第22話 腹が減ってはなんとやら
「ロディ様。私の転移門なら一瞬でクレイアまで行くことが出来ますが?」
村の外に出て暫く歩いた所でマリスがそう言い出した。
確かにマリスの転移門なら一瞬でクレイアまで行くことは出来る。
だが、勇者をやっている間はなるべくマリスの力を借りるのは避けたい。
それに歩いて城まで行くのもパーティーで旅をしている感じがして楽しそうじゃないか。
「転移門は使わなくて良いよ。あまり楽をしていても駄目だからね。転移門はいざっていう時に頼むことにするよ」
「かしこまりました。必要な時はいつでも声を掛けて下さい」
ディルクシアに行く時は常にマリスの転移門が必要になる筈だ。
逆にマリスの転移門がなければ勇者と魔王の両立なんて絶対に出来なかっただろう。
「マリスさんも一緒のパーティーってことは、ドラゴン退治の依頼を受けても達成出来そうだなー」
ヘクトルがニタニタとしている。
ドラゴンを倒せる程のパーティーとなると、一瞬で国中にその名を広めることが出来る。勝手に有名になった時の想像でもしているんだろう。
「ヘクトル。それなんだけどさ...」
俺はヘクトルとミラにマリスが戦闘には参加しない旨を伝えた。
最初は残念そうにしていたヘクトルだったが、直ぐにまぁ良いか! という発言が飛び出した。
「冒険者をやる限りは魔物との戦闘を避けることは出来ない。その時に備えて2人の使えるスキルや魔法を教えて貰っても良いかな?」
俺は自分の使えるスキルや魔法を2人に教えた。闇の領域に関しては効果がわからない内は危険なので、使用する気はないとも伝えた。
そして2人からも使えるスキルや魔法をを聞き出すと、それを2人の能力値に照らし合わせた。
ーーーーーーーーーー
ヘクトル
学者 職業LV1
LV1
HP150
SP30
MP0(5%)
力60
技36(1%)
速さ30
魔力0(2%)
防御40
[装備]
なし
攻撃力60 守備力40
[加護]
炎E 水E
風F 地C
聖E 魔E
光E 闇E
[スキル]
鑑定LV1
交渉LV1
解析LV1
[魔法]
毒状態回復
水球
ーーーーーーーーーー
やはりヘクトルの就いた職業では、能力値の補正が殆ど意味をなさなくなってしまっている。0にはどれだけ補正が付こうが0のままだ。
商人と学者になって覚えた鑑定、交渉、解析は役に立ちそうだが、魔法に関してはどれだけ覚えようが、MPが0では使うことが出来ない。
ーーーーーーーーーー
ミラ
魔道師 職業LV1
LV1
HP70
SP10
MP53(5%)
力25
技30
速さ40
魔力52(3%)
防御20
[装備]
なし
攻撃力25 守備力20
[加護]
炎C 水E
風D 地D
聖D 魔D
光D 闇D
[スキル]
薬知識LV1
調合LV1
祈り
[魔法]
少回復
毒状態回復
火球
水球
ーーーーーーーーーー
結局ニアは残りの職業の1つに魔道師を選んだのか。もう1つの職業は何を選んだのだろうか? 祈りというスキル名からして神官か僧侶の様な気はするが。
「ニアのもう1つの職業は何?」
「神官よ。僧侶とどっちか迷ったけど、お父さんに相談したら適正LVの高い方にしなさいって言われたから」
薬師と神官になったのに回復系魔法が2つしかないのは、おそらく少回復と毒状態回復が両方の職業で被ってしまっているからだと思う。
少回復を使える職業と言えば俺が知っているだけでも10以上はあるし、最初の頃は仕方がないことだろう。
職業的には勇者の俺が前衛職で、学者のヘクトルと魔道師のミラが後衛職になるが、ヘクトルの場合は後衛に居ても何もすることは出来ないので前衛で戦ってもらおう。
俺とヘクトルで前衛を張り、ミラが後方からの魔法支援。このパーティーの戦闘スタイルはこれで決定だ。
「ヘクトル。戦いになったら俺とヘクトルで敵をミラに近付かせないようにするんだよ」
「おう! 任せろ! 魔物なんてヘクトルパンチで一撃だぜ!」
ヘクトルパンチ...拳闘士になっていたら本当にそんなパンチを繰り出すことが出来たかも知れないのにな。
「ロディ様...私には使えるスキルや魔法を聞いて下さらないのですか?」
「マリスの能力に頼る様な戦い方はしたくないからね。マリスは自分の判断で適当に援護をしてくれるだけで良いよ」
「かしこまりました」
正直、マリスがどんなことが出来るのか気にはなるが、それを知ってしまえば当てにしてしまうかも知れない。
基本的にはマリスは一緒に居ないと考えて、自分達だけで戦い抜ける実力を身に付けなければいけないだろう。
前回と同じようにテベルを出てから1時間程歩くと王都クレイアが見えてきた。
以前同様、入り口には2人の兵士の姿がある。
あまり記憶に残っている訳ではないが、天礼の日に入り口を警備していた兵士とは別人の様に思える。
「クレイアへようこそ。クレイアへは何のご用で参られたのですか?」
兵士2人の視線は完全にマリスの方を向いている。声を掛けているのも明らかにマリスに対してだ。
「クレイアには冒険者ギルドに登録をする為に来ました。私達4人でパーティーを組もうと思っているんです」
マリスは笑顔で兵士に返答をしている。
この組み合わせを見たら兵士はどう思うのだろうか。3人の子供と保護者と言ったところだろうか。
「そうですか。貴女の様なお美しい方が命を落とすことになってはいけません。依頼を受ける時には無理のない依頼を受けて下さいね」
「ありがとうございます」
マリスで無理な依頼ならば、この国の誰にも達成することは出来ないだろう。
兵士達と分かれクレイアへ入場した俺達は冒険者ギルドを目指した。
何度かクレイアには来ているので、冒険者ギルドの場所は把握している。
中まで入ったことは1度もないので、今日初めてギルドの中に入ることになるが、あまり緊張などはしていない。正直、光の魔王と対面するよりも緊張することなど、この先の人生であるとは思えない。
「なぁー、ロディ。腹が減っては戦は出来ないとも言うし、冒険者ギルドに行く前に何か食べて行こうぜ?」
「ヘクトル? 朝は食べて来なかったの?」
「食べたけど、もうお腹が減って来たんだよ」
何て燃費の悪い身体なんだ...。まるでアメ車じゃないか。しかも戦いに行くならまだしも、俺達は冒険者登録をしに行くだけだ。腹が減っていても全く問題はない。
「先に冒険者登録だけしに行くよ。その後はヘクトルの好きなだけ食べたい物を食べても良いから」
「よし! ロディ! 冒険者ギルドまで走るぞ!」
ヘクトルがいきなり走り出した。この面子の中で唯一冒険者ギルドの場所を知らない男...。
それがヘクトルだ。
「ヘクトル! そっちじゃないよ!」
ヘクトルを呼び戻すと俺達は再び冒険者ギルドに向かい歩き出した。
15分程歩き冒険者ギルドの前へ着いた俺達は、冒険者ギルドの中へと足を踏み入れる。
室内には多数の冒険者達の姿があった。
ここクレイアの冒険者ギルドはギルドの規模も大きく、ラウンドハール内でも1.2を争うだろう。
奥には受け付けカウンターが設置されており、カウンターの中にはギルド職員の姿がある。
今いる職員は3人。男性職員が2人の女性職員が1人だ。
冒険者登録をするべく、俺は迷わず女性職員の前へと向かった。