第26話 初めての報酬
さぁ拳神の祝福の効果を見せて貰おうか。
格闘術のLV5となると下手な武器を装備するよりも、素手で戦った方が全然強い筈だ。
取り敢えずは軽く拳を握り、スライムに叩き付けてみた。
俺の拳がスライムに当たるとパンという大きな音がして、スライムが破裂した。
「軽く殴っただけでこれだけの威力があるなんで...」
明らかにヘクトルが殴った時とは違いがあり、スライムは俺の拳が当たると同時に破裂した。
拳神の祝福...予想以上に強力なスキルの様だ。
これならサクサクとスライムの討伐を進めることが出来る。
俺はスライムコアを拾い上げると、再び新たなスライムの姿を探し始めた。
遠くにスライムの姿が3匹見える。
俺はスライムに接近し、1匹づつ殴って行く。
先程のスライムと同様に拳が触れたスライムが破裂する。
一瞬で3匹のスライムはいなくなり、その場には3つのスライムコアだけが残る。
こんな調子に俺達は、ひたすらスライムを発見しては討伐を続けていった。
3時間もすると周囲からは完全にスライムの姿が居なくなってしまっていた。
「ふぅー、これでこの辺りのスライムは全部倒したかな...」
スライムが居なくなったのを確認すると、再び俺達が合流する。この戦いでマリスはニアに付いていたが、これは俺が指示を出したことだ。
魔法力補充が使えるマリスが傍にいれば、ミラは何発でも魔法を放つが出来るし、万が一にもミラが攻撃を受けてしまった場合は、直ぐにマリスに回復魔法を掛けてもらえることが出来る。
「ミラ。大丈夫だったかい?」
「うん。マリスさんがMPを分けてくれたから全然苦労しなかったよ」
火球程度の魔法だったら100発放ったところで、マリスのMPは半分も減らないことだろう。
「マリス。ニアに付いててくれてありがとう」
「いえ。ロディ様のご判断は正しいと思います」
「ロディ。スライムを倒した後に出る石がこれだけ集まったよ」
ミラは持参の袋にスライムコアを入れていた様だ。
袋の口から中が見えるが、30個以上は入っていそうだ。
「しまった! その石を集めてくるのを忘れてた!」
ヘクトル...誰が一番集められるか競争と言っていた本人が何で忘れるんだ...。
おそらく夢中になってスライムを倒していたことで、スライムコアのことなんて忘れてしまったのだろう。
正直、スライムを倒すよりもヘクトルが倒したスライムのスライムコアを探す方が余程大変な気がする。
ヘクトルが辺りを走り回っていたのを俺は目撃している。これだけ広い場所から小さな石を探すとなるとかなり困難な作業だ。
「仕方がない...。とにかく手分けをして少しでも回収をしよう」
俺達は4人に分かれてスライムコアを探した。
ヘクトルがスライムと戦った場所がわかれば、スライムコアが落ちている場所もわかるが、それをヘクトルに聞くのは聞くだけ無駄だ。
俺達も多少はヘクトルが戦っていた場所がわかるので、その場所から探していった。
結局4人で3時間程探し回って見付かった結果が50個のスライムコアだった。
おそらく10個以上は取りこぼしている筈だ。
俺は集めた50個のスライムコアと、ミラから預かった35個のスライムコアを異空間収納袋へと収納した。
「それじゃあ冒険者ギルドに戻ろうか」
「結局、冒険者になってから何も食べてないなー。クレイアに戻ったら報酬全部使って食べ物を食いまくろうぜ!」
一体どれだけ食べるつもりなんだ。ヘクトルのせいで時間が2倍掛かってしまったというのにヘクトルに悪びれた様子はない。まぁそれがヘクトルという男なのだが。
「報酬全部は無理だけど、ヘクトルがお腹一杯になる分は十分稼いだと思うよ」
「そうなのか? じゃあ競争はロディが1位で俺が2位か」
スライムコアを集める競争だったらヘクトル、お前は0なのだが...。
「ミラは何か欲しい物はないのかい?」
「うーん...。何かお祖母ちゃんにプレゼントを上げたいかな...」
