第68話 ローゼンブルク城
ローゼンブルク城はこの街から徒歩で1時間くらいの距離にある。
昔に流行ったという病が原因なのか城の周りの生態系には変化があり、植物などは全て枯れてしまっているという。
流石に今は近付いたとしても身体に害があることはないと思うが、あまり近付きたい場所ではない。
「マリスはローゼンブルク城に行ったことはあるかい?」
「いえ。ありません」
普通に生活をしている分にはあんな場所に行く機会なんてない。
正確に城の場所を知っている訳ではないが、まぁ行けばわかるだろう。
マリスと2人で南東に向けて歩き出す。
1時間近く経過すると明らかに周囲の地形に変化が見てとれた。
草木は枯れ、地面は干上がったようになってしまっている。
病が影響でこれだけの変化をするものだろうか。
そもそも過去に城の人間が全滅したことも本当に病が原因だったのかどうかも謎だ。
「これは...ひょっとして...」
マリスはこの光景に何か引っ掛かるものがあるようだ。
「どうしたんだい?」
「いえ...何でもありません。あの城がローゼンブルク城のようですね」
マリスが指差した先には古ぼけた1つの城があった。
30年以上放置されていたこともあり、外観はかなり汚れてしまっている。
「あの城の中にリーリエと吸血鬼が...」
城の前まで着くと突然入口の門が開く。
「ロディ様。どうやら私達の存在が気付かれているようです」
開いた門から多数の魔物が出てくる。
体長50㎝くらいはあるコウモリの姿をした魔物。おそらくジャイアントバットだ。
攻撃力自体は大したことないが動きは中々素早いと聞く。吸血能力を持つ魔物で、血を吸うことで自らのHPを回復させることが出来る。
1.2匹に血を吸われたくらいなら何てことはないが、あれだけの数に吸われれば確実に出血多量で死んでしまう。
一度に襲われないように気を付けながら確実に数を減らしていかなければ。
正確な数はわからないが、おそらく20匹チョイだろう。
先ずはこちらに近付く前に数を減らすことにしよう。
『火球 』
密集していたジャイアントバット達が、俺の放った魔法を避けるために左右に広がる。
「キシャァァァ!」
中央に集まっていたジャイアントバット達が魔法に巻き込まれて燃え上がる。
俺は直ぐ様右側のジャイアントバットに接近して拳を握り締める。
「はぁぁぁ!」
拳はジャイアントバットを捉えると、ジャイアントバットが地面に叩き付けられる。
速いことは速いが捉えられない速さではない。耐久面は弱いようでワンパンで倒すことが出来るようだ。
そのまま次々とジャイアントバット達を殴り続けていると、5分程で右側のジャイアントバット達を全滅させることが出来た。
左側のジャイアントバット達が一斉にこちらに向かってくる。
『闇の弾丸』
魔法は直線上に並んでいたジャイアントバット3匹を貫いた。
残りの数は5匹。2匹と3匹に分かれ両サイドから襲い掛かってくる。
「やばっ...」
右側から襲い掛かってきた3匹は全て殴り落とすことに成功したが、左側から襲ってきた2匹が俺の左腕と左足に噛み付いた。
「痛っ...」
血を吸われている感覚だが、不思議な感覚だ。噛み付かれた瞬間は痛みがあったが、今は力が抜けていくような感覚がある。
「このっ!」
左腕を大きく上げて勢い良く下に降り下ろす。
腕のジャイアントバットが離れて、そのまま足に噛みついていた方のジャイアントバットに当たり、2匹は地面へと落下する。
そのまま2匹を踏み潰すと、直ぐに左腕と左足の方に向けて右手をかざす。
『小回復』
覚えたばかりの回復魔法を使って傷口を治療する。
ジャイアントバットに噛み付かれた傷口は塞がったが、マリスに掛けてもらう回復魔法とは全く違う感覚だ。
マリスの回復魔法は掛けられた時に暖かい光に包まれ気持ちが良いと感じるが、自分が使った回復魔法はただ傷口が塞がっただけだ。
ミラの回復魔法もマリス程ではないが、暖かさを感じることが出来る。
魔力の問題なのかとも一瞬考えたが、ミラよりも俺の方が魔力は高い筈だ。
まさか女性は良い匂いがする的なやつが回復魔法にもあるのか? 確かに今まで男性から回復魔法を受けたことはなかったが...。
「ロディ様。大丈夫ですか?」
戦闘が終わるとマリスが俺の元へ近付いてくる。
「ああ、大丈夫だよ。何か初めて回復魔法を使ったんだけど、マリスが掛けてくれる魔法とは全然違ったんだよね...。暖かい感じも全くなかったし...この違いは何なのかな?」
「それはロディ様への愛ですよ。私の愛がロディ様への魔法にも影響を及ばしているのです」
マリスが笑顔で冗談っぽく言う。流石に本当にそんな訳はないと思うが...。
仮にもし、それが本当だとしたらミラが俺のことを愛していることになる。
「取り敢えずはそういうことにしておくよ。それよりももう魔物は現れないみたいだね」
城の門は開いたままになっているが、そこから何かが出てくる気配はない。
「そうですね。ただし、こちらの存在は確実に気付かれていると思いますので、奇襲を掛けたりするのは無理だと思われます」
存在に気付かれていなければ卑怯かも知れないが、背後から襲うことも出来たかも知れない。こちらの存在に気付かれている今となってはそれも叶わないだろう。正面から戦い打ち倒すしかない。
「中に入ろう」
俺達は入口の門を抜けて、城の敷地に足を踏み入れる。
周囲の地形同様、城の敷地内も植物は枯れて地面がひび割れてしまっている。その惨状は城の周囲よりも強く感じるものだ。
病が原因でこんなことになるとはとても思えない。何か他に原因があったのだろう。
ただ今はそれに付いて考えている場合ではない。
建物の入口らしき場所を見付けて中へと入る。
建物内は荒れていて誰かが住んでいるような形跡は全くない。
「あちらの方から魔力を感じます。この魔力は普通の魔物のものではありません。おそらく吸血鬼の魔力でしょう」
マリスの指を指した先には大きな扉がある。
俺達は扉の前まで移動をした。
「この中に吸血鬼が...」
部屋の中へ入れば吸血鬼との戦闘になるだろう。
激しい戦闘になる可能性が高い。もしもリーリエが一緒に居た場合、リーリエのことはマリスに任せれば良いが、出来れば別の場所に居てくれた方が助かる。
そんなことを考えながら扉に手を掛けて押し開くと、その願いは直ぐに打ちのめされることとなった。
部屋の中には玉座に座る男の姿があり、その男の足にすがり付いている裸の少女の姿もあった。




