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第29話 ルーベルの街

 転移門(ゲート)を潜り抜けた先はルクザリア城の中のようだ。


 前回来た時には入ったことがない部屋だが、俺の目の前にアルロンの姿があることから、ルクザリア城の中だと気付くことが出来る。


 突然、目の前に俺達の姿が現れたというのにアルロンに驚いた様子はない。


 マリスが事前に連絡をしていてくれたのだろうか。


 アルロンの隣には1脚の立派な椅子が置かれている。


 おそらく城の城主が座る椅子。要するに俺が座る椅子と言うことだ。


「おはようございます。ロディ様」


「ああ。私が帰った後で特に変わったことはなかったか?」


 何だ? 俺の口調おかしくないか? この仮面のせいか? 自然と口調が変わってしまう。まぁ、魔王をやっている時は丁度良いかも知れないが...。


 それにしても、本当にこの仮面大丈夫なのか? 実は呪われているってオチだったら洒落にならないぞ。


「はい。あれ以来、アルバス王国の方にも動きはございません」


「ご苦労だったな。本日は私の領土を色々見て回ろうと思っている。領主たる者、民のことを色々と把握しておく必要はあると思うのでな」


 誰だよ、コイツ...。俺は普通に喋っているつもりなのに、仮面を着けているせいか、勝手に口調が変わってしまう。


「ロディ様が領主を引き継がれたことは民にも伝えてあります。ロディ様のお姿を見ることが出来れば、民も喜ばれることでしょう」


「そうか。マリスの転移門(ゲート)があれば、全ての場所を見て回ることが出来るだろう。一通り回ったらまたこの城に戻って来るつもりなので、その時は宜しく頼むぞ。色々と聞かなければならないことも出てくるだろう」


 俺の治める村や街が問題なくやっているのか確認する必要はあるだろう。


 もしも問題点があれば直ぐに対処すること。それも領主として必要なことだ。


「ところでロディ様...そのお職業のままで領地を回られるおつもりでしょうか? もちろんロディ様がそのおつもりでしたら、私は従いますが」


 アルロンに言われて気が付いた。よく考えたら今の俺は勇者のままじゃないか。


 勇者の職業をしている者が領主として、民の前に姿を現したら混乱が起きてしまう。


 それにしてもアルロンは普通だったが、俺が勇者の職業だということに疑問はなかったのだろうか。


 どのタイミングで俺の能力値(ステータス)を確認したのかはわからないが、勇者という名前を見れば一瞬、反応しそうなものだが。


「今から変えようと思っていたところだ。職業変更(ジョブチェンジ)魔王!」


 ちなみに今の嘘は仮面の力ではなく、俺の意思によるものだ。


 魔王になるのを忘れていたとは、恥ずかしくて言い出せなかった。


「それでロディ様の領地には1つの街と2つの村がありますが、何処から向かうなどの希望はございますか?」


 街が1つと村が2つしかないのか...。まぁ、ディルクシア全体の5%となるとそんなものか。


「特に希望はない。マリスに任せる」


「わかりました。それでは先ずはルーベルの街から向かいますね」

転移門(ゲート)


