第19話 ロディの領地
「アルロン。久し振りですね」
「お久し振りです。マリス様」
アルロンと呼ばれた男は椅子を立ち上がりマリスに一礼した。
「何か変わったことはありませんでしたか?」
「数日前にアルバス王国からの侵攻がありましたが、私とトゥエント率いる部隊で撃退に成功致しました」
アルバス王国というのはディルクシアの東に隣接する人間が治める国のことだ。
アルバス王国からの侵攻を受けるということは、俺の治めるべき領地はディルクシアの中でも東の方にあるということだ。
「そうですか。ご苦労様でした」
「それでアルバス王国に対しての対応はいかが致しますか? 逆侵攻をすると言うのであれば直ぐに準備の方を致します」
「そのことですが...ロディ様」
マリスに促されて俺はアルロンの前へと立つ。
アルロンを間近で見たが、マリスの様にかなり人間に近いタイプの魔族の様だ。
若干耳が尖っているので、よく見れば人間ではないことがわかるが、パッと見だけでは判断出来ないだろう。
見た目だけでいけば20代後半くらいに見え、黒の長髪に、顔はクロードに負けず劣らずのイケメンだ。
「この方はロディ様と言います。私の四魔将の位はロディ様へと移りました。これから私達の軍の指示はロディ様が出すこととなりますので、ロディ様に従って下さい」
「かしこまりました。それではロディ様。如何いたしましょうか?」
アルロンは外の兵士と同じく、マリスの発言を何の疑問も抱かずに受け入れている。
「俺がいきなり上官になることに疑問を抱かないのですか?」
「はい。私達はマリス様を信じております。そのマリス様が自分の地位を譲る程のお方です。そんな方にお仕え出来ることに何の疑問がありましょうか」
マリスへの信頼に揺るぎないことが直接俺への信頼に繋がっている様だ。流石マリス。ここまで部下の信頼を得ることなど容易いことではないだろう。
「ありがとうございます。まだまだ未熟者な俺ですが、皆さんの力を貸して下さい」
「もちろんそのつもりです。それからロディ様は私の上官になられるお方です。私に対して敬語はお止め下さい」
「わかりました...。いや、わかったよ」
「それでアルバス王国への対応は如何致しますか?」
アルバス王国への対応か...。逆侵攻をしてアルバス王国の一部でも手に入れることが出来れば、クロードが言った様に領土を広げることが出来るだろう。
だが...。
「ちなみにと...クロード様の配下である四魔将が勝手に他国に侵略をしても良いのかい?」
危ない...危うく父さんと言ってしまいそうだった。本人の前では言いにくくても、他人の前では簡単に言ってしまいそうだ。
「はい。もちろんクロード様からの指示がある場合はそれが最優先になりますが、基本的に魔族以外の者が治める国に対する対応は、四魔将の判断に任されます。魔族が治める国に侵攻をする場合には必ずクロード様の判断を仰ぐ必要がありますが...」
人間の国に対しては何をするのも俺の自由ということか...。とは言ってもいきなり人間と戦争をする程の心構えが今の俺には出来ていない。
「アルバス王国に関しては少し様子を見よう。それで大丈夫かな?」
「はい。ロディ様のご判断に従います」
戦争か...。戦争になったら多くの命が失われるんだろうな。
だが、魔王を目指す者として人の死から避けて通ることは出来ないだろう。
「アルロン。ロディ様はディルクシアの国内事情にはあまり詳しくありません。貴方から説明をして頂けますか?」
「わかりました。現在ディルクシア内には5つの勢力が存在しています。1つはクロード様で、残りの4つが四魔将となります」
ディルクシア内の5大勢力か。俺がその内の1つになるなんて昨日までの俺では考えられないことだ。
「領地の分布的にはクロード様が50%とすると、四魔将がそれぞれ25%12%8%5%となります」
1人で25%も保有している四魔将が居るのか。四魔将の保有する領地の半分を持つ者。マリスは領地をアルロンに任せ、増やそうとはしなかった様なので、25%が俺の領地と言うことはないだろう。
