第45話 炎の勇者
「俺達はクレイアに戻るけどファンナは暫く宿の仕事に専念するんだよね?」
「うん。お母さん1人じゃ大変だし、まだアルは仕事を手伝える様な歳じゃないからね」
「それじゃあここでお分かれだね。またバストールに来た時はファンナの宿屋にお世話になるね」
「絶対だよ! 絶対にまた来てね!」
俺達との分かれを名残惜しそうにしているファンナを残して、俺達はバストールを出た。
今回の護衛依頼の報酬を受け取ることと新たな依頼を受けるため、クレイアを目指す。
どんな仕組みになっているかはわからないが、依頼の情報は冒険者ギルド同士で共有されている。
クレイアの冒険者ギルドで受けた依頼の成功報酬をバストールの冒険者ギルドで受け取ることも可能なのだ。
当然バストールで依頼を受けることも出来たが、クレイアに比べれば依頼数も少ないし、なるべくクレイアをメインに依頼をこなして行こうと考えている。
「多分クレイアに着くのは夕方くらいになるね。ギルドで依頼を確認してからテベルに戻ろう。良い長期依頼が出てたら今日受けてもいいと思うしね」
「クレイアまで遠いよなー。お金を一杯稼いだら馬車を買おうぜ」
一流のパーティーともなると馬車を所有しているパーティーも珍しくはない。
しかし、俺達の場合は正直、馬車の必要性を全く感じない。
荷物に関しては異空間収納袋に収納すれば手ぶらで旅をすることが出来るし、目的地の移動に関してもいざという時には、マリスの転移門を使って移動すれば良い。
必要性は感じなくても馬車を所有するという憧れは多少あるので、月に何万コルという大金を稼げる程のパーティーになったら、馬車を買っても良いとは思う。
そこまでのパーティーになるまでに、どれくらいの時間が掛かるかはわからないが...。
「それじゃあ馬車を買う時までに、ヘクトルは馬車の操作が出来るようになってね」
商人という職業は馬車の操作が出来る人間が多い。
職業柄馬車を利用する機会が多いからだ。
「任せろ!」
ヘクトルは右手で胸を叩く。
馬車の操作に関しては頭を使う訳ではなく、感覚的なものになると思うので、ヘクトルには向いていそうな気がする。
その後俺達は8時間近くの時間を掛けて、クレイアへと到着した。
入り口の兵士と軽く会話を交わしクレイアに入場すると、何やら街が賑わっていた。
「ロディ。何か人混みが出来ているけどなんだろうね?」
俺達が人混みに近付くと人々が輪になって何かを取り囲んでいるようだった。
「何かあったんですか?」
俺は1人の男性に話を聞いてみることにした。
「クレイアに炎の勇者様が来ているんだよ。この国に他の国の勇者様が来ることなんて滅多にないから、みんな一目見たくて集まって来てるのさ」
なるほど。この輪の中心に炎の勇者が居るという訳か。
他国の勇者が一体ラウンドハールに何をしに来たというのだろうか。
俺は炎の勇者を一目見たくて輪の中に入って行く。
輪を抜けた先には4人組の男女達が街の人間の対応に追われていた。
1人はかなりガタイが良い坊主頭の男。全身重装備で巨大な斧を担いでいる。
2人目は高級そうなローブを身に纏った男。おそらく男の職業は魔法職だろう。
3人目は法衣を身に付けた女。長い金髪に綺麗な顔付きをしている。結構俺のタイプの顔だ。
彼女も魔法職だと思われる。
4人目は燃えるような赤い髪の毛に真っ赤な鎧を身に着けた男。
間違えなくこの男が炎の勇者だろう。
他の3人も相当な実力の持ち主だと思うが、明らかにこの男からはそれ以上の力を感じる。
俺は男の能力値を確認してみた。
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アレス
勇者 職業LV7
LV100
HP1430(30%)
SP715(30%)
MP300
力715(30%)
技754(30%)
速さ754(30%)
魔力300
防御650(30%)
[装備]
烈火の剣
烈火の鎧
攻撃力835 守備力720
[加護]
炎A 水E
風C 地C
聖C 魔C
光C 闇C
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流石は八竜勇者。強いな...。
元々勇者の補正値は他の上級職に比べてもずば抜けている。
そのお陰で魔法に関すること以外なら、全ての数値がマリスの能力値を上回っている。
烈火の剣という武器は流石に神器ではないと思う。
神器でこの強さだったら、いくらでもこれ以上の強さの武器が存在するからだ。
アレスが街の人間と話をしている声が聞こえてくる。
「炎の勇者様はクレイアに何をしにいらしたのですか?」
「会わなくてはいけない人が居ましてね。その人に会うために来たんです」
どうやらアレスは人に会うためにラウンドハールまでやってきたようだ。
わざわざ炎の勇者が会いに来るような人間なんて、この国に居るのだろうか。
万が一にでもマリスの正体に気付かれるようなことがあれば面倒なことになる。
俺は再び人の輪を抜け、みんなの所へと戻った。
「ロディどうだったんだ? 勇者が居たのか?」
「ああ。炎の勇者のパーティーだと思う。勇者のステータスを見たけど、おそろしく強かったよ...」
「そんなに強かったのか? 俺はマリスさんよりも強い人を見たことがないけど、マリスさんと戦ったらマリスさんは勝てるのか?」
ヘクトルのマリスに対する質問は一概には答えにくい筈だ。
距離を取っての戦いになればマリスに分があると思うが、近接戦闘になればマリスの方が不利になると思う。
「炎の勇者というとアレスのことですね。そうですねー...私1人では確実に勝てるとは言い切れませんが、ロディ様が傍に居てくれれば私が負けることは絶対にありません」
どういう意味だ? 俺がマリスと一緒に戦ったところで何の力にもなれない筈だ。
アレスやマリスに比べて今の俺はあまりにも非力過ぎる。
「凄いなー。やっぱりマリスさんは強いんだなー!」
「ロディ様が傍に居てくれればですけどね。ロディ様が傍に居てくれて私が勝てない相手など、クロード様とエレン様くらいしか思い浮かびませんから」
マリスは精神論の話をしているのか? 大切な人間が近くに居ると力が湧いてくる的な。
「マリスがアレスさんのことを知っているってことは、アレスさんもマリスのことを知っているんだよね? 見付かっても面倒だし冒険者ギルドに行こう」
俺達はその場から離れ冒険者ギルドへと向かった。
ギルド職員から4人分の報酬を貰った俺達は、現在出ている依頼を確認したが、今受けた方が良いような依頼は見付からなかったため、明日改めて出直そうという話になった。
冒険者ギルドでやることを終えた頃には、アレス達が居た場所には人が居なくなり、アレス達の姿もなかった。
「それじゃあテベルに帰ろうか」
俺達はクレイアを後にし、テベルへと向かった。
辺りはすっかり暗くなっている。
テベルに着き入り口の警護役の男と軽く会話を交わした後、テベルの中へと入る。
ヘクトルやミラと分かれ、家の前に着くとそこにはアレス達4人の姿があった。




