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第36話 レアモンスター

「あれだけの傷が一瞬で治るなんて...貴女は一体...?」


 ジムスは相当驚いている。


 数分前まで死を覚悟していた人間としては当然だろう。


「マリスに攻撃能力はありませんが、回復魔法などにはかなり長けているんです」


 実際のところマリスは攻撃能力に関してもずば抜けている。


 それだけではなく転移門(ゲート)などを使うこともでき、まさにオールマイティという言葉がピッタリの存在だ。


「ありがとうございます。貴女のお陰で助かりました。感謝してもしきれません」


 ジムスは何度もマリスに礼を言っている。


 そのタイミングでスレイブ達3人が馬車の方へ戻ってくる。


 どうやら戦いに決着がついたようだ。


 スレイブはジムスの姿を見て驚いている。


「おい? 何でピンピンしているんだ? あの傷は明らかに致命傷だった筈だ」


「マリスさんに回復魔法を掛けて頂きましたので」


「あの傷を回復魔法でだと? マリスはそんなに高位の回復魔法を使うことが出来るのか?」


 スレイブの問いに対してマリスは返答はせず、ただニッコリと微笑むだけだった。


「それで盗賊達はどうなったのですか?」


「俺達の方に来た2人ですが、1人は戦闘不能でもう1人も気を失っています」


 流石にあの状況なら既に目が覚めているということはなさそうだ。


「気を失っている? 殺して来なかったのか?」


「あ...はい...」


 盗賊達を殺して、その首を憲兵所に届ければ報償金が貰えるということは知っていたが、流石に殺そうという考えには一切至らなかった。


「勿体無いことをするなよ。お前が殺らないなら俺が貰うぞ? 俺が殺した盗賊の首と一緒に回収して来るから出発は待っててくれ」


「わかりました。それではスレイブさんが戻り次第出発しようと思います」


「これを1枚貰ってくぞ」


 スレイブは馬車の中に積んであった大きめの布袋を1つ掴んで、俺達が気絶させた盗賊達の方へと歩いて行く。


 本来勇者ならば無駄な殺生を止めるべきかも知れないが、この世界では盗賊を殺す者を止める権利は誰にもない。


 盗賊達を討伐して報償金の稼ぎだけで、生活をしている冒険者も居るくらいだ。


 暫くするとパンパンになった袋を持ちながらスレイブが戻ってきた。


 袋からは少し血が滲んでしまっている。


 おそらくあの中に盗賊達5人の首が入っているのだろう。


「お前達の取り分だが、俺が8割ということで問題はないか?」


 盗賊3人を倒したのはスレイブ、クレーべ、ファンナの3人だ。


 当然報償金の権利は3人に発生する。


「い、いえ...私は何の力にもなれていませんし、必要ありません」


 ファンナは報償金の権利を放棄した。ファンナを見るとスレイブを恐れているようにも見える。


「俺も必要ない。あの盗賊達はかなりの実力者だった。スレイブさんが居なければ勝つことは出来なかっただろうしな」


「お前達、悪いな」


 スレイブは2人がそう答えるのをわかっているかのようだった。


 ジムスには何も確認を取らずに、馬車の空いているスペースに袋を乗せる。


「それでは馬車を出発させますね」


 結局、少しの休憩を取っただけで馬車は出発する。


 再び馬車の両サイドに分かれて進むが、どうやらスレイブに戦力外と言われたようで、ファンナは俺達の方にやってきた。


 馬車の左サイドをスレイブとクレーべ。


 右サイドを残りのメンバーで固める。


 折角の機会だし、俺はファンナと話をしながら進むことにした。


 当然、話をしていても周囲の警戒を解くことはない。


「ファンナはパーティーを組もうとは思ってないの? 狩人(ハンター)って接近戦に向いてないから、前衛職の人間が居ると楽だよね?」


 ファンナに対しては敬語を使っていないが、おそらく年齢は同年代なので問題はないだろう。


「うん。私の場合、普段は家の手伝いをしてるから。休みの日に私でも受けられそうな依頼があったら受けてるだけなの。今は少しでも稼がなくちゃいけないから...」


 なるほど。冒険者は副業みたいな感じなのか。


 お金が必要で仕事をしながら副業のような形で、冒険者をする人間も少なくはない。


 ファンナもそうみたいだ。


 俺の場合も副業と言えば副業だが、勇者と魔王、どっちが本業でどっちが副業かはわからない。