 マリスがルーベルへの転移門(ゲート)を開く。ルーベルは俺の領地の中で唯一の街らしい。


 転移門(ゲート)を潜ると目の前には大きな街が広がっていた。


 正直、予想以上に大きな街で驚いている。下手をしたらクレイアと同じくらいの大きさなんじゃないだろうか。


「このルーベルはルクザリア城の南に位置しており、ロディ様の領地の中で一番栄えている場所となります。この街にこれば、大体どんな物でも揃えることが出来ますよ」


 魔族の国と人間の国の通貨は異なる。


 そもそも魔族の国と人間の国に国交はないため、通貨を揃える必要もない。


 魔族の国での通貨はシールと呼ばれ、コルと同じく硬貨しか存在していない。


 その価値に関しては人間の国とは異なり、1シールで大体10円くらいの価値になる。


 ちなみに俺は魔族の通貨は一銭も持っていないので、今は完全に文無しだ。


 マリスなら多少は持っていると思っているが、流石に男が女にタカるのはどうかと思う。


「それではルーベルの責任者にロディ様のことを紹介したいと思います。もしもロディ様が気に入らない様でしたら、ルーベルは別の者に任せるということも可能ですので」


 責任者を変えると言っても、俺が知っている魔族なんてマリスとアルロンくらいしか居ないのだが。


 まぁ、交遊関係はこれから増やしていけば良い。魔族の中には友好的な者もいればそうではない者もいる筈だ。


 マリスに案内されルーベルの中を見て回る。街中には人々の笑顔が溢れていた。


 人間の国では魔族は邪悪な者としか教えられないが、実際に会ってみると見た目以外、人間と何ら変わりはない気がする。


 何故、人種が違うというだけでお互いに拒絶することになったんだろうか。


「この建物の中にルーベルの責任者であるホワイトが居ます。アルロンからロディ様のことは聞かされていると思いますので」


 マリスに案内された建物は個人の家ではなく、軍の施設のようだ。ルーベルは軍が管理をしているということだろうか。


 建物の入り口には武装をした兵士が2人立っている。


「これはマリス様。ルーベルにお越し頂きありがとうございます」


「ホワイトにロディ様を紹介に来たのですが、ホワイトは中に居ますか?」


「そちらの方が我等の新たな主、ロディ様ですね。宜しくお願い致します」


 人間の兵士よりも魔族の兵士の方が、余程しっかりとしている気がする。


「ああ。宜しく頼む」


「ロディ様。中へご案内します」


 マリスに案内されて建物の中へと入って行く。マリスに案内された先は1つの部屋の前だった。


「ホワイト。入りますよ?」


 マリスが軽くノックした後、扉を開け中へと入る。


 部屋の中央には大きな机が置かれており、部屋の中にはいくつもの本棚が並んでいる。


 本棚には隙間が見当たらないくらい大量の本が詰められていた。


「これはマリス様。お久し振りです」


 机の前に座っていた男はマリスを見ると立ち上がった。


 少し長めの金髪で両耳の上の辺りからは角が生えている。


 服装は黒のスーツを身に付けているが、出来る男と言った感じでそのスーツがとても似合っている。


「ホワイト。こちらがロディ様です。これからはロディ様の力になるようお願いしますね」


「はい。マリス様程のお方がお認めになったお方です。私も全身全霊を持ってお仕えしたいと思います」


 ホワイトが頭を下げる。第一印象からはかなり良い印象を受ける。

  

 そもそもルーベルの責任者として相応しくない者をマリスが任命をする筈がない。マリスが選んだと言うだけで信頼にあたる人物な筈だ。


 それはホワイトからしても言えることで、マリスが誰からも信頼されているという証拠だ。


「今年のルーベルの税率は1割でお願いしてありましたが、クロード様に納める税と運営費の方は賄えそうですか?」


「はい。おそらく相当ギリギリだとは思いますが、何とか予算内で収めるように致します。クロード様からも今年の税に関してはご理解を頂いておりますので」


「もしも民からの税だけで足りない様ならこれを使って下さい」


 マリスが机の上に見たこともない程の大金を置く。100万シール硬貨が100枚以上はありそうなので、余裕で1億シール以上はありそうだ。


 税率とは民が国に払う税金の比率のことだが、1割というのは破格の安さだ。


 民から徴収した分の中から一部を国王にも納める必要がある。


 地域によっても多少は変化するが、ラウンドハールの税率が3~4割くらいといったところだ。


「税率が1割とは毎年そんなに安くしているのか?」


「いえ...今年はこの地方が凶作により、民の収入が減ることを心配されたマリス様が、今年のみ税率を1割に引き下げたのです。この地方では主に農作物によって生計を立てている者が多く居ますので、凶作が民にもたらす影響はかなり大きなものなのです」


 軍の運営などは民の税から賄われている筈だ。


 税率を下げればそれだけマリスが大変な思いをすることになる。


 このお金は運営費が足りない分をマリスが出そうということだ。


「ロディ様。申し訳ございません。1年間の税率を途中で変更すれば混乱が起きてしまいます。今年だけは私の決めた税率でお願い致します...。来年以降はロディ様の仰る通りの税率に致しますので」


「大丈夫だ。それで、本来のルーベルの税率はいくらだったのだ?」


「2割です。少しでも民には楽な暮らしをさせてあげたいと思っていましたので...」


 2割でもかなりギリギリな筈だ。削れる物は全て削って上手くやっているのだろう。


「では来年からも2割で問題ない。マリスの意思は私が継ごう」


「ロディ様...」


 マリスが居たからこの街の人達は皆、笑顔で居られるんだ。俺はそんな民の気持ちを裏切ることは絶対にしない。


「ロディ様。私にお任せ下さい。2割の税でも上手くやってみせます」


 流石はホワイト、出来る奴だ。


「ルーベルの状況は大体わかった。それでは次の場所に向かうとしよう。マリス、頼む」


 1つ目の街を確認した俺は、次の目的地につながる転移門(ゲート)をマリスに開いてもらった。


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