第18話 男女の不思議な関係
『転移門』
エレンが転移門を潜るとエレンの姿は消えていった。
「それではクロード様。私はロディ様と共にルクザリアへ行って参ります」
「うむ。ロディのこと宜しく頼んだぞ。それからロディよ。お前は私の息子だと言うことを口外するではないぞ?」
クロードは俺が息子だということを他の者に知られたくないのだろうか...。確かに光の魔王の息子と言われるには、今の俺はあまりにも弱すぎる。
「誤解するでないぞ。これはお前の身を守る為なのだ。お前が私の息子だと知れば、魔族の中から必ずお前の命を狙う者が現れるだろう。今のお前は弱い...。狙われれば確実に命を落とすことになろう。マリスでも敵わない様な者がこの国には存在するのだ。それを忘れるでないぞ?」
「肝に命じておきます...」
マリスでも敵わない相手。確かにエレンみたいなのが魔族にもいれば、マリスでも勝利を納めるのは難しいだろう。
人間にエレンの様な存在が居るのに、基本的に人間よりも能力が高いとされている魔族に居ない道理はない。
「ロディ様のことは私が命に変えてもお守りしますから!」
「頼りにしているよ。だけど、敵わない相手には逃げる勇気も必要だよ。俺は自分が無事だとしてもマリスが傷付く様なことがあれば何一つ嬉しくはないから...」
「ロディ様...」
俺の言葉が嬉しかったのか、マリスの潤んだ目から涙がこぼれ落ちそうになっている。
「何だ? お前はマリスに気があるのか? 相手がマリスなら私も大歓迎だぞ」
この男、鈍いな...。マリスが思っているのはアンタで、俺はアンタの息子だということだけでマリスに尽くされているだけなんだ。
「マリスのことは家族として大切に思っています。父さんこそマリスのことをどう思っているんですか?」
「私か? 私はマリスのことを部下の中で最も信頼しているぞ。だからこそマリスにお前のことを任せたのだ」
「部下としてではなく女性としての話です!」
俺は少し声を荒らげてしまった。光の魔王の前でこんな態度を取るとか冷静に考えれば恐ろしいことだが、マリスの気持ちを考えるとそんなことを考えている余裕などなかった。
「ロディ様。良いのです」
マリスがニコッと微笑む。エレンの微笑みに比べると、受ける感情には天と地程の差がある。
「マリスは良い女だ。もちろん私のことを思ってくれているのも知っておる」
クロードはマリスの気持ちを知っていた上であの行動を取っていたのか? だとしたら尚更...。
「ロディ様。私はクロード様に何かをしてもらいたいとは思っていないのです」
「ロディ...。お前は何か勘違いをしている様だが、私はマリスに求婚をしたことがある。しかし見事に断られたのだよ...」
クロードがマリスに結婚を申し込んで、それをマリスが断った? 俺から見ればマリスがクロードのことを思っているのは明らかだと思うのだが、どうなっているのだろうか...。
「私はクロード様とそういう関係になりたいとは思っていません。ですが、ロディ様とならそういう関係になっても良いと思っていますよ」
マリスの言葉に嘘はないように思える。まぁ、本人がそう言うなら俺もクロードとマリスの関係に付いては触れないことにしておこう。
好きだけど一緒になりたい訳ではない。複雑な関係が恋愛経験0の俺に理解出来る筈もない。
「あまり遅くなっては、ロディ様がエレン様に叱られてしまうかも知れません。ルクザリア城へと向かいましょう」
魔王という職業のことが理解できた後は、エレンから勇者の話を聞かなければいけない。
確かにあまり遅くなってはエレンにキレられる可能性もある。
「そうだね。なるべく早く帰らないと...」
『転移門』
俺達の前にルクザリア城へと繋がる門が姿を現した。
「クロード様。それではまた」
「うむ。ロディのことを頼んだぞ。ロディ。お前が光の魔王となる日を心待ちにしておるぞ」
「はい。期待を裏切らないよう努力致します」
俺達が門を潜ると一瞬にして辺りの景色が切り替わった。
辺りを見渡すと城を中心として平野が広がっている。
さっきまで居た城に比べればかなり規模は小さな城となるが、王と配下の城となればこれくらいの差はあって当然なのかも知れない。
「それではロディ様。城へご案内します」
城に向かって歩き出したマリスの後ろに付いて行く。
城は周囲が高い壁に覆われており、入り口以外から中へ入るのはかなり困難が伴うだろう。
ここからでは入り口が何ヵ所に付いているのか確認することは出来ない。
俺達が向かった先の入り口には魔族の兵士達が2人立っていた。
兵士達の後ろで入り口の門は閉ざされている。
「マリス様!?」
マリスに気付いた兵士達がこちらへ近付いてくる。
「マリス様。お帰りなさいませ!」
「2人共、入り口の警備ご苦労様です」
「マリス様が留守の間、この城は我等が必ずお守り致します。ところでそちらの方は何方でしょうか?」
「こちらの方はロディ様と言います。私の四魔将の位はロディ様へと移りましたので、これからはロディ様を私だと思い尽くして下さい。もちろん私自身もロディ様の下で力を尽くすつもりでいます」
マリス...いきなりそんなこと言っちゃうのか...。明らかに人間にしか見えない俺がマリスの代わりに上官になると言われても納得が出来る訳がないと思う...。
「わかりました。ロディ様。これからは宜しくお願い致します」
「よ、宜しく」
驚いた...。兵士達はマリスの言葉に何の疑問も抱いてはいないようだった。
いきなり来た俺を受け入れてしまっている。
「アルロンは居ますか?」
「はい。アルロン様なら自室に居られます」
「ありがとう。門を開けてもらっても良いですか?」
「はい! ただちに!」
兵士は二人で同時に門の扉の左右を押した。
ギギーっという音と共に門が開く。
「それではロディ様。城の中へどうぞ」
門を抜けて城までは10m程の距離がある。
マリスの後に続き城の入り口から中へと入って行く。
「一体アルロンって言うのは?」
「私がこの城を含む領地の管理を任せている信頼出来る部下ですよ。この土地の領主がロディ様に代わったことをアルロンに伝えなくてはなりません。アルロンはディルクシア国内で見ても相当な実力の持ち主です。必ずやロディ様のお力になることでしょう」
ディルクシア国内で相当な実力者って...そんな奴が俺みたいな人間の配下になるのか...? 確実に反発が起こる気がするのだが...。
俺がマリスよりも実力があるならまだしも、今の俺の実力ではマリスの足元にも及ばない。
「着きました。ここがアルロンの自室になります」
案内された先は城の中にいくつかある小部屋の内の1つだった。
マリスが軽く扉をノックする。
「アルロン? 私です。マリスです」
マリスが声を掛けると直ぐに中から返答が返ってくる。
「マリス様? どうぞお入り下さい」
マリスが取っ手を握り扉を奥に押し開くと部屋の中はまるで書斎の様な部屋だった。
大量の本棚が並んでおり中にはビッシリと本が詰まっている。
よく見るとベッドが置かれており、この部屋が書斎ではなく個人の部屋だと気付かせてくれる。
部屋の奥には机と椅子が置かれており、椅子の上には真っ黒なスーツを着た男が腰を掛けていた。




