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第30話 ケルパの実

「次に向かう場所はルクザリアの南に位置しているラグーア村となります」


 転移門(ゲート)を潜ると目の前には大きな湖が広がっていた。


 湖の水は澄んでいて、泳ぐ魚や底の方まで見ることが出来る。


 湖の畔にはいくつもの建物が建てられていて、魔族達の姿も見える。


 ここがラグーア村なのだろう。


「このラグーア湖で取れる魚はとても美味しいと評判なんですよ。ラグーア村の村人は主に漁と農業によって生計を立てています」


 ルーベルの街も良い所だったが、この村も良い雰囲気だ。


 ルーベルに比べると建物は昔ながらの建物と言った感じだが、それがまた味があって良い。まるで田舎に来たような気分だ。


「それでは中へ入りましょうか?」


 マリスに続き村の中へと入る。


 マリスの姿を見た村人がマリスに近付いてくる。


「わぁー、マリス様だ!」


「マリス様いらっしゃいませ!」


 俺達は村人達に囲まれてしまった。


 囲んでいる村人の内、約半数は小さな子供達だ。


「久し振りですね。リリア。元気にしていましたか?」


 マリスが少女の頭を撫でる。


 まだ10歳にも満たない程の年齢の少女で、マリスに頭を撫でられ嬉しそうな顔をしている。


「うん! リリアは元気だったよ。マリス様も元気だった?」


「ええ」


 その後もマリスは周りに集まった子供達と触れ合っている。


 マリスは集まってきた子供達全員の名前を把握しているようだった。


「マリスはこの村のことに詳しいのか?」


「え? 何故、そう思うのですか?」


「村の子供達の名前を全員知っているみたいだからな」


「ロディ様の領地に住む民の名前は全員把握していますよ」


 いや...凄すぎるだろ...。いくら小さな領地とは言え、民の数は相当な数になると思う。


 ルーベルの街だけでもおそらく数万人は住んでいる筈だ。


「ちなみに私の領地の人口は何人くらいなのだ?」


「私が把握している限りでは56893人です。いえ、失礼致しました。先日ロディ様に不敬を働いた者を除くと、現在は56892人ですね」


 それを全員把握しているとか逆に怖いんだけど...。俺だったらその1/100も覚えられる気がしないぞ...。


 ディルクシアには訪れていなくとも、頻繁に思念通話(テレパス)を使って領地の情報は確認していたのだろう。


「流石はマリスだな。民の名前を全員把握しているとは」


「1年も経てばロディ様も全員覚えられますよ」


 100年経っても無理な気がする...。まぁ、マリスが一緒に居てくれるなら困った時は聞けば良い。


「もしも私が困った時はマリスの力を借りるとしよう」


「はい。何でもお聞き下さい」


「その仮面の人がロディ様ー?」


 リリアと呼ばれた少女が俺の顔を直視する。こんな不気味な仮面を付けていては子供は怯えてしまうんじゃないだろうか。


「そうですよ。これからはこちらのロディ様がリリア達の領主となります。リリアも敬うのですよ」


「はい! 宜しくお願いします。ロディ様」


「ああ。宜しく頼む」


 俺にとっては不気味な仮面に見えても、魔族の少女からすれば違うのかも知れない。


 この場にも見た目が怖い魔族は何人も居るが、魔族が魔族に対して怖いという感情は湧かない筈だ。


「私はロディ様に村の中を案内するので、少し空けて貰えますか?」


 マリスに言われ俺達を囲んでいた村人達が道を空ける。


「さぁ、ロディ様。村の中をご案内しますね」


 マリスの案内でグルッと村を一周した。


 聞いた話ではこの村の人口は1000人弱という話だ。


 村で1000人規模ならかなり大きい村なんじゃないだろうか。


 一応、村の中には商店などもあるが、売られている物はクレイアに比べれば遥かに劣る物ばかりだった。


 最後に村長宅に行き、村長と挨拶を交わしたが村長はシダムと言う名の感じの良い老人だった。


 シダムからもてなしを受けた俺達がシダムの家を後にする。


 ここまで見た感じではルーベルもラグーアも全く問題はないようだ。


 人々が皆、笑顔で過ごしている。こんな光景はラウンドハールでは見られないものだった。


「それでは最後の村を見に行くとしようか。頼むぞ、マリス」


「はい。最後の村はルクザリアから南東に位置するカナンという村で、アルバス王国との国境から一番近い場所にある村になります」


 マリスがカナンへの転移門(ゲート)を開く。


 転移門(ゲート)を潜り抜けた先は周りを山に覆われた場所だった。


 右を見ても左を見ても山しかない。


 この山に覆われた場所に村があるということなのだろうか。


「ロディ様。こちらです」


 マリスが俺を山の奥へと案内しようとする。


「ところでマリスに質問があるのだが?」


「何でしょうか?」


「私がこんな話し方をしていることが気にならないのか?」


 仮面のせいでこんな口調になってしまっているが、そんなことマリスにはわからない筈だ。


「いえ、魔王らしく振る舞おうとなさっているのですよね? マリスは気になりませんよ」


 実際には違うのだが、まぁそういうことにしておこう。


「そ、そうか...私の意図に気付くとは流石マリスだな」


 マリスに続き山の奥へと入って行く。


「ここがカナンの村です」


 山の中には大きく開けた場所があり、その場所には多数の家が建てられていた。


 ラグーアに比べれば半分くらいの大きさの村だ。


 村の中に入るとラグーアと同じ様にマリスの周りに村人達が集まってくる。


「マリス様ー!」


「わぁ、マリス様だぁ!」


 どの村に行ってもマリスの人気は凄いものだ。


 ラグーアの子供達と接していたようにカナンの子供達とも接する。


 そんな中で1人の少女が俺の方へと歩いてくる。


 年齢は10歳くらいだろうか。


「貴方がロディ様ですか?」


「そうだが...私に何か用なのか?」


「これからはマリス様に代わって、ロディ様がこの村を守って下さるんですよね? これを受け取って下さい」


 少女が木の実を集めて作った首飾りを俺に手渡す。


 木の実に穴を開けて糸を通しただけの物だ。


「これを私にくれるのか?」


「はい。ケルパの実を身に付けていると幸せになれると言われています。どうかロディ様が身に付けて下さい」


「幸せになれるのならばお前が身に付ければ良いではないか?」


「私達は領主様が守って下さるから幸せに暮らせるんです。だからこれはロディ様が持っていて下さい」


 少女がニコッと微笑む。


 俺は少女の言葉に胸がジーンとしてしまった。


「わかった。ありがたく受け取ろう」


 少女からネックレスを受け取り首に掛ける。


 正直、魔王には似つかわしくない首飾りだが、ちゃんと少女の前で掛けるのが礼儀だろう。


「お前の名は何と言うのだ?」


「ティナと言います。ロディ様」


「ティナか。その名は覚えておこう」


「ありがとうございます!」


 ティナは笑顔のままで俺の前から離れて行く。


 ティナと入れ代わりに、村人達から解放されたマリスがこちらへ向かってくる。


「ロディ様...少し気になることがあるのですが...?」


 気になること? 一体何のことだろうか...。


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