第2話 異世界転生
ん...。どれくらい時間が経ったのだろうか。俺が目を覚ますと目の前には青い空が広がっていた。
いつも見ている空とは違い何かボヤけている様な変な感覚だ。
空がおかしいと言うよりは俺の目がおかしい気がする。
血を流し過ぎた影響だろうか...。身体の感覚もいつもと違うし、俺の身体はどうなってしまったのだろうか...。
不安になっていると俺の周りで言い合いをしている男女の声が聞こえてきた。
「何故だ。この子は私が育てる! この子には立派に私の跡継ぎとなって貰わなければならんのだ!」
「ふざけるんじゃないよ! 何で、私の息子をアンタの跡継ぎなんかにしなきゃいけないんだ! この子には私の跡を継いでもらって私は引退するんだよ!」
「それこそふざけた話だ! だったらこうしよう。天礼が行われる日が来れば、この子がどちらの素質が高いか分かる筈だ。その時に相応しい方にさせることにしよう」
「良いだろう! それじゃあ天礼の行われる15歳の誕生日までは、私が責任を持って育てることにするぞ」
男女が激しく言い合いをしているが、この子と言うのは誰のことを言っているんだろう...。空しか見えないため、辺りの様子が全くわからない。
「何故、そうなるんだ! 心配でお前に預けることなど出来ぬわ!」
「そりゃあこっちのセリフだよ! アンタの近くに置いといたら天礼の日まで無事で居られるとは思えないからね!」
「くうぅ! だったら私の部下のマリスを付けさせて貰うぞ! お前1人では不安だからな!」
「良いけど、15歳になるまでアンタのことは絶対にこの子に言うんじゃないよ! 知ったらまともな人間に育たなくなるかも知れないからね!」
「それではまるで隠し子みたいではないか!」
「アンタが父親なんてことは隠しておくに決まってるじゃないか!」
本当にうるさい男女だな。会話の内容的に夫婦の様だが、俺は結婚したらこんな夫婦にはならず、ラブラブな夫婦を目指すんだ。
ん? 突如身体が誰かに持ち上げられた様な感覚が起こった。
背中に背負われている様だが、明らかに背中が広く感じる。まるで自分が赤ん坊にでもなった様な感覚だ。
いや! 違う! これは俺が実際に赤ん坊になっているんじゃないのか。
ハッキリと目が見えないが、おそらく俺は女性の背中におぶられている。女性の背中が広く感じるのは自分の身体が小さいからだ。
俺の中には2つの可能性が浮かび上がった。
1つはこれが全て夢だと言うこと。実際の俺は今、病院のベッドの上で眠っているということだ。
もう1つは生まれ変わったというケース。生まれ変わりなんてことが実際に起こるのかわからないが、それなら今の俺が赤ん坊になっていることにも説明がつく。
あの男にナイフで刺された俺は死んで、新しく命を受け、赤ん坊として生まれ変わったということだ。
だとしたらさっきの男女は俺の両親か...。会話の内容はあまり気にしてなかったが、父親と母親で親権を取り合って母親が育てることになったといったところか...。
もし生まれ変わっていたとしたら次こそはリア充な人生を送ろう。
それにしても前世の記憶がある時点で生まれ変わりはおかしいか...。
ん? 何か、また眠気が襲って来たぞ...赤ん坊だからか...? でもこれは夢の筈だよな? 次に目が覚めた時は病院のベッドの上だろうと思いつつ俺は眠りに付いた。
そして15年の月日が流れた...。
結論から言うと俺に起こった現象は生まれ変わりだった。
しかもただの生まれ変わりではない。
俺の今住んでいる場所は日本ではなく、地球でもない。いわゆる異世界というやつだ。
そう。俺は死んだことにより異世界に転生を果たしたのだ。
この世界ではゲームの世界で存在するような、能力値やスキルや魔法などが普通に存在している。
敵キャラの代名詞である魔物や魔王なんかも存在しているのだが、魔王は1人だけではなく複数人存在するため、絶対的ボスキャラ感は下がってしまっている。
ちなみに勇者なども存在しているのだが、勇者も複数人存在するため、その希少さが薄れてしまっている。
魔王にしろ勇者にしろ、職業に付けるのは15歳になってからと決められており、誰もが15歳になると天礼というものを受け、その天礼により自分が就ける職業を知ることが出来る。
殆どの人間は複数ある職業からいくつか職業を選ぶことが出来るのだか、就ける職業の数は職業欄と呼ばれるものの数だけとなる。仮に職業欄が3つあれば3種類の職業に就くことが出来る。
この職業欄の数も天礼をすることで判明して、殆どの人間が2-3個となるようだ。
選んだ職業は簡単に切り替えをすることができ、例えば狩人と料理人の職業を持つ者なら、狩りをする時は狩人になり、獲った獲物を料理する時は料理人に切り替えたりすることも出来る。
選択出来る職業は1度決めたら、2度と選んだ職業以外には変えれないため、将来のことを考えて選ぶことになるのだが、人によっては選べる職業が1つしかない人間もいる。
残念だが、そういう人間は他の人間よりも不自由な思いをしながら生きて行くことになる。
もちろんその1つが賢者などの様に需要がある職業の場合は別だ。
選べる職業が1つもなかった人間も居たと聞いたことがあるが、そんなことになれば絶望しかない。
今日は俺の14歳最後の夜。
俺は明日、城に行き天礼を受けることになっている。
別に15歳になって直ぐに受ける必要はないが、母親から受けられる年齢になったら直ぐに受ける様言われていたため、15歳の誕生日に受けることとなった。
正直、将来のことがあるので俺も早く知りたいとは思っている。
折角異世界に転生したことだし、冒険者になってみたいので理想を言えば戦闘が出来る職業が良い。
近接戦闘職と魔法職が両方選べるのがベストだが、そんなに都合良くは行かないだろう。
漁師や木こりなどが選ばれた場合は冒険者を諦めて大人しく暮らす覚悟は出来ている。
明日のことを考えると緊張して全然眠れる気がしない。
そう、俺は数時間前からずっとベッドの上で横になっているのだが、一行に眠れていない。
まぁ、天礼に関しては体力を使ったりする訳じゃないので、寝不足だろうと問題はないのだが...。
ベッドの上で数時間は眠れなかった俺だが、流石に朝が近付くに連れて徐々に眠気が襲ってきて、気付けば深い眠りに落ちていた。