第4話 王都クレイアへ
俺達の住んでいる村はラウンドハールという国にあるテベルという小さな村だ。
テベルの住民は狩りや畑を耕しながら暮らしている者が殆どだが、エレンの様に冒険者をしている者も何人かいる。
ちなみに冒険者というのは職業ではなく、冒険者ギルドと言う組織に登録をして、様々な依頼を受けて報酬を貰う者のことを言う。
村の北にはラウンドハールの王都であるクレイアがあり、クレイア城にて天礼を受けることが出来るため、俺達はそこを目指すことになる。
天礼を受けられる場所は様々あり、教会などでは大概の教会で天礼を受けることが出来る。
そもそも天礼というのは女神アルテミアに祈りを捧げて職業を授けてもらう儀式の様なものなのだ。
だが、俺は神などは信用していない。本当に神が存在するなら俺をDTのまま死なせることなんてなかった筈だ。
後3時間、いや...後、2時間死ぬのを遅らせてくれていたら俺は無事に卒業式を迎えられていた筈なんだ。
その後悔が未だに忘れられないでいる。
この世界では絶対に美女を掴まえて、幸せな毎日を送るんだ。
その為にも今日の天礼にて良い職業が選ばれることを祈るばかりだ。
聖騎士とか剣聖とかに就ければ、職業だけで女性が寄ってくる。
冒険者になりたい俺としては剣聖が選ばれてくれれば一番嬉しいが、マリスの様に賢者でも良いと思う。
回復魔法が使えれば生存率も上がるし、そもそも後方から魔法を打っているだけなら、危険に晒される確率も低い。
何かの間違えで勇者とかが選ばれたら、女性には相当モテると思うが、色々と面倒ごとが増えると思うので、それは俺の望むところではない。
まぁ、勇者が選択されるのは血筋の影響が結構大きい筈なので、選ばれる可能性はかなり低いとは思うが...。
ちなみに俺の父親は俺が産まれて直ぐに死んだと聞かされているが、俺には父親と母親が俺の親権に付いて争っていた記憶がある。
話の内容までは覚えていないが、きっと父親はどこかで生きている筈だ。
もし父親が何かの間違えで勇者だったりしたら俺にも勇者が選ばれる可能性はあるけどな...。
そんなことを考えながら村を少し歩いたところで村の入り口に到着した。
村の入り口には一応、警備役の男が居るのだが、正直全く必要性を感じない。
こんな何もない村に盗賊何かが襲ってくることはないだろうし、仮に襲ってきたとしても、この男では秒殺されるのがオチだ。
それに盗賊くらいならマリスが居れば十分だ。
おそらく30人くらいまでならマリス1人で余裕だと思うし、いざとなればエレンも居る。
「おう! お前たち。村を出てどこかに行くのか?」
「おはよう。オジサン。私達、天礼を受ける為にクレイアに行くの」
「そうかー、お前達も15歳か...。もしも天礼を受けて戦士に選ばれたら村の平和を任せるぞ。俺もそろそろこの仕事を引退しようと思ってるのでな」
仮に戦士になったとしてもこんな仕事はゴメンだ。毎日村の入り口に立っているだけなんて俺には耐えられない。
それだったら戦士の職業を生かし、魔物退治をしていた方が百倍マシだ。
「俺は賢者になるんだ。だからオジサンの跡は継げないなー」
ヘクトルが賢者に選ばれることがあれば、俺は衝撃で1時間くらい固まってしまうかも知れない。
「それじゃあ俺達はクレイアに行くから、オジサンは村の平和を守っていて」
「おう。クレイアまでの道中で魔物が出ることはないと思うが、もし魔物に出会うようなことがあれば直ぐに逃げるんだぞ」
「わかってるよー」
俺達は男と分かれると村の外へと出た。
正直、この辺りに現れそうな魔物なんて母さんに比べたら赤子の様なものだと思う。
今まで母さんが怒った時に何度死を意識したことか...。思い出すだけでも寒気が走る。
「この辺りに出るかも知れない魔物ってスライムだよな? スライムだったらロディが居れば楽勝なんじゃないのか?」
「スライムくらいならヘクトルでも倒せるさ。だけど村からクレイアまでの道には聖水が撒かれている筈だから魔物は現れないと思うよ?」
聖水とは魔物避けのアイテムで、聖水が撒かれた所には魔物が近付いて来なくなる。
ただ、聖水にはある程度の強さを持つ魔物に対しては効果がないという欠点もある。
「それにしてもロディって俺達と同じLV1のクセに何でそんなに強いんだ? 何か裏技でもあるのか?」
裏技という発想が頭の悪い発言だとは思うが、確かに俺の能力値はヘクトルやミラに比べるとかなり高い数値になる。
まぁ、あの母親の血を引いてると考えれば俺の能力値が高いことにも驚きはないと思うが、もしかすると転生特典の様なものがあるのかも知れない。
アニメなんかでも転生者はチート並みに強いって言うのが定番になっているしな。
マリスやエレンのことを身近で見ているので、イマイチ自分が強いという実感がない。
「裏技は知らないけど、俺はあの母さんの息子だからね」
「そうだよなー、エレンさんメチャメチャ美人だもんなぁー」
母親が美人だと息子が強くなるという理屈は全くわからないが、敢えてそこは触れないでおこう。
「ねぇ? ロディはどんな職業に就きたいの?」
「俺は冒険者になりたいから剣聖とかだと最高なんだけど、戦士や剣士でも良いかなぁとは思っているよ。ミラは?」
「私はお祖母ちゃんの薬屋を継ぎたいから、出来れば薬師になれると嬉しいな」
ミラの祖母はテベルで薬屋を営んでいる。
小さな村なので客はあまり来ないが、半分趣味の様な感覚でやっているので、それでも十分らしい。
他愛もない話をしながら1時間程歩き続けていると、俺達の前に目的地である王都クレイアが見えてきた。