでその存在に遭遇すれば殺されるだけだ。
とは言ってもこのまま放っておく訳にもいかない。
ローゼンブルク城の地下に何かがあって、おそらく強力な力を持つ吸血鬼が居るであろうことをギルドには報告しておこう。
SランクやAランクで組んだパーティーなら討伐することも出来る筈だ。
「今はまだ勝てない相手ばかりだけど、いつかはどんな相手とだって戦えるくらい強くなりたいな...」
「ロディ様なら必ずなれますよ」
「俺が父さんと母さんの子供だから?」
「ロディ様がロディ様だからです」
マリスがニッコリとほほ笑む。
何の根拠もないがマリスに言われると不思議となれる気がしてくる。
トゥリアを出発してから2時間程経過しただろうか。すっかり日が落ち辺りは暗くなってきている。
「そういえばあの貴族との決闘で剣を使っていましたが、今後は剣を使って戦う予定ですか?」
ユニークスキルのお陰で素手でも充分戦うことは出来るが、流石にそろそろ剣を使うことにもなれていく必要がある。
闇の勇者を引き継ぐには闇の剣を使いこなせるようにならなければいけない。
アルフレッドとの決闘で使った剣は持ち主に返したし、自分用に剣を用意するか。
その辺で売っているような安物の剣を使うよりは素手で戦った方が強い。折角なら今よりも強くなれる剣を手に入れたい。
剣のことならエレンに聞いてみるのが一番良いかも知れない。帰ったら聞いてみよう。
「うん。それなりに強い剣を手に入れたいな。今後は剣の腕も磨いていかないとね」
「魔剣で宜しければ差し上げますが?」
「いや...大丈夫だよ」
別に問題はないのだが、流石に勇者が魔剣を装備するのはちょっと...。まぁ、俺からすれば闇の剣も魔剣のような物なのだが。
歩き続けていると目の前にクレイアが見えてきた。
夜だということもあり城の入り口は4人の兵士によって警備されている。
俺達は兵士にギルドカードを見せてクレイアの中へ入ると、冒険者ギルドへと向かった。
ギルドに着き中へ入ると、夜だというのにギルド内は賑わっていた。依頼を終えて戻ってきた冒険者達が多いのだろう。
受け付けカウンターで1人空いている職員が居たので、俺達はその職員の前へと向かった。
20代前半くらいの女性職員だが、このギルドで初めて見る気がする。夜勤専門の職員なのだろうか。
「パント男爵の依頼を達成したので報告に来たのですが、パント男爵から連絡はありましたか?」
「ロディさんですね。パント様より報告を受けています。ギルドカードの方をお願いします」
俺がギルドカードを差し出すと職員がチェックをする。
「間違えありませんね。こちらが今回の報酬になります」
カウンターの上に1万コルが置かれる。
何もしなくても半年間くらいは生活出来る金額だ。
「ありがとうございます。今回の依頼とは別に少しお話ししたいことがあるのですが」
「一体何でしょうか?」
俺はローゼンブルク城の地下に何かがある可能性が高いこと。
そこに強力な吸血鬼が居る可能性が高いことを伝えた。
俺の言ってることをあまり深く受け止めてはいないのか、女性職員は特に慌てている様子もない。
「わかりました。ギルドマスターに報告しておきますね」
「お願いします」
女性職員にローゼンブルク城のことを伝えた俺達はギルドを後にした。
そのままクレイアを出てテベルへと向かう。
「かなり遅くなっちゃいましたね。エレン様が怒っていないと良いのですが...」
いつもの夕食の時間はとっくに過ぎている。エレンが怒ってない筈がない。
「マリス...テベルまでの転移門を頼んでも良いかな?」
「わかりました」
極力転移門には頼らないつもりでいたがこの状況なら別だ。一刻も早く帰らなくてはエレンの怒りメーターがドンドン上昇していってしまう。
マリスがテベルへ繋がる転移門を開くと、俺は直ぐに転移門へと飛び込んだ。
「遅い!」
転移門を抜けた先には不機嫌な顔をしながら立っているエレンの姿があった。