第46話 闇の勇者対炎の勇者
一体どういうことだ? 何でアレス達が俺の家に居るんだ? 答えは簡単だ。
アレス達が会わなくてはいけない人と言っていたのが、エレンのことだったのだろう。
炎の勇者であるアレスが闇の勇者であるエレンに会いに来たというのなら別に不思議はない。
勇者同士が全員友好的な訳ではないので、どんな用件で会いに来たのかはわからないが。
「マリス...念のため...」
俺はマリスに身体変化を使うように指示を出そうとしたが、既にマリスの外見は変化を遂げていた。
本来なら人間と戦闘を行う時に変化をする予定だったが、既にマリスの顔を知っているであろうアレスと会うには必要なことだ。
言われる前に行動を起こす。マリスくらいになるとこれを当たり前のようにこなす。
俺達が足を止めていると家の中からエレンが姿を現した。
「アレスじゃないか? こんな所まで何をしに来たというんだい?」
「エレンさん。貴女が八竜会議に出席しないから私がここまで来たんですよ。闇の勇者としての勤めを果たして下さい」
八竜会議とは八竜勇者のみが集まり話し合いが行われる会議だ。
基本的には八竜勇者の座に就いている者は参加が義務付けられている。
「私は体調不良で欠席すると連絡を入れた筈だけど?」
「ええ。病に掛かり今にも死にそうと聞いていましたが、私が見る限りは元気そうに見えますが?」
エレンが病に掛かった? 何か病に掛かったとしてもマリスの全状態異常回復があれば秒で治るし、そもそもエレンが体調不良なところなんて今までに見たことがない。
絶対に会議をサボる為の口実だろうな...。
「寝たら治ったんだよ。そんな下らないことを言う為だけにこんな所まで来たのかい?」
「いえ。私の国の王が貴女とお話をしたいとのことです。私と一緒にバーナック王国まで来て頂けませんか?」
【バーナック王国】
ラウンドハールの北に位置する国で、ラウンドハールから地続きはしておらず、この国から向かうのには船で向かうのが一般的だ。
ラウンドハールとバーナックは特別な友好関係もなければ、敵対関係もないといったところだ。
「何で私がバーナック何かに行かなきゃいけないんだ? お断りだね」
「王からは貴女が従わなければ力づくでも連れて来いと言われているのですが...」
「へぇー...面白い...それじゃあアンタの力を見せて貰うとしようか。アンタが私に勝つことが出来れば何でも言う通りにしよう。ここじゃあ何だから広い所まで行くよ。ロディ! アンタも付いてきな!」
エレンが俺に声を掛けると4人が一斉にこちらを向く。
「あの少年は?」
「私の息子だよ。さぁ、行くよ」
エレンが歩き出す。おそらく村の北にある広場に行くのだと思う。
かなり大きな広場だし、この時間なら人も居ない筈だ。勇者同士が全力で戦ったところで他に被害が出ることもないだろう。
正直、勇者同士の戦いが見れるとなって俺は興奮していた。
マリスと共にエレンの後に付いて行く。
もちろんアレス達4人もエレンの後を付いて来ている。
エレンが向かった先はやはり予想通り村の北にある広場だった。
時間が夜ということもあり、広場に人の気配はない。
「ここならアンタが全力を出したとしても問題はないだろう。いつでも掛かってきな」
エレンが腰の鞘から剣を抜く。闇の剣は使わないようだ。
「八竜勇者No.1と言われるその実力。確かめさせて貰います」
アレスが背中の大剣を抜く。
相当な重量がある筈だが、その剣を軽々と振り回している。
「別にアンタは神器を使っても良いんだよ?」
「神器を使っては貴女を殺してしまうかも知れませんからね!」
アレスは大きく剣を振り上げながらエレンに接近すると、エレン目掛けて剣を降り下ろす。
エレンは横に動き剣を回避する。
アレスの剣が地面にめり込み土を巻き上げた。
相当な破壊力を持っている一撃だ。
「なー? お前はどっちが勝つと思う?」
「そうですね。闇の勇者エレンの実力は未知数ですが、アレンが人間に負ける姿は想像が出来ませんね」
アレンの仲間の男達が戦いを見ながら勝者の予想をしている。
それに引き換え女性の方は心配そうな顔をしながら戦いを見守っている。
ローブの男がアレンが人間に負ける姿は想像が出来ないと言っているが、それは俺も同じだ。
エレンが負ける姿など想像が出来ない。
人間に限らず相手がどんな相手だとしてもだ。
「うぉぉぉ!」
アレスは何度も剣を降り下ろすがエレンの身体にはかすることさえない。
剣が降り下ろされた地面は土がえぐれてしまっている。
「そんな大振りな一撃が私に当たると思っているのかい?」
エレンに言われてもアレスに攻撃を止める素振りはない。
「くっ...一撃でも捉えられれば勝ちだというのに...」
アレスの言葉を聞きエレンの足が止まる。
このままではアレスの大剣の餌食になってしまう。
「当たれば勝てると思っているのが間違えだと教えてあげるよ」
頭上に降り下ろされたアレスの大剣をエレンの剣が受け止める。
細身のエレンの身体のどこにそんな力があるのかわからないが、アレスの剣を押し戻して行く。
「バ、バカな」
「今度はこっちから行くよ」
エレンが何度もアレスに向けて剣を振る。
その剣筋は速すぎて俺には確認することが出来ないが、アレスの方は何とか大剣で防いでいるようだ。
「中々やるじゃないか。それじゃあ少し速度を速めるよ」
エレンがそう言った後、本当に速度が速くなったようで、エレンの剣がアレスの鎧に当たる金属音が何度も聞こえてくる。
「くっ、くぅぅ...」
徐々に金属音の鳴る間隔が短くなっていく。
「ぐぁぁぁ!」
アレスの鎧が砕ける。
それでも攻撃は止まらずアレスの身体に次々と切り傷が付いていく。
「アンタの力はこんなものか...」
エレンの攻撃が止まると同時にアレスがその場に崩れ落ちる。
それを見ていた法衣の女性が直ぐにアレスに近付いて手をかざす。
『中回復』
女性が回復魔法を掛けるとアレスの傷がふさがっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ...ありがとうシルヴィア」
「アレス様。やはり戦いはお止めになった方が...」
「そういう訳にはいかないよ...」
アレスはその場に立ち上がる。
身体の傷は治っても鎧は砕けたままだ。
「面倒だからアンタ達4人全員で掛かってきな。炎の勇者の仲間ともなればそれなりの実力はあるんだろ?」
エレンは1人でアレス達4人全員と戦うつもりのようだ。




