第53話 呪われし者
俺とミラは事前に用意しておいたスコップを使い石の周りを掘っていく。
元居た世界のスコップに比べると使いにくいが、スコップが存在するだけマシだと思わなければいけない。
ヘクトルは斧を使いかなり大雑把な作業をしている。
マリスは魔力を使い丁寧に石の周りを削っていく。
別に攻撃魔法を使っている訳ではないので問題はないだろう。
「よし! 1個目終了!」
ヘクトルが1つ目のベルン鉱石の採掘を終わらせたが、大雑把な作業をしたせいでかなり表面が砕けてしまっている。
元々武器などに加工する時は一旦溶かしてから利用するので、砕けた破片も全て回収すれば問題はないだろう。
俺達は2時間程の時間を掛けてこの辺りに埋まっていた全てのベルン鉱石を掘り出すことに成功した。
鉱山内の他の場所に行けばもっとベルン鉱石を手に入れることが出来るかも知れないが、これだけの量があれば十分だろう。
「ふぅー、大量、大量。掘り出し合戦は俺の勝ちだな!」
いつの間にそんな勝負をしていたんだ? スコップを使い時間を掛けて掘っている俺達と、斧を使い大雑把に掘っているヘクトルとでは元々勝負にならない。
「それじゃあベルン鉱石を回収するよ」
異空間収納袋にベルン鉱石を次々と収納していく。
本当にこの道具は便利過ぎる。父さんに感謝だな。
この場にある全てのベルン鉱石の収納を終えた俺は、鉱山から出るため3人と共に歩き始めた。
来る時に全滅させておいたお陰か、帰路で魔物と出会うことはなかった。
鉱山の入口が見えるとヘクトルが外へ向かって走り出す。
「ぷはー! やっぱりシャバの空気は美味いなぁー!」
こっちの世界でもシャバなんて言葉を使うんだな。
というか...別に俺達は牢に入れられていた訳ではないのだが...。
まぁ、確かにこの世界の空気は美味いと思う。排気ガスなどが撒き散らされている元の世界とは大違いだ。
「それじゃあクレイアへ戻るよ」
俺達はベルン鉱山を後にし、クレイアへ向かい歩き始めた。
途中で現れた雑魚魔物を一瞬で蹴散らしながら、俺達はクレイアへと戻ってきた。時刻は既に夕方過ぎだ。
この時間でもまだ武器屋は開いているだろう。クレイアへ戻ってきた俺達はバースの武器屋へと向かった。
武器屋へ着き店内に入るが、店内に他の客の姿はなかった。カウンターに店主の姿があるだけだ。
身長は190㎝近いスキンヘッドの男で、顔は明らかに悪役といった顔付きをしている。
「アンタ達は客かい?」
「いえ、冒険者ギルドの依頼を受けベルン鉱石を持ってきた冒険者です」
「あー、そうか。それじゃあ持ってきたベルン鉱石をここに出してくれ」
バースは人差し指をカウンターに向け、カウンターをトントンと鳴らす。
カウンターの上のスペースはかなり狭く、これではほんの一部しか並べることは出来ない。
「結構な量があるので、ここには全部出せないのですが...」
「だったらその辺りに適当に出してくれ」
店内の壁にそって棚が置かれており、その棚にはいくつもの武器や防具が置かれている。
小さな店ということもあり、これだけの商品を並べたらスペースにあまり余裕がなくなってしまっている。
「店内に出すにしても少し場所が足りないと思います。結構な量がありますので...」
「どこにそんなにあるっていうんだ? それだけの量を持ってるとは思えないんだが?」
俺達の中に大きな荷物を持っている人間はいない。バースがそう思うのは当然だろう。
こんな若輩パーティーが異空間収納袋を持っているなど想像も出来ない筈だ。
「ベルン鉱石の方は異空間収納袋に収納してあるんです」
「ふーん...」
バースは俺をジロジロと凝視する。
「それじゃあ店の前に出してくれ」
武器屋の前にはかなり広いスペースが空いている。ここならベルン鉱石を広げても誰かの邪魔になることはないだろう。
店の外に出ると俺は異空間収納袋からベルン鉱石を取り出した。