光の魔王を目指す俺としてはソイツが最大のライバルになる筈だ。
「ロディ様の領地は国内の5%。ディルクシア北東の一部となっております。他の3人の四魔将が治める領地がそれぞれ南東、南、西とあり、西の領地は南西から北西まで大きく広がっています」
西の領地を治めているのが俺のライバルとなる四魔将か。一体どんな奴なのだろうか。
「国内の情勢はこの様になっています。ところでマリス様はどうされるおつもりでしょうか? ロディ様の下で働くということでしたら、私は喜んで副官の座をお譲りしたいと思います」
アルロンが副官。マリスの率いていた軍のNo2ということか。
確かに上官だったマリスがアルロンの下に付くとなれば、色々とやりにくいだろう。
「必要ありませんよ。私はロディ様のお世話がかりとしてロディ様に仕えます。軍のことに口を出すつもりもありませんので、引き続き副官はアルロンが勤めて下さい。ロディ様もそれで宜しいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。アルロン。改めて宜しくね」
俺が差し出した右手をアルロンが握ってくれる。
マリスが部下になるよりは、今までの様にお世話ががかりとして接してもらった方が俺もやりやすい。
「それでロディ様は今後、この城に滞在をされる予定でしょうか?」
「そのことなんだけど...俺には他にもやらなくちゃいけないことがあって、マリスの時みたいに俺が留守の間はアルロンに任せても良いかな?」
「はい。わかりました。もし何かあれば思念通話でご連絡下さい」
「思念通話?」
「ロディ様は魔王になられたのですよね? スキルや魔法などの確認はされましたか?」
魔王にはなったが、忙しくて能力値などの確認は一切していなかった。
「いや、してないよ」
「それでは確認してみて下さい」
俺はアルロンに言われた様に自分のスキルと魔法を確認してみた。
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[スキル]
地図作成
思念通話
威圧
闇の領域
[魔法]
闇の弾丸
恐怖
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「スキルは地図作成、思念通話、威圧、闇の領域の四つで、魔法が闇の弾丸と恐怖が使えるみたいです。あれ? おかしいな...。地図作成は旅人の職業だった筈なんだけど...」
「一度身に付けたスキルや魔法は他の職業になったとしても使えますよ。調理スキルや狩猟スキルなどは職業によって効果に差が出ることもありますが...」
なるほど。だったら勇者と魔王の職業LVをMAXまで上げれば両方の全てのスキルと魔法を同時に使える様になるってことか。
「魔王になって覚えるものは思念通話、威圧、闇の弾丸、恐怖の筈なので闇の領域というのはロディ様のユニークスキルだと思われます」
「ユニークスキル? でも昨日まではこんなスキルなかったけど...」
「ある職業に就くことで発生するユニークスキルも存在します。おそらく闇の領域はロディ様が魔王になるということが発生条件だったのでしょう」
ユニークスキルか。闇の領域とか名前的に危なそうだな...。
スキル効果を確認しようとしても効果不明と表示されるだけだ。
(ロディ様)
突然マリスの声が頭の中に響き渡る。
マリスの方を見たが、マリスの口は一切動いていない。
(これが思念通話になります。会話をしたい相手を頭に思い浮かべて話し掛けることで、どれだけ離れた相手とでも会話をすることが出来ます)
(なるほど。それは便利だね。これを使えばラウンドハールに居てもアルロンと話すことが出来るということだね?)
(はい。それよりもそろそろ帰りませんと、エレン様が待ちくたびれていると思います)
しまった! 色々と話を聞いている内にかなりの時間が経ってしまっている筈だ。
「アルロン。ありがとう。今日のところはもう帰ることにするよ。俺がいない間のことは任せたよ」
「はい。お任せ下さい」
「それでは帰りましょう」
マリスが転移門を発動させると、俺達は急いで門を潜り抜けた。