第23話 冒険者
「こんにちは。あまりお見掛けしたことがない気がしますか、こちらへ来られたのは初めてでしょうか?」
ギルド職員の女性は俺から話し掛けるでもなく、声を掛けて来てくれた。
おそらく年齢は20代前半くらいで、第一印象は感じが良く、笑顔が素敵な女性だ。
「はい。そうです。つい最近天礼を済ませたばかりで、今日は冒険者登録をしに来ました」
「そうでしたか。それでは冒険者ギルドの説明の方をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
冒険者ギルドの説明か。色々な依頼を受けることで、報酬が貰えたり冒険者ランクが上がるということは知っているが、それ以外にも注意点があったりするかも知れない。
普段はあまり説明などを聞くようなタイプではないが、ここはしっかりと聞いておこう。
特に重要なことがあれば、ヘクトルにはくどい程言っておく必要がある。
「お願いします」
「冒険者ギルドというのは世界各地に多数存在しているのですが、それらは全て冒険者協会という組織によって運営されています。冒険者ギルドは魔族が統治する国以外には全ての国にありますので、どの国に居ても利用することが出来ます」
確かに魔族の国に冒険者ギルドがあるっていう話は聞いたことがないな。
それに代わる何かがあっても良さそうなものだが。
「どの冒険者の方も、初めは冒険者ランクFというランクから始まるのですが、依頼をこなすことでこのランクが昇格することがあります。ランクが昇格すれば受けられる依頼も増えて報酬額なども増加します。ちなみに依頼に失敗が多い方などはランクが降格することもあるので、依頼を受ける時は無理な依頼は受けずに達成出来ると思った依頼だけを受けるのが宜しいかと思います」
成績の悪い者は出世することが出来ない。これはどこの世界でも同じことだ。
「受けられる依頼は自分の1つ上のランクまでとなりますが、パーティーを組んで依頼を受ける場合はパーティーリーダーの2つ上のランクまで受けることが出来ます」
それは初耳だ。と言うことはFランクの俺達でもDランクの依頼まで受けることが出来るのか。
正直、FランクとDランクの依頼にどれだけの差があるかわからないし、先ずはFランクを受けてみて、余裕そうなら1つづつランクを上げて行くのが無難だろう。
「そしてこれが一番重要なことなのですが、冒険者ギルドに登録をしている人間が罪を犯した場合は、一定期間の間依頼を受けることが出来なくなります。期間は犯した罪の重さに比例しますが、無意味な殺人などを行った場合はギルドカードを永久剥奪。その上で賞金を懸けられることになります」
重い罪を犯すと賞金首になるということか。盗賊にでも襲われれば別だが、俺達が誰かを殺すなんてことはあり得ない。このことを心配する必要はないだろう。
「ちなみに魔族に力を貸す行為なども、かなり重い罪となりますので、気を付けて下さいね」
...不味いな...。人間の国では当然のことかも知れないが、魔族に力を貸すことも重罪になるらしい。
俺の場合は混血になるので魔族という訳ではない。もちろん人間という訳でもないが。
だが、勇者をしている時の俺は人間として冒険者をするつもりだ。
勇者をしている時は人間。魔王をしている時は魔族。勝手にそう解釈しておこう。
「気になる点がなければ冒険者登録に移りたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
「はい。大丈夫です。もし、何かわからない様なことがあった場合には、また聞きに来ます」
「わかりました。それで、登録は冒険者登録のみをされますか? それともパーティー登録の方も致しますか?」
もちろんパーティー登録もする予定だ。元々そのつもりだったし、報酬を分配することやドロップアイテムの取り分で揉めること以外には、パーティーを組むデメリットはない。
「パーティー登録もお願いします。ちなみにパーティーの定員人数なんかは決まっているんですか?」
「パーティーは最大で8人迄となります」
いやいや、8人パーティーとか多すぎるでしょ...。
RPGでも戦闘に8人も出せるとか聞いたことないぞ。
報酬も8等分するとなれば、1人頭の受け取れる金額は相当少なくなる気がする。
「それではこちらの書類にご自分の名前と参加するパーティー名。後、パーティーリーダーの方はこちらの欄にもお名前を記入して下さい」
ギルド職員に4枚の書類とペンを渡されたが、困ったことになった...。
リーダーはともかく、パーティーの名前なんて全く考えていない。
有名なパーティーになった時のことを考えて、ダサい名前にだけはしたくない。
「ロディ。もちろんリーダーはロディがやれよ。一番強いんだからさ!」
「私もロディが良いと思う。強いとかは関係ないけど、リーダーが一番似合うのはロディだと思うから」
「じゃあリーダーは俺がやるよ。そんなことよりパーティーの名前をどうしようか...?」
「ロディが決められないなら俺が決めてやっても良いぞ。〖天才軍団〗とかどうだ?」
「...却下」
4人しか居ないのに軍団はおかしいだろ。そもそも自分達のことを天才と自称するとか痛すぎる。
「だったらロディが決めてくれよ。ロディが決めたのならなんだって良いぞ」
「うーん...うーん...闇と光...光と闇...」
頭の中に闇の勇者と光の魔王のことが浮かぶ。
「〖闇の光〗ってパーティー名はどうかな?」
闇を照す光というパーティー名も浮かんだが、それだと光が上みたいでエレンが怒りそうだ。だが、〖闇の光〗ならちょっと闇の方が上に来てる気がするから、エレンも何も言わない筈だ。
「カッコいいじゃんか! 俺はそれで全然大丈夫だぞ」
「私もそれで良いわよ」
「ロディ様。良いお名前ですね。クロード様とエレン様もお喜びになると思います」
俺達は職員に渡された書類に名前とパーティー名を書き込む。
パーティーリーダーのみ名前を書き込む欄があるので、俺はそこにも名前を記入する。
全員が記入を終え、書類を職員に渡すと職員が俺達の冒険者登録を始める。
慣れた手付きで4枚のカードに何やら記入をしている。
「お待たせしました。あなた方のギルドカードが出来上がりました」
職員が俺達の名前とパーティー名の入った茶色いカードをカウンターの上へと置く。
カードにはギルドのランクを示すであろうEという文字が大きく入っている。
「ギルドカードは身分証の代わりとしても使える物となります。昇格や降格以外で再発行する場合には手数料が必要となりますので、無くさないように気を付けて下さいね」
それぞれがギルドカードを受け取ると、俺は絶対に無くさないよう異空間収納袋へと収納した。
これで俺も冒険者か。これから始まる新たな人生に俺の心はワクワクしていた。