相当な数のベルン鉱石が店の前に積み上がる。
「おい...マジかよ...」
取り出されたベルン鉱石を見てバースは相当驚いている。完全に予想外の数だったんだろう。
「これだけの量なら3000コル払おう。今、この場で渡すからちょっと待っててくれ」
この場でバースから報酬を受け取っても問題はない筈だ。
その場合は依頼主から報酬は支払い済みだということをギルドに報告して貰い、ギルドには完了報告をしに行くだけで良い。
今回のように報酬額が変動する場合は直接受け取るケースが多いようだ。
3000コルというのが妥当な金額かどうか細かくはわからないが、ボッタクられているということはないだろう。
「待たせたな」
バースが報酬の貨幣を持ちながら戻ってくる。
俺は差し出された貨幣を受け取った。
「助かったぜ! ギルドの方には本日中に報告しておくからよ」
「あ、待って下さい」
俺は店内に戻ろうとするバースを止めた。ヘクトルの斧に付いて聞いておきたいからだ。
「この斧に付いて何かわかりませんか? ベルン鉱山にいたゴブリンが持っていた物なんですが...?」
バースがヘクトルの斧を見て、目をギョッとさせる。
「こ、これは邪悪の斧じゃないか!?」
邪悪の斧? 何か邪心の仮面と同じく呪われてそうな名前だな...。まぁ、邪心の仮面に関しては表面上は呪われていなかったが。
「凄い斧なんですか?」
「破壊力は一級品だが、この斧には強力な呪いが掛けられていてな。普通の人間にはまともに扱うことが出来ない筈だ」
やはり呪われた武器か...。だけどヘクトルは普通に扱っていたように見えたのだが...。
一応頭が悪いだけでヘクトルは普通の人間の筈だ。
「ヘクトル。その斧は呪われているみたいなんだけど、身体に不調はないかい?」
「全然大丈夫だぞ? 悪いところと言えば腹が減ったくらいだ」
そういうとヘクトルはお腹を擦った。俺から見ても普段のヘクトルと変わりがないように見える。
「そう言えばこの前覚えたスキルがあるんだけど、それのせいかなー?」
「スキルを覚えた? 学者の職業LVが上がった時に覚えた固定スキルのことじゃなくて?」
俺はヘクトルが覚えたというスキルに付いて聞いてみた。
〖呪われし者〗呪われた装備ならどんな装備でも身に付けることが出来る。またどんな呪いでも無効化することが出来る。
間違えなくユニークスキルだな。かなり物騒なスキルの名前だが、効果を聞く限りではマイナス要素は一つもない。
呪われている装備を全て身に付けることが出来るという効果のお陰で、学者のヘクトルが斧を装備出来たという訳だ。
呪われている装備には通常の装備よりも強力な物が多い。
このユニークスキルを持っているヘクトルなら呪いのデメリットを一切受け付けることがなく、呪われた装備を身に付けることが出来る。
本来なら魔法職では装備出来ない物が装備出来るというのは、かなり大きな利点だ。
「呪いの装備を身に付けられる奴なんて初めて見たぜ。お前なら凄い戦士になれるかもな。頑張れよ!」
バースが店の中へと戻って行く。ヘクトルのことを勝手に戦士系の職業だと思ったようだが、斧を振り回す学者がいるなんて誰も想像出来ないだろう。
「俺達もテベルに戻ろうか」
依頼を完了させテベルに戻ろうとしていたところで突然頭の中に声が響いた。
(ロディ様。聞こえますか?)
声の主はアルロンだ。これは思念通話だと思うが、アルロンが思念通話を使えるということは...。
(聞こえるよアルロン。何かあったのかい?)
邪心の仮面を着けてない今の俺では魔王プレイをすることが出来ない。
(カナンがアルバス王国からの攻撃を受けました...)
(カナンがアルバスの攻撃を受けた? 村の皆は無事なの!?)
(わかりません...。ルクザリアから機動力のある部隊を向かわせましたが、現状では...)
俺は居ても立ってもいられなくなり、直ぐにでもカナン村へ向かうことを決めた。