表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/120

第42話 魔水晶の価値

 どうやら声は宿の入り口から聞こえてくるようだ。


 俺と同じく、大きな声で起こされたのかはわからないが、全員が目を覚ましている。


「んー...うるさいなぁー...」


 ヘクトルは明らかに寝起きだ。


 俺と同じく大声で起こされたようだ。


 何が起こっているかを確認するため、俺はベッドを降り宿の入り口へと向かう。


「今日払う約束になってただろう! さっさと払えよ!」


「こんな早い時間に来たことなんて一度もなかったじゃないですか。昼までには用意しますから待ってて下さい」


 昨日来ていた借金取りの男だ。


 こんな早朝からお金の徴収に来るとか、普通に考えたらあり得ないだろう。


「時間なんて言ってなかっただろ? 今、払えないなら約束通りこの宿屋は貰うぞ?」


「何の騒ぎ?」


 ファンナが受け付けの奥から顔を見せる。


 借金取りを見て直ぐに状況を理解したようだ。


「昼までには必ずお渡ししますので、少しだけ待っていて下さい」


「駄目だ。今すぐ払えないというのなら、この宿は今日から俺達クラウドカンパニーのものだ」


 クラウドカンパニーとか会社っぽい名前だけど、こんなゴロツキがいる時点でまともな会社ではない筈だ。


 この男も元々1000コルが目当てなのではなく、宿屋を手に入れたいだけなのだろう。


 あまり他人の俺が関わるべきではないのだが、このまま放っておく訳にもいかない。


「足りない金額はいくらなの?」


「後100コルくらい...」


「だったらこれを使ってよ。後で返してくれれば良いからさ」


 俺はファンナに100コル硬貨を手渡した。


「ロディ...ありがとう。後で必ず返すからね。お母さん、残りのお金を」


「あ、ああ...」


 ファンナの母が受け付けの中にしまってあったお金を取り出し、ファンナに手渡す。


 それを受け取ったファンナが男にお金を渡す。


「これで良いですよね?」


「ちっ! まぁ、良いだろう。それじゃあ今日のところは帰るが、借金を返すまでは何度でも来るからな」


 男はファンナから受け取ったお金を懐へとしまう。


 お金が手に入ったというのに、明らかにガッカリしたような顔をしている。


「借金の方ですが今日中に全てお返しするつもりなので、後から事務所までお持ちしますね」


「は!? 何か大金が入る宛でもあるのか?」


「貴方にお話しする必要はありませんよね? お金はちゃんとお返しするので」


 明らかに男の表情が変化をしている。


 借金を返済するということは、この宿屋を手に入れる方法がなくなってしまったということだ。


 男は無言のまま宿屋から出て行ったが、あの表情を見ている限り嫌な予感がする。


「ロディー、腹が減ったぞー!」


 俺から少し遅れて3人が受け付けの前へとやってくる。


 今起きたことは知らないだろう。


「何か怒鳴り声が聞こえてたけど、大丈夫なの?」


 ミラが心配そうな顔をしている。


 マリスの表情はいつもと変わりないがマリスのことだ。ここで何が起こっていたかさえ把握している気がする。


「大丈夫だよ。昨日の男が来てたんだけど、もう帰って行ったから」


「アイツか? もういっそのことやっつけちゃおうぜ?」


「いや...ヘクトル...それは流石にマズイよ」


 一応、ファンナの母親が男からお金を借りたのは事実だ。


 それに対して暴力を振るうのは筋が通らない。


「そうなのか? それにしてもお腹減ったなー...」


「それじゃあ少し早いけど、朝食にしましょうか?」


「やったー!」


 ヘクトルが食堂の方に走って行く。頭は悪いくせに食堂の場所はちゃんと覚えているようだ。


 俺達はヘクトルの後に続きゆっくりと食堂へ向かう。


 昨日と同じ配置で席に着くが、今朝はアルの顔が見られない。


 一応病み上がりなのは間違えないので、ゆっくりと休ませてあげることにしたんだろう。


 暫くすると全員の前に料理が運ばれてくる。


 朝食はライスではなくパンなのが少し残念だが、間違えなく美味いだろうというのは、昨日の料理から予想が出来る。


 料理を食べ始めると予想通りの美味さだった。


 少し料理を食べ進めたところで、俺はファンナに話を切り出した。


「ファンナは今日魔水晶を売って、そのお金で借金を返しに行くつもりなの?」


「そうだよ。少しでも早く返してあの人が宿に来ないようになれば、お客さんも戻ってきてくれると思うから」


「俺も付いて行って良いかな?」


「別に大丈夫だけど何かあるの?」


「いや、少しあの男の人が気になるんだ」


 宿屋を手に入れることが目的なら、素直にお金を受け取るとは思えない。


 流石に街中でファンナの身に危険があるようなことはないとは思うが、用心に越したことはないだろう。


「ロディが行くなら俺も付いて行くぞ」


「もちろん私も行くわよ」


 マリスは無言で頷く。


「ありがとう。それじゃあ食べ終わったら、先ずはジャスカさんの店に行くことにするね」


 その後、料理を食べ終わった俺達はファンナの母親に分かれを告げて、宿屋を後にする。


 ファンナを先頭にジャスカの店に向かい店に着くと、外にはカシエの姿があった。


「ファンナ、おはよう。今日は早いわね」


「ちょっと色々あってね...。ジャスカさんは中に居る?」


「ええ、中に居るわよ。昨日ファンナが魔水晶を持ってきたことも伝えてあるから」


「ありがとう」


 ファンナを先頭に俺達は店の中へと入る。


 店内のカウンターの中には40代前半くらいの男性が立っていた。


「やぁ、ファンナ。いらっしゃい。後ろの方達はお友達かい?」


「はい。魔水晶はロディが倒した水晶スライムからドロップした物なんです」


「そうなんだ。かなりの強運の持ち主だね。それじゃあ早速見せて貰っても良いかい?」


 ファンナがカウンターの上に魔水晶を置く。


 それを見た瞬間ジャスカの顔に驚きが走る。


「こ、これは...」


 魔道具(マジックアイテム)を扱っている店なら、魔水晶自体それ程珍しい物ではない筈だ。


 それがこれだけ驚くということは、実は魔水晶じゃなかったってオチじゃないだろうな...。


「これだけ上質な魔水晶は初めて見たよ。3万...いや...35000コルで買い取ろう」


 35000!? 魔水晶でそこまで高い金額は聞いたことがない。


 良かった。この金額ならファンナ家の借金は、余裕でオーバーキル出来るだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