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第20話 闇の剣

 転移門を潜り抜けた先は家の入り口を入って直ぐの部屋だった。


 そして俺の目の前にはエレンの姿があった。


 エレンの表情は明らかに怒っている。普段ならとっくに寝ている様な時間帯だ。勇者のことを話す為だけに俺達のことを待っていたのだろう。


「遅い!」


 エレンの拳が俺の頬にヒットする。脳が揺れると一瞬目の前が暗くなる。


「うぐっ!」


 倒れそうになった俺をマリスが支えてくれた。


「ロディ様! 大丈夫ですか?」


「あっ、ああ...ありがとうマリス。母さん...何もいきなり殴らなくても良いじゃないか...」


「アンタが遅すぎるからいけないんだよ! こっちはずっと待っているって言うのに!」


「人間なんだから口で言えば良いじゃないか。母さんみたいな人間ばかりだったら、世界中で毎日戦争が起こってるよ」


「ふーん...言いたいことはそれだけかい?」


 再びエレンが拳を握り締める。先程よりも力が入っている様に見えるのは気のせいだろうか。


「ちょっと! 落ち着いて! 今は俺を殴るよりも先に勇者の話を聞かせてよ」


「それもそうだね。さっさと終わらせて早くベッドに行きたいからね」


 エレンは握り締めていた拳を開くと手を下ろした。俺はホッと胸を撫で下ろす。


「まだ勇者には就いてないよね? 取り敢えず今すぐに勇者になるんだよ」


職業決定(ジョブセット)勇者!」


 エレンに促された俺は最後の職業欄(ジョブスロット)を使用して勇者になった。


 どんなスキルや魔法が増えているかと確認すると、新しく増えているものは4つだった。


ーーーーー

[スキル]

剣術LV2

強剣撃(スマッシュ)

拳神の祝福

[魔法]

火球(ファイアーボール)

ーーーーー


 おそらく剣術というのは常時発動技能(パッシブスキル)だと思うのだが、拳神の祝福というスキルが謎だ。


 スキル効果を確認するとこのスキルが勇者らしからぬスキルだと判明した。


 拳神の祝福(常時発動技能(パッシブスキル))武器を持たずに素手で戦う場合、格闘術のLVが5段階上昇する。


 俺が前世でボクシングの才能があったことと関係しているのだろうか。


 これは流石にユニークスキルな気がする。何故、勇者になることで発生したのかは謎だが、剣術のLVが低い間はかなり有効なスキルになるだろう。


 俺には格闘術のスキルはないが、このユニークスキルのお陰で、常に格闘術LV5の恩恵が受けられる筈だ。


「勇者にもなったみたいだし、今から良いものを見せてあげるよ」

 

 エレンは右手を上に掲げると手のひらを大きく開いた。


「全てを包み込む闇の力よ! 神器闇の剣(レーヴァテイン)


 エレンがそう叫ぶと空間に黒い裂け目が出来る。


 エレンはその切れ目に右手を突っ込んだ。


「一体何が...」


 エレンが切れ目の中から右手を引き抜くと、その手には1本の剣が握られていた。


 その漆黒の剣は不気味な輝きを放っている。


 剣が現れると同時に、何事もなかったかの様に空間の裂け目は塞がっていく。


「この剣の名前は神器闇の剣(レーヴァテイン)。アンタも神器の存在くらいは知っているよね?」


 神器とは神が作ったとされる伝説の武器だ。その威力は普通の武器とは比べ物にならない程の威力だが、選ばれた者にしか扱うことが出来ないと聞く。


 確か八竜勇者(ブレイブエイト)は全員がそれぞれに神器を持っている筈だ。


「神器って名前自体は知ってるけど、どんな武器があるかまでは知らなかったよ」


「闇の勇者になる為にはこの闇の剣(レーヴァテイン)を使いこなせる様にならなければいけない」


 エレンは剣を下向きに持つとそのまま床に突き刺した。


 いくら木で出来てるとはいえ、剣を刺せばそれなりに抵抗が起こる筈だが、剣はまるで豆腐にでも突き刺したかの様にするすると床に侵入して行く。


「試しにこの剣を振ってみな」


 エレンに言われ俺は剣の柄に手を掛ける。


「うっ、うわぁぁぁ!」


 身体から何かが剣に吸いとられている感覚がある。


 まるで剣に命を吸われている様な感覚だ。


「うっ、ううう...」


 意識が遠くなって行く...。俺はこのまま剣に殺されるのか...。

  

 そんなのゴメンだと言いたいところだったが、俺はそのまま意識を失ってしまった。





 どれくらい時間が経っただろうか...。マリスの声が聞こえてくる。


「ロディ様! ロディ様!」


「ん...マリス...おはよう...」


 よく見るとマリスの目からは涙が溢れている。ずっと泣いていたのか目が真っ赤になっている。


「おはようじゃないですよ! 私がどれだけ心配したと思ってるんですか!」


 寝ている俺の体にマリスが抱き付いてくる。


 そうか。俺はあの剣を手にした後で意識を失ったんだ。


「心配掛けてゴメン。俺はもう大丈夫だから」


 俺は右手でマリスの涙を拭った。


「全く、だらしないねー」


 マリスの奥にはエレンの姿もあった。マリスとは違いエレンの表情は普段のエレンそのままだ。


 俺が大丈夫だと確信していたのか、もしくは俺のことなど心配する必要さえなかったのか、もしくはそれ以外か。俺にエレンの気持ちはわからない。


「あの剣を持った途端に、剣に何かを吸われている感覚があったんだけど...」


「それはアンタが闇の剣(レーヴァテイン)に認められていないってことだよ。闇の剣(レーヴァテイン)は自分を使う資格がないと思った者からは命を吸おうとする。まぁ、勇者になったばかりのアンタがあの剣を使えるなんて思っていなかったけどね」


 それは俺が剣に命を吸われることがわかっていたということになる。


 死んでたらどうするつもりだったんだよ...。


「気軽に試さないでよ。死ぬかと思って本当に怖かったんだから...」


「いやー、何かの間違えでアンタが闇の剣(レーヴァテイン)を使える様なら、直ぐにでもアンタに闇の勇者を継がせることが出来たからさ」


 LV1の俺が闇の勇者になったところで何が出来るって言うんだ...。


 最悪、ちょっと強いモンスターと戦っただけでやられる可能性もあるぞ...。


「それで俺はどうすればあの剣を使える様になるの?」


「それはアンタが強くなることだね。アンタがあの剣に相応しい程の強さを身に付ければ、剣もアンタを認めてくれる筈だよ」


 取り敢えずはコツコツと始めていくしかないか。当初の目標だった冒険者になって、依頼を受けていれば自然と強くなる筈だし、勇者の職業LVも上がることだろう。


「母さん。俺、冒険者になるよ! いつか必ず闇の剣(レーヴァテイン)を使える様になってみせるから」


「あんまり待たせるんじゃないよ」


 俺は勇者として強くなる為に冒険者になることを決めた。


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