第62話 ロディの決断
転移門を抜けた先はカナンの入口だった。
流石に1日経過しているので建物の火は鎮火されているが、完全に燃え尽きてしまっている建物もチラホラ見える。
当然のことだが村の空気はかなり重たい。
カナンにもバーラン城の現状が伝わっている筈だ。
連れ去られた村人の安否のことも知っているだろう。
「マリス...未だに私はカナンの人々に何と言って詫びれば良いのかわからん...村人達が死んだのは私が原因だ...」
「ロディ様...ご自分を責めないで下さい。ロディ様のせいではありません」
「マリス...」
しかしあの場で俺が飛び出さなければ状況は変わっていたかも知れない。
マリスに任せればもしかしたら村人達を助けることが出来たかも知れない。
過ぎたことを後悔しても遅いが、後悔するなと言われても無理だ。
その後は会話もなく、無言で村長の家へと向かう。
村長の家の前へ着くと外に村長の姿があった。
「ロディ様...」
ティナのことを思ってか、村長は悲しげな表情をしている。
「すまない...私の力が足りないばかりにティナや他の村人を救うことが出来なかった...」
俺はその場で頭を下げる。
結局今の俺にはひたすら謝ることくらいしか出来ない。
「ロディ様...頭をお上げ下さい。あの娘や他の皆のことは残念ですが...ロディ様は精一杯やって下さいました」
村長の顔に俺に対しての怒りなどは一切見られない。
「しかし...私の力のせいで村人の遺体を持ってくることすら出来なかった...」
「詳しいことは知りませんが、アルロン様の使者から色々とお話は聞かされていました」
アルロンから報告があった? そうか...マリスがアルロンに報告をしていたのだろう。
「ロディ様。少し付いてきて貰っても良いですか?」
「ああ。わかった」
村長が村の西の方へ歩き始める。
どこに行くのかはわからないが、俺達は村長の後を付いて行く。
少し歩いた所で村長が立ち止まる。
村長の前に視線を向けるとそこは小さな墓地だった。
「ここはカナンで亡くなった村人達の墓です。今回亡くなった村人達の魂もこの墓地で眠ることになります」
村長が1つの墓の前に行き腰を屈める。
「この墓が私の息子とその妻が眠る墓です」
墓には2人の名前が刻まれていた。
村長の息子とその嫁。ティナの父親と母親ということだ。
そして家族が同じ墓に眠るということは、この墓がティナの墓にもなるのだろう。
村長が2人の名前の下にティナの名前を刻む。
「これでお前達家族はいつまでも一緒だぞ」
墓に名を刻んでもティナを表すものは何もない。
俺は異空間収納袋の中からティナがくれた紐の切れた首飾りを取り出した。
「幸せになれる首飾り...この首飾りが必要だったのは私ではなくお前だったではないか...」
墓に首飾りを供える。今となってはこの首飾りはティナの形見となってしまった。
「村長。今回のアルバスの攻撃で村が受けた被害はどうなっている?」
「連れ去られた者を合わせて村人の犠牲が38人。奴等に火を放たれて燃えてしまった建物が20棟になります...」
この村の規模からすればかなりの犠牲だ。建物に関しては何とかなるかも知れないが、死んでしまった者に関してはどうすることも出来ない。
「アルロンとも話し出来るだけの協力をさせよう。そして今度こそお前と1つ約束をしよう」
「約束? 一体何をですか...?」
村長は全く心当たりがないといった顔をしている。
これは俺がずっと悩んでいたことだ。
人間と殺し合うということに抵抗があり、積極的になれなかった。
だが、今の俺は魔王でありケルティアの領主だ。
「例え時間が掛かろうと必ずアルバス王国を滅ぼしてみせる。殺された者の無念を晴らし、この村が侵略されることがないようにな」
「ロディ様...」
「マリス。ルクザリア城への転移門を頼む。アルロンと色々話をしたい」
「かしこまりました」
マリスがルクザリア城へ繋がる転移門を開く。
「村長...またティナに会いにくるからな」
「ロディ様...ティナも喜ぶと思います」
俺達はその場に村長を残し転移門を潜った。
転移門を抜けた先は以前訪れたアルロンの部屋の中だった。
マリスが事前に連絡していたのか、アルロンは俺の方を向きながら膝まづいている。
「ロディ様...。申し訳ありませんでした...。ガラムの件に関してはロディ様も言われたように見張りを付けていたのですが、ガラムに付けていた者が死体となって発見されました...。全て私の責任です...」
アルロンに責任はない。マリスやアルロンが止めるのも無視して、ガラムがカナンに居ることを許した俺に責任がある。
「お前に責任はない。今回のことは全て私の判断ミスが招いたことだ」
「しかし...」
「それよりもカナンの復興に全力を尽くしてくれ。厳しいのは承知だがカナンが元の姿を取り戻すまでは税のことも考慮してくれ」
「わかりました。昨夜マリス様から提供された資金を回したいと思います」
マリスが資金を提供した? 俺がこうすることを見越して昨夜の内に手を回していたということか。
「マリス...お前にばかり負担を掛けて本当に申し訳ないと思う...お前に出して貰った金はいつか必ず返すから待っていてくれ...」
「良いんですよ。お金なんて私には必要ありませんから。全てロディ様に差し上げても良いと思っています」
マリスはこう言ってくれているが、勇者の時も魔王の時もマリスだよりに何かを考えるということはしたくない。
「気持ちだけ貰っておこう。それでアルロン。アルバス王国に対しての今後の方針なのだが...」
「はっ!」
「私はアルバス王国に対して戦争を仕掛けるつもりでいる」
簡単に戦争を仕掛けるとは言ってもアルバス王国の戦力も知らなければ、内政状況なども何も知らない。
戦争を仕掛けるのであれば勝てるというのを前提において仕掛けるべきだ。
「正直な意見を言ってくれ。現在のケルティアの戦力でアルバス王国を滅ぼすことは出来ると思うか?」
「...正直に申し上げます...。現状の戦力差は10倍以上。兵の練度ではわが軍の方が上ですが、守る戦ならまだしも攻める戦となれば守る側が優位に立ちます。勝利を収めることは難しいでしょう。せめて後5000程兵がいれば話しは変わりますが...」
兵が後5000増えたところで圧倒的な差なのは変わりない。
それでも勝利出来る算段がアルロンにはあると言うことだ。
「他の四魔将に兵を出して貰うことは出来ないのか? 協力して貰った見返りにアルバスの領地は全て差し出しても良い」
俺が求めているのはアルバスの領地ではない。アルバスが滅びケルティアから脅威がなくなるということなら今回はそれで良い。
時期魔王を目指す者としては他の四魔将が魔王に近付くことなど、絶対に避けなければいけないことだが、今はアルバスという脅威を滅ぼすことが最優先だ。
「アルバスの地が手に入るということでしたら、必ず力を貸してくれるとは思います。しかし、ロディ様は時期ディルクシアの魔王を目指しているのではないのですか?」
「もちろん時期魔王になることを目標にしている。だが、ケルティアの民のことを考えればアルバスをこのままにしておく訳にはいかない」
「...でしたら四魔将の力を頼る以外にも1つ方法があります。ロディ様は魔流族をご存知でしょうか?」
魔流族? アルロンから放たれた言葉は俺が今までに聞いたことのない名前だった。