第5話 祈りの間
「うわぁー、デッカイなぁー」
ヘクトルはクレイアに来るのが初めてらしく、王都の大きさに驚いている。
テベルから徒歩で1時間くらいの距離だと言うのに、15歳になるまで1度も訪れたことがないと言うのはかなり珍しいと思う。
テベルでは手に入る物にも限界があり、必要な物があればクレイアまで来て購入するというのが当たり前になっているが、家の手伝いなど一切しなさそうなヘクトルにとっては関わりがないのかも知れない。
「あれがクレイア城? お城なんて行ったことがないから楽しみだわ」
城は街の奥に建てられているのだが、城がある地面は街に比べて少し高くなっており、街の外からでもハッキリと城を確認することが出来る。
「俺も初めてだよ。もし、王様とかにあったら何て挨拶すれば良いんだろう」
王都と呼ばれている都市の城なのだから、王が住んでいるのは当たり前なのだが、天礼は城の神官によって行われる。
それをわざわざ王が見に来ることなどあり得ないと思うので、会うことはないと思う。
王に親い貴族の息子何かが天礼を受けるとなったら話も別なのかも知れないが...。
クレイアに入場する為の入り口まで来ると、入り口には2人の兵士の姿があった。
彼等はクレイア城下への入り口を警備している人間だ。
テベルでさえ入り口に警護をする人間が居るくらいだ。クレイアなら居ても当たり前だろう。
クレイアは都市全体が2m程の高さの塀で囲われており、外から街の様子を伺うことが出来ない。
北と南にそれぞれ入り口があり、そこから中へと入場することが出来るようになっている。
もちろん塀をよじ登って中に入ることも可能だとは思うが、見付かったら叱られるだけじゃ済まないと思う。
俺達は南側の入り口から中に入ろうとしているが、こちら側は聖水が撒かれていることもあり魔物の脅威が低いことから2人の兵士しかおかれていないのだろう。
「お前達、子供が3人でどうした?」
「俺達、今日クレイア城で天礼を受けることになってるんです」
「3人全員がか? 3人揃って受けるとは珍しいな」
やはり将来を左右する程の出来事となると早めに受けようとする人間が多い筈だ。
15歳になった即日とまではいかなくとも、ヘクトルの様に半年後に受けるというのはかなり珍しいと思う。
「はい。誕生日が近かったので一緒に受けることになりまして」
もちろん誕生日が近いと言った中にヘクトルのことは入っていない。
「そうか。天礼によって授かる職業は将来を左右することになるからな。慎重に考えて決めるんだぞ」
「はい!」
俺達は兵士達と分かれるとクレイアの中へと入場した。
流石は王都の城下街。テベル何かとは比べ物にならないくらい栄えている。
今までに何度か来たことはあるが、来る度に何か新しい建物が増えている気がする。
道行く人の数もテベル何かとは比べ物にならない。王都と村を比べている時点で間違ってはいると思うが...。
「おおお! スゲー! 美味そうな食べ物屋が一杯ある! 何か食べて行こうぜー」
「駄目よ! ヘクトル。天礼に遅刻しちゃうわ。食べ物は天礼が終わってからにしなさい」
「うう...わかったよ..」
朝食を食べてないので、俺もお腹が空いているのは間違えないが、ここはミラの言う通りだ。天礼に遅刻したなんてエレンが知ったらどんな目に合わされるか、わかったものじゃない。
ヘクトルが物欲しそうな顔をしている中、俺達は城へと向かい歩き出した。
城へは行ったことがなかったが、街のどこにいても城が見えるので迷うことはなかった。
城の入り口に着くと入り口の門は開かれており、門の前には3人の兵士の姿があった。
「すみません。俺達、天礼を受ける為にクレイア城に来たのですが」
「おお、今日の天礼を受ける者達か。天礼は城の中にある祈りの間にて行われる。祈りの間の場所がわかる者はいるか?」
俺はミラと顔を見合わせたが、ミラもわからない様で首を横に振った。城に行ったことがないなら知らなくて当たり前だ。
もちろんこの動作にはヘクトルも加わっていたが、初めからヘクトルには期待していなかったので、頭数には入れてなかった。
「すみません。誰も知らないみたいです...」
「わかった。それじゃあ俺が案内してやるよ。お前達、少しの間この場所は2人に任せたぞ」
「おう! 任せろ。案内したら寄り道してないで直ぐに戻ってこいよー」
兵士は残りの兵士に入り口の警護を任せると俺達を城の中へと案内してくれた。
兵士の後に続き城の中へと入って行くが、外観だけではなく、中もかなり立派な城だ。
至るところに置かれている絵画や置物なども高級そうな物ばかりで、どれか1つでも持ち出すことが出来れば、テベルなら一生生活が出来そうなレベルだ。
城で天礼を受けることは珍しいことではないのか、通り過ぎる兵士達は俺達の姿を見ても何も気にしていない様だ。
「ここが祈りの間だ」
俺達が案内された場所は大きな銀色の扉が付いた部屋だった。
「この中に今日、お前達の天礼を行ってくれる神官様が居られる。失礼のない様にするんだぞ。それじゃあ俺は持ち場に戻るからな」
「ありがとうございました」
案内をしてくれた兵士にお礼を言うと兵士は持ち場へと帰って行った。
「あー、緊張して来たなー! 賢者とか聖者とかが選ばれたらどっちにしよー、迷うなぁー」
ヘクトルは1ミリも考える必要のない心配をしている様だ。
ミラの方は明らかに顔に緊張の色が出ている。
言葉にこそ出さないが不安な様だ。
「それじゃあ中に入るよ?」
二人は無言で首を縦に振った。
「失礼します」
俺は軽く扉をノックしてから開き、部屋の中へと足を踏み入れた。