 俺の中ではどちらも本業のつもりでやっている。


「そうか。複数人での護衛依頼なら狩人(ハンター)でも後方支援に回れば接近戦をする必要はないもんね」


「うん。普段は薬草採取とかを受けているんだけど、たまに戦闘が必要な依頼を受けると緊張するね。ロディ達は冒険者になったばかりなんだよね?」


「そうだよ。今回の依頼はまだ二回目の依頼なんだ」


「パーティーは昔からの友達で組んでいるの?」


「そうだぜ! 俺とミラはロディが産まれた時から友達だったんだ。マリスさんはロディのお姉ちゃんみたいな存在だな」


 ヘクトルが俺達の会話に割り込む。


 どう考えても産まれた時は友達じゃなかっただろう。


 そもそも俺達は全員産まれた日も違うのだから。


 多分、正確に言えば2人と仲良くなったのは俺達が3歳くらいの時だった気がする。


「そうなんだー。私も皆と友達になりたいな」


「だったら友達になろうよ。ミラやヘクトルも喜ぶよ」


「おう! 今日から俺とファンナは友達だ!」


「私もファンナみたいな女友達が欲しかったの。宜しくね」


「皆、ありがとう! これから宜しくね」


 言葉の上だけでだが、俺達四人は友達となった。


 同性の友達が出来てファンナは嬉しそうだ。


「私達は3人ともテベルの村出身なんだけど、ファンナはどこに住んでいるの?」


「私はバストールに住んでいるよ。家は宿屋をやっているから良かったら泊まりに来てね」


 元々今日はバストールに一泊する予定だった。


 ファンナの家が宿屋を営んでいるということなら、その宿屋に泊まるのもありかも知れない。


 馬車は進み、バストールまで後少しの距離となった時、再び馬車の前方に魔物(モンスター)が現れた。


 魔物(モンスター)達は5匹づつ左右に分かれている。


「おっ!? ラッキー! 水晶(クリスタル)スライムじゃねーか!」


 スレイブは左の水晶(クリスタル)スライム達のところへ突っ込んで行く。


 魔物(モンスター)水晶(クリスタル)スライムと呼ばれる身体が半透明のスライムなのだが、冒険者はこのスライムに遭遇すると歓喜する。


 水晶(クリスタル)スライム自体は、魔法が効かないということ以外、特に通常のスライムと変わりはない。


 一番の違いは水晶(クリスタル)スライムのドロップアイテムだ。


 このスライムのドロップアイテムの中には、かなり貴重な物が多い。


 もちろん落とす物に付いてはランダム要素が高いが、極希に魔水晶と呼ばれる貴重な水晶を落とすことがある。


 魔水晶は魔法道具(マジックアイテム)の素材として重宝されており、大きさによっては1万コル以上で取引されるケースも珍しくはない。


 最低でも青水晶の欠片と呼ばれる100コル程度で売却出来る水晶を落とすため、冒険者にとってはご褒美でしかない魔物(モンスター)なのだ。


 水晶(クリスタル)スライムは希少魔物(レアモンスター)に分類されるため、滅多に現れることはなく、10匹前後で現れるなど相当珍しいことだ。


「よし! 俺達はアッチの水晶(クリスタル)スライムをやるよ。ミラ、あのスライムには魔法が効かないから、ミラはここで待機していて」


「うん。わかった」


 俺達はニアとマリスを残し右の水晶(クリスタル)スライムに向かう。


 ファンナは後方から弓で攻撃をするが、ファンナの弓では攻撃が当たっても水晶(クリスタル)スライムを倒すまでには至らない。


 俺が1匹目の水晶(クリスタル)スライムを殴ると水晶(クリスタル)スライムは破裂する。


 スライムの破裂した跡からは、青く濁った水晶の欠片が落ちる。


 2匹目のスライムも殴り倒すと、同じく濁った水晶の欠片を落とす。


 俺が2匹を倒し終わったと同時に、ヘクトルも2匹を倒し終わったようだ。


 ヘクトルの方もドロップアイテムは青水晶の欠片2個だったようだ。


 残りは1匹。


 せめて最後の1匹は欠片ではなく、青水晶をドロップしてくれと願いながらスライムに拳をぶつける。


 青水晶そのままなら2000~3000コルくらいになるからだ。


 スライムの身体が破裂すると、綺麗に透き通った紫色の水晶が落ちる。


 魔水晶だ! たった5匹倒しただけで魔水晶が手に入るとは相当の幸運だ。


 俺が魔水晶を拾い上げたところで丁度、スレイブとクレーべがこちらに向かってきた。


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