第58話 バーラン城侵入
マリスの放った超熱爆発に巻き込まれてほとんどのモンスターが息絶えた。
爆発が収まるとその場に立っている魔物はトロルが1匹とタイガーファングが3匹だけになっていた。
タイガーファングはその動きの速さでマリスの魔法を回避出来たようだが、トロルに関しては何故1匹だけ生き残ったのか謎だ。
「あのトロルは私がやろう。マリスはタイガーファングを頼む」
「わかりました」
俺達はそれぞれ目標に向かって走る。
今の俺にタイガーファングを捉えることは出来ないだろうが、トロルの1匹くらいなら問題ない筈だ。
俺が接近するとトロルは両腕を組んだまま振り上げ、俺の頭上へ降り下ろす。
「グォォォォ!」
力はあるが速さは大したことがない。
俺はトロルの攻撃を避けると右手を頭に向ける。
『闇の弾丸!』
放たれた魔法の弾丸がトオルの頭を貫き、その場に巨体が倒れた。
いくら知能がない魔物でも基本は頭を貫かれれば終わりだ。
トロルの討伐を終え、マリスの方に視線を向けると、マリスの側には首を切り落とされた3匹のタイガーファングの死体が転がっていた。
熱爆発でかなりの数を掃討出来たため、戦闘終了までに掛かった時間は数分といったところだ。
「流石だなマリス。これならカナンが魔物に襲われる心配もないだろう。急いでバーラン城に向かうぞ。バーラン城に繋がる転移門を開くことは出来るか?」
「直接城まで行くことは出来ませんが、城から少し離れた場所になら行くことは可能です」
「頼む」
「わかりました。転移門を抜けた先で即戦闘になる可能性もあります。ロディ様は私の命に替えてもお守りするつもりですが、ロディ様も要心して下さい」
マリスがバーラン城近くへと繋がる転移門を開く。
確かにマリスのいう通り転移門を抜けた先がどうなっているかはわからない。今までは危険な場所に行くという状況はなかったが、今回向かう場所は敵軍のいる場所だ。転移門から出た瞬間に周りが囲まれているということだってある。
アルバス軍がいても直ぐに対応出来るように心の準備を調え俺は転移門を潜った。
転移門を抜けたが人の気配はない。辺りを見渡すと少し離れた場所に城が見えた。
更にその城に向かっている騎兵の集団が見える。
数人が入れるような檻が馬に引かれているが、この場所からではハッキリと確認することは出来ない。
騎兵の集団は城の直ぐ側にまで接近していて、後数分もすれば城に到着してしまう。
「くっ...間に合わなかったか...」
あの騎兵の集団がカナンから村人達を拐って行った奴等だろう。
何とか連中がバーラン城に入城する前に捉えたかったが、今となっては無理な話だ。
マリスに騎兵が城に入る直前まで接近してもらい、その距離から魔法を放ってもらえば簡単に騎兵達を全滅させることが出来るが、その場合は村人達も全滅してしまう。
今考えることは城の中に連れて行かれた後、村人達をどう救出するかだ。
流石にディルクシアとの前線にある城となれば、それなりの兵力が駐留している筈だ。
マリスの実力は知っているが、単純に殲滅が目的なだけならまだしも今回は村人の救出が目的だ。
さっきの様な魔法を使うことは出来ないし、村人に被害が出ないよう制限された中で戦わなければならない。
だとすればやるべきことは...。
「マリス。ここは取り敢えず騒ぎを起こさずに城の中に入るぞ。様子を見ながら好機があれば村人達を救い出す」
「わかりました」
俺達は城へ向けて走り出した。
俺達が走り始めて数分経過すると、騎兵が城の中へと入って行くのが確認出来た。
城の近くまで着き入り口にいる兵士達に見られないように、城の周辺にある岩影で話を始める。
「入り口の兵士達の数は3人か...。1人も逃がす訳にはいかないな」
城の中へ報告されれば完全に警戒された状況で村人達を救い出さなければいけなくなる。
「ロディ様。私にお任せ下さい」
そう言うとマリスの姿が消える。気付いた時には入り口の兵士達の背後にマリスの姿があった。
「ぐうっ!」
マリスの右手が1人の兵士の胸を貫く。
直ぐに右手を引き抜くとそのままもう1人の兵士の首に向ける。
