第24話 報酬の分配
「それじゃあ早速依頼を受けようぜ!」
ヘクトルは早く依頼を受けたくてウズウズしている様だ。
初めての依頼で失敗をする訳にはいかない。最初は確実に達成出来ると思った依頼を受けよう。
「何か依頼をお受けになるのですか? 依頼ならそちらの壁に張ってありますので、受けたい依頼があれば壁の紙を剥がしてこちらに持ってきて下さい」
そう言って女性職員が指差した先には壁一面に張られた依頼書があった。
パッと見だけでも50近い依頼書が張られていると思われる。
俺達は依頼書の張られた壁に近付き依頼を確認していく。
「魔物の討伐。薬草の摂取。商品運搬の護衛。迷子の子犬の確保。こうして見ると色々な依頼があるなー」
張り出された依頼は討伐依頼だけではなく、多種多様な依頼があった。
その中には戦闘が全く出来ない人間でも受けられる様な依頼がいくつもある。
これを見る限り戦闘が出来ない人間でも冒険者をやることは出来るようだ。
「ロディ! この依頼はどうだ?」
ヘクトルが指差した依頼書を見るとドラゴンの討伐依頼と書かれていた。
当然のことながらFランクの俺達が受けられる様な依頼などではなく、依頼書にはAランクと書かれている。
「ヘクトル。あの職員さんの話を聞いていなかったのかい? 受けられる依頼は俺のランクの2個上までなんだよ」
仮に受けることが出来るとしても、こんな依頼を受けられる筈がない。
LV1でドラゴン何かと戦えば、パーティーはマリス以外確実に全滅してしまう。
「うーん...。Fランクの2個上って何ランクなんだ?」
...ヘクトルよ...お前はそれすらわからなかったのか。
おそらく今からヘクトルにFからAまで教えたとしても、覚えるのは困難だろう。
「俺のランクが最低ランクのFでその上がE。Eの上がDランクだよ。だから俺達が受けられる依頼はD迄の依頼だけなんだ」
「そうか。それでDから1個上がればAになるのか?」
「...Aランクの依頼が受けられる様になったら、ちゃんと教えるからそれまでは待ってて...」
Aランクの依頼を受けられる様になるにはCランクに上がる必要がある。Cランクに上がるにはどれくらいの時間が必要になるのだろうか。冒険者によっては3年以上続けてもDランクにすら上がれない人間も居ると聞く。
「ロディ。初めての依頼だし、これはどうかな?」
ミラが指差した依頼はFランクと書かれた依頼で、その内容はクレイアの北に出現するスライムの討伐だった。
報酬はスライム1匹に付き2コル。コルというのはこの世界の通貨の単位で、大体1コルが100円くらいの価値になる。存在するのは硬貨のみで紙幣は存在しない。
スライム1匹倒して200円くらいと考えると、1時間に5匹倒せば時給1000円くらいの換算になる。
「スライム相手なら危険もないし、初めて受ける依頼としては丁度良いかも知れないね」
俺は壁の依頼書を剥がして先程の職員の所へ持って行く。
「この依頼を受けたいのですが」
依頼書をカウンターの上に置くと職員が依頼書に目を通す。
「クレイア北に出現するスライムの討伐ですね。指定討伐数は50匹となっていますが、それ以上討伐をした場合でも討伐報酬の方は出ますのでご安心下さい。新米パーティーでも頑張れば1日に100匹くらい倒すことも出来ますよ」
100匹倒したら1日200コルか。1人頭50コル。日当としてはかなり安いが最初に受ける依頼としては十分だろう。
「依頼の受け付けが完了致しました。期限などは特にありませんので、50匹以上の討伐が完了しましたらスライムコアをお持ち下さい。討伐証明部位のことはおわかりになりますか?」
討伐証明部位とは、倒した魔物の身体の一部のことだ。それをギルドに提出することでその魔物を倒したことをギルドに証明することができる。
討伐証明部位は魔物によって異なるので、討伐依頼を受ける場合は必ず把握しておく必要がある。
「はい。大丈夫です。スライムの場合はスライムを倒した後にドロップする小さな石ですよね?」
「そうです。そのスライムコアを50個集めれば依頼達成となります。スライムを50匹倒してもスライムコアが50個なければ依頼達成とはなりませんので、お気をつけ下さい」
ヘクトルにはスライムコアの回収を忘れないよう口を酸っぱくして言っておかなければならない。
仮に言っておいたとしても忘れるのがヘクトルだが...。
「よし。それじゃあクレイア北の入り口に向かおう。依頼を受ける上で重要な話があるんだけど、それは歩きながら話そう」
俺達は冒険者ギルドを出るとクレイア北の入り口へと向かった。
依頼を受ける上で重要な話。そう、それは報酬に関することだ。
お金に関しては均等に分ければ大丈夫なのだが、問題は魔物からのドロップアイテムや貴重なアイテム何かを手に入れてしまった場合だ。
魔物を倒した時に希にレアなアイテムを落とすことがあり、パーティーを組んでモンスターと戦う場合、魔物が落としたアイテムの所有権を巡ってパーティー内で揉め事が起こる場合がある。
「パーティー内で手に入った報酬やドロップアイテムとかの分配に付いて、揉めることがないよう最初に決めておきたいんだけど」
「私はロディ様と一緒に居られるだけで良いので、何も必要ありませんよ」
マリスが笑顔でそう答える。
「俺は何でも良いぞ! 報酬とかアイテムのことは面倒だから全部ロディに任せる! 美味い物さえ食べさせてくれるなら、お金は全部ロディが持っていっても良いぞ」
ヘクトルは食べ物さえあれば良いみたいだ。だが、一応ヘクトルも冒険者になるんだ。得た報酬は受け取る権利がある。
しかしヘクトルにお金を渡すと、ろくな使い方をしない気がするので、俺に一任してくれると言うことなら一先ずは俺が管理しておくことにしよう。
「私も全部ロディに任せるよ。お金は大切だけど、お金のことで皆と揉めたりするのは嫌だし、ロディが決めちゃって良いよ。ロディなら皆のことを考えて行動してくれるって知ってるから」
ミラも俺に一任してくれるみたいだ。
だったら取り敢えず報酬は全てパーティーのお金にして、そのお金から必要な物を買うことにしよう。
お金がある程度貯まったらパーティーで必要になる分だけは残して、後は皆で均等に分ければ良い。
ヘクトルの分はヘクトルの両親に預けることにしよう。
ドロップアイテム何かも戦闘で使える物は必要な人間に渡すことにしよう。
例えば魔法関連のアイテムならミラに渡すといった感じだ。
報酬の問題も片付いたし、いよいよ冒険者になって初めての依頼の開始だ。
俺達がクレイア北の入り口に着くと、そこには見たことのある男の姿があった。




