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第44話 悪党の筋書き

「俺は間違ったことは言っていませんよね? ファンナはお金を返したんです。借用書の処理をするのは当然の行為だと思いますけど?」


 転生前の世界ではビビって何も言えなかったと思うが、こっちの世界ではたかがゴロツキなんて何も怖くない。


「わかっていない奴だな...」


 剣を抜いた男の隣に立っていた男が1歩前に踏み出す。


「元々貸した金に興味はねーんだよ。クラウドさんは最初から宿屋を手に入れるつもりだったってことだ。こっちには借用書もある。どの道、宿屋はクラウドカンパニーのものだ」


 やはり想像通りの筋書だったな。


 こんなこと普通にいったら通る筈はないのだが、力ずくで通そうとしている。


「お前には少し痛い目に合って貰うことにするぞ。オイ! 野郎共!」


 男の掛け声で扉から数人の男達が部屋に入ってくる。


 全部で8人。その中には先程俺達を襲った4人組の姿もあった。


 やはりこの男の指示で俺達を襲ったのだろう。本当にクソみたいな男だな。


「お...おい!?」


「あ、ああ...」


 先程の4人が俺達の姿を見て動揺している。


 先程の戦いで実力差は明らかに感じただろう。


 それにしてもまだ低LVの俺達を相手にも勝てない様な人間が、ゴロツキなんてやってられるのか? 見た目だけで相手が怯むと思っているのだろうか。


「ジョニーさん。このガキやたらと強いんで俺達では...」


 男の名前はジョニーというらしい。


 ボスの名前がクラウドで、その部下がジョニーか。


 何か映画とかに出てきそうな組合せだな。


「何、情けないことを言ってるんだ? こんなガキどもに」


 ジョニーが腰から剣を抜き俺に襲い掛かってくる。


 素手の俺には避けるという選択肢しかないが、先程の4人に比べればかなり動きは速い。


 避けるのが精一杯で反撃をする余裕がない。


「オラオラ、どうした!? 逃げてるだけか!?」


「ロディ...」


 ミラとファンナが心配そうな顔をしている。


 ファンナは弓矢を持っていないし、ミラは魔法で人を攻撃するという行為に抵抗があるようだ。


 ヘクトルは他の男達と戦っているが、多勢に無勢。流石にヘクトルも苦戦している。


 だが、マリスに焦った様子はない。こんな状況くらい俺達なら何とか出来ると思っているんだろう。


 男の剣を避け続けているだけの俺だったが、次第にジョニーの剣筋がわかるようになってきた。


 前世でボクシングをやっていた賜物なのかも知れない。


「今だ!」


 俺はジョニーの剣を避けると同時にジョニーの腹を殴り付ける。


「ぐあっ...」


 ジョニーは剣を手放し腹を押さえながらその場に踞る。


 拳にはかなり良い手応えがあった。直ぐには動くことが出来ないだろう。


 俺は直ぐ様ヘクトルの援護に向かう。


「ヘクトル! 悪い奴等は全員ぶっ飛ばしてやろう!」


「おう!」


 2対8とは言え、所詮は有象無象の奴等だ。俺とヘクトルの敵じゃない。


「うぐっ!」


「ぐあっ!」

 

 俺達はあっという間に8人全員を倒した。


 残りは剣を抜いたが一向に襲い掛かって来ないクラウドだけだ。


「よ、よくもやりやがったな! 痛め付けるだけのつもりだったが、ここまでされちゃ黙っていられねー! おい! ジョニー。例の男を呼んでこい!」


「へ...へい」


 ジョニーは腹を押さえたまま部屋から出て行く。


「もうお前達は終わりだ。丁度昨日の夜から用心棒として雇った冒険者が居るんだ。その冒険者にお前達を始末させるからな!」


 クラウド本人は俺達と戦うつもりはないようだ。


 まぁ、実際さっきクラウドの能力値(ステータス)を確認したが、とても俺達に勝てるような能力値(ステータス)ではなかったし、完全に見かけ倒しといったところだ。


 冒険者を雇ったと言っているが、冒険者ギルドの依頼でということだろうか。


 もしくはクラウドがその冒険者と個人的に契約を結んだのかも知れない。


 基本的に冒険者ギルドでは、ヤバそうな依頼主からの依頼は受け付けない筈だ。


「聞いて驚くなよ! その冒険者はBランクの冒険者だ。お前達なんて秒殺してくれる筈だ。ハッハッハ!」


 確かにBランクの冒険者は流石にヤバイ。


 スレイブがBランクの平均なのかはわからないが、あれくらいの強さの相手となると俺達では手も足も出ないだろう。


「はぁ、はぁ、クラウドさん。連れて来ました!」


 ジョニーが駆け足で部屋の中へと戻ってくる。


 ジョニーの後ろには1人の男の姿があった。


「俺に相手をして欲しい奴が居るって話だが、どいつだ?」


 部屋に入って来たのはスレイブだった。


 右手は剣を握っているが、昨日持っていたウィングソードはマリスによって折られてしまったため、どこでも売っているような鉄製の剣に変わっている。


「コイツらだ! 見掛けに寄らず中々腕が立つが、Bランクのアンタなら余裕だろ?」


「このガキどもか...!? お前は...ロディじゃないか...。それに...」


 スレイブが視線をマリスの方に向ける。


 視線を向けられたマリスだが、睨むでもなくスレイブに対して笑顔を向けている。


「マリスじゃないか! いや...マリスさんじゃないですか...」


 スレイブはマリスに対して明らかに怯えているように見える。


 まぁ、あんな目に合えばこうなるのも当たり前だ。


「悪いな...。コイツらが相手だって言うんなら俺は降りさせてもらう。と言うことで...じゃあな!」


 猛ダッシュでスレイブが部屋から出て行く。


 俺達だけが相手ならスレイブに勝つことは出来ない。


 エレンとの約束で、マリスは自衛以外で戦闘を行うことが出来ないため、戦いになれば結果は見えていたが、そんなことを知らないスレイブからすれば、マリスの存在は驚異でしかない。


「くそ! スレイブの奴...肝心な時に逃げ出しやがって!」


 クラウドが左手を握って机を叩く。


 右手で持っている剣を使う素振りはない。


「それでどうしますか? まだやりますか? 俺達としては借用書さえ返して頂ければそれで良いんですが?」


「...ちっ!」


 クラウドが机の引き出しを開け、1枚の書類を取り出す。


「ほら持ってけ!」


 パッと見は借用書の様に見えるが、ファンナの母親の名前などはわからない。


 俺は書類を取りファンナに確認させる。


「ファンナ。これで間違えない?」


「うん。お母さんの字だよ」


 この世界にコピーなんて技術はない。


 魔法で複製などは出来るかも知れないが、わざわざクラウドがそこまでするとも思えない。


「それじゃあ、もうここに用はないね。出ようか?」


「うん。ロディ...ありがとう!」


 ファンナの家の借金問題を解決した俺達は、クラウドカンパニーを後にした。


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