兵士の首がポトリと地面に落ちる。
「な!?」
マリスの左手が最後の兵士の首を締め付ける。
「がっ、がぁぁ...」
兵士は城の中へこの事態を伝えようとするが、まともに声を出すことが出来ない。
ピクピクと身体を痙攣させ、そのまま数秒経過すると動かなくなった。
マリスが3人を片付けたのを確認し、俺も城の入り口へと近付く。
「さぁ、問題はここからだな」
城の入り口と言ってもここを入って直ぐに建物の中という訳ではない。
入り口の門は閉まっていて中の様子を伺うことは出来ないが、ここを入ってから建物までは、それなりの距離がある筈だ。
そこでは身を隠す場所があるかもわからない。
「もしもこの門を開けたところで敵に発見された場合、第一優先は村人達の命だ。私のことは気にせずマリスは村人達の救出に全力を尽くせ」
「し、しかし...」
俺の身を守ることを優先していたら救出は困難になる。
「これは命令だ。自分の身くらいは自分で守ってみせる」
「わかりました...」
俺は門の扉に手を掛けゆっくりと押し開ける。
ギィィィという音が鳴り扉が開くと、目の前は城の中庭になっていた。
周りに兵士達の姿は見られない。
「誰1人居ないとはおかしいな...」
俺達が城内へ足を踏み入れると何やら北の方から騒がしい声が聞こえてくる。
建物に姿を隠しながら建物の北側に向かうと、そこにはカナンから連れ去られたであろう魔族達の姿があった。
魔族達の人数は10人。男女が半々でその中にはティナの姿もある。魔族達は周りを大勢のアルバス兵に囲まれていて、怯えているように見える。
周りを囲んでいたアルバス兵達が囲みを開けると、その場所から1人の男がティナ達に近付いて行く。
「この者達はディルクシアの邪悪なる魔族達だ! お前達は魔族にこの世界で生きる資格はあると思うか!?」
「魔族は殺せー!」
「この世界は人間のものだぁー!」
兵士達が武器をかざし声を上げる。
「あの男は何者なんだ?」
「あの男がこの辺りを治めているバーランの城主ザリオンです」
アイツがザリオンか...。おそらく年齢は40代後半。本人も直接戦場に立つのか鎧を身に付け、腰には剣を帯びている。
ザリオンを倒せば指揮を取る者はいなくなるか...。その隙に村人達を救い出すことが出来るかも知れない。
ただ、あれだけの数の兵士がいる中でザリオンだけ倒すことが可能なのだろうか...。
「この邪悪なる者達の血を持って我等の強さを示そうではないか!」
ザリオンが腰の剣を抜き魔族の1人に切り付けた。
「がはっ!」
切られた魔族は頭を前に倒し動かなくなった。
「いやぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁ!」
女性とティナが泣き叫ぶ。
「アンタは何でこんな酷いことが出来るんだ! 俺達がアンタに何かしたとでも言うのか!?」
仲間を殺された男がザリオンを睨み付ける。
「何かした? お前達は生きていることが罪なのだ」
ザリオンは男の首に剣を降り下ろす。
男の首は胴体から離れないまでもブランと垂れ下がった。
「ザリオン...許せん。何とかティナ達を助けなければ」
俺が飛び出ようとしたところをマリスに止められる。
「ロディ様。彼等を助けたい気持ちは私も同じです...。しかし、今ここでロディ様が出て行ったところで彼等を救うことは出来ません...」
確かに俺が出て行ったところで彼等を助ける手段はない。だからと言ってこのまま黙って見ていることなど出来ない。
「次はお前だ。俺は子供だからといって容赦はしないからな」
ザリオンの剣がティナに向けられる。
「恨むなら魔族に産まれた自分を恨むんだぞ」
「誰か...助けて...」
「お前を助ける奴なんている筈がないだろう」
ザリオンの剣がティナの頭上に振り上げられる。
「止めろぉぉぉ!」
俺の声が聞こえるとザリオンの剣がピタリと止まる。
何も出来ないかも知れないが、ティナ達が殺されるのを黙って見ていることなんて出来ない。
俺の身体は自然とアルバス兵達が集まっている場所に飛び出していた。