「じゃあ最初の報酬は食べ物と、ミラのお祖母ちゃんのプレゼントを買おう」
その2つを買ったとしてもパーティーのお金は十分残る。正直、俺が倒したスライムの数を知ったら2人は驚くことだろう。
「ロディは何か欲しい物はないの?」
「うーん...俺はマリスに何かプレゼントを買って上げたいかな。子供の頃からマリスにはずっとお世話になっているからさ」
「ロディ様ぁ!」
マリスが俺に抱き付いて来た。身体にマリスの胸が当たると心臓の鼓動が高鳴り、鼻に触れるマリスの髪からは良い匂いがする。
「マリス。ちょっと」
俺はマリスの身体を引き離す。正直嬉しい気持ちはあるが、照れ臭い気持ちの方が強い。
「マリスはロディ様から頂ける物でしたら、例え道端に落ちている石ころだろうと、肌身離さず持ち歩き一生大切に致します!」
それはやり過ぎだろ。ただの石ころを肌身離さず持っていたら流石に怖いぞ。
「取り敢えず冒険者ギルドに達成報告をしに行こう」
依頼を達成した俺達は、達成報告をして報酬を受け取る為に冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに着き、中に入ると相変わらずギルド内は人で賑わっていた。
他の職員は冒険者の対応をしているが、先程の女性職員のところは空いている。
俺は女性職員の前へと向かった。
「あれ? 貴方達は今朝、冒険者登録を行ったパーティーの方々ですよね? 確かパーティー名は〖闇の光〗だった筈...」
「はい。スライム討伐の依頼が完了したので、報告に来ました」
「もう50匹倒したんですか? 新人さんにしては早いですね。それではスライムの討伐証明部位になるスライムコアを提出して頂けますでしょうか?」
「はい」
俺は異空間収納袋から出したスライムコアをカウンターの上に広げた。
「こ、この数は...それに今のは異空間収納袋ですよね?」
俺がカウンターの上に置いたスライムコアの数は200個を優に越える。
俺はあの時間でスライムを150匹以上倒していたのだ。
異空間収納袋に付いても俺みたいな子供が持っているのはかなり珍しいことだ。
「250個くらいはあると思うので、数えて貰っても良いですか?」
「ロディすげーな!」
「ロディ1人で私達の倍くらい討伐してたんだね!」
2人は驚いている。2人の驚いた表情を見ることが出来て俺も満足だ。
職員がスライムコアを数え始めた。5分くらいの時間でスライムコアを数え終えると職員の口から個数が発表された。
「全部で255個ありましたので510コルですね。こちらが報酬の方になります」
職員はカウンター内に置かれている箱からお金を取り出すと、カウンターの上に並べた。
100コル硬貨が5枚に10コル硬貨が1枚だ。
「ありがとうございます」
「いえ。こちらこそありがとうございます。優秀な新人さんが出てきてくれて嬉しいです」
報酬を受け取った俺達は冒険者ギルドの外へと出た。
「それじゃあ110コルはパーティーのお金として残しておいて、100コルづつ皆に渡すよ。これだけあれば食べ物も好きなだけ食べられるし、ミラもお祖母ちゃんへのプレゼントを買えると思うから」
「私はお金は必要ありませんので、パーティーのお金にして下さい」
マリスが受け取りを拒否する。まぁ、マリスがそう言うなら無理に渡すこともないだろう。
「よーし! 美味い物を食べまくるぞ!」
「私もお祖母ちゃんへのプレゼントを探しに行きたい!」
「それじゃあ暫く別行動にしようか? 自分の用事が終わったらクレイアの南入口で合流しよう」
「おう! わかったぞ」
そう言うとヘクトルは飲食店が多く並ぶ方向へと走って行った。
「それじゃあまた後でね」
ミラは商店などが並んでいる方向へと歩いて行く。
「じゃあマリス。俺達も行こうか?」
「はい」
俺とマリスもミラが向かった方向へと歩き出した。




