第66話 適正ではない依頼
勇者の職業レベルが2になったことでスキルと魔法が1つづつ増えているようだ。
〖防御破壊〗
このスキル自体ではあまりダメージを与えることは出来ないが、相手の防御力を下げることによって、その後の攻撃で与えるダメージを上昇させることが出来る。
固い相手にはかなり有効になるスキルだ。
俺がこのスキルを使った後に邪悪の斧を使ったヘクトルが全力で攻撃すれば、かなりのダメージを与えることが出来る筈だ。
〖小回復〗
小回復に関しては既にミラとマリスが使えるため、そこまで重要ではないように見えるが、単独で戦う状況になれば自ら回復をさせながら戦うことが出来るため、戦い方の幅が広がるだろう。
魔物との戦闘が終了したことだし再びトゥリアへ向けて歩き出す。
暫く歩いていると前方に大きな街が見えてきた。
あの街がトゥリアだ。トゥリアに来るのは1年振りくらいだろうか。
「やっと着いたね。大丈夫? マリスは疲れてない?」
「はい。昔は10時間以上歩き続けることもありましたから。しかもロディ様がご一緒なのでしたら何日でも歩き続けられますよ」
普段のマリスを見ていると忘れがちになってしまうが、体力も俺なんかとは比べ物にならない程ある筈だ。
それこそマリスの口から「疲れた。もう歩けない」という言葉が飛び出すことはあり得ないだろう。
「街に入ったらパント男爵の屋敷に向かおう。そこで詳しい依頼の話を聞ける筈だから」
「ロディ様。1つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「一体どうしたんだい?」
「依頼を受けられた時のロディ様がいつもと少し違った気がしたので...。この依頼は何かロディ様に取って特別な依頼なのかと思いまして」
特に表情に出していた訳はないのだが、マリスは何かを感じとったようだ。
「リーリエという娘は昔、俺に優しくしてくれた娘なんだ。リーリエが危ない目にあっているのであれば、依頼とか関係なしにでも助けてあげたいと思ってさ」
俺の話を聞いたマリスがニッコリと微笑む。
「そうだったんですね。私もロディ様のお力になります。必ずこの依頼を成功させましょう」
トゥリアの入口に向かうと1人の警備兵が入口に立っていた。
鎧を着こみその腕には槍が握られている。
「トゥリアの街にはどのような用件でしょうか?」
「クレイアの冒険者ギルドで、パント男爵の依頼を受けて来ました」
「貴方たち2人がですか?」
警備兵が俺達を見て少し呆れたような顔をする。
「正確にはこっちの彼女はただの付き添いで、依頼を受けたのは俺だけです」
「ふぅー...」
警備兵が深いため息を吐く。
「ちなみに貴方の冒険者ランクは何ですか?」
「Eランクですが...」
「悪いことは言いません。この依頼を受けるのは止めた方が良いですよ」
警備兵が完全に呆れた顔をする。
しかしこの依頼は指定ランクのない依頼でEランクの俺が受けても問題はない筈だ。
「どういう意味ですか?」
「この依頼を受けた冒険者が既に何十人も命を落としています。リーリエ様を救える可能性を少しでも上げるために、指定ランクを設けなかったようですが、貴方では命を落とすだけです」
なるほどな...。下手な豆鉄砲でも数打ちゃ当たるって考え方で、大量に冒険者を募ったということか...。
身の丈に合わない依頼を受けて命を落とす冒険者も少なくない。
本来ならギルドが判断して冒険者ランクを儲けたりするものだが、依頼内容が明確でない時はそれを行わないことがある。
依頼を出す者の行動としては誉められたものではない。
後にこの件が問題になってギルドから注意を受けることはあっても、貴族という身分もあり特別なペナルティをかされること等はないだろう。
仮に今回の依頼でドラゴンと戦うことになっても、相手がドラゴンだとは知らなかったと言ってしまえばそれ以上追及することは出来ない。
「パント男爵に詳しい話を聞いてから判断させて下さい」
流石にドラゴンと戦えというような、今の俺には不可能な話であればどうすることも出来ないが、何も聞かずに諦めるなどあり得ない。
「わかりました...。それではパント様からお話をお聞き下さい」
警備兵が横に逸れ入口を開ける。
そこから俺達は街の中へ入場した。
トゥリアはクレイアに比べると1/3程の規模だが、普通の街として考えれば十分に大きな街と言えるだろう。
トゥリアの北には大きな湖があり、そこで色々な魚を捕ることが出来るため、この街では漁業も盛んだ。
街に入った俺達はパントの屋敷へと向かう。
子供の頃に来て以来、屋敷へ行くのは数年前振りだが大体の場所は覚えている。
屋敷の前まで着くと入口には2人の警備兵が立っていた。
「クレイアで依頼を受けて来ました。パント男爵にお話を聞かせて頂きたいのですが」
「貴方方がですか...? ...わかりました。私がご案内します」
1人の警備兵が俺達を屋敷の中へと案内してくれる。
屋敷の奥へ入って行くと銀色の扉が付けられた部屋の前で警備兵が足を止めた。
「パント様。依頼を受けてきたという冒険者の方を連れて参りました」
「直ぐに入って貰ってくれ」
部屋の中から男性の声で返事が返ってくると、兵士が扉を開けて中に入るように俺達に促す。
部屋の中に入ると少し小太りで背の低い男が立っていた。
服装は立派な衣装を身に着け、その指には高そうな指輪がいくつも付けられている。
「お久し振りです。パント男爵。私はエレンの息子ロディです。覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「エレン殿の息子だと!? そうか! エレン殿ならこの自体も簡単に解決出来る筈だ。それでエレン殿はどちらに?」
「母は一緒ではありません。私は先日冒険者となりましたので、クレイアの依頼を受けてここに参りました」
エレンが一緒に居ないと聞くと、パントの表情が明らかに落胆する。
「そうか...エレン殿が居てくれれば何とかなると思ったのだが...」
「依頼にはリーリエの救出とありましたが、一体リーリエの身に何が起こったのでしょうか?」
「...リーリエの奴が吸血鬼に拐われてしまったのだ...」
吸血鬼!? その戦闘力は人間よりも遥かに高く、最上位の吸血鬼ともなれば八竜勇者をも凌駕する程の力を持つという。




