第17話 四魔将
確かに魔王になると言っても現状では何をすれば良いのか全くわからない。
こんな人間がいきなり国の王となっても国民がパニックになるだけだ。
「私はお前に私の跡を継ぎ光の魔王となってもらうことを望んでいるが、私の一存だけでお前を光の魔王とすることは出来ぬのだ」
クロードの言っていることは当然だ。実績のない人間をいきなり跡継ぎにする様な真似をすれば、周りからクロードの行動が疑われてしまう。
「私の跡を継ぐべき資格を得るためには、まずお前が四魔将となる必要がある」
四魔将。マリスの身分のことだな。魔王の跡を継ぐ程の立場となれば魔王に次ぐ地位なのかも知れない。
「四魔将になれる者は全て魔王の素質がある者だけだ。お前が私の跡を継がないのであれば、今いる四魔将の中から跡継ぎを決めるところであった」
それってマリスも魔王になれるってことか? 俺が跡を継ぐと言い出さなければマリスが光の魔王になっていた可能性もあるということだ。
「それでクロードさん。俺が四魔将になる為にはどうすれば良いんですか?」
「父親にさん付けとは水臭いぞ。マリス以外の私の部下が居らぬ前では父と呼んでくれ」
「わ、わかりました...。父さん...」
クロードは満足そうな顔をしている。正直、出会ってすぐに父親として接するのは無理があるだろう。
「四魔将になる方法。なーに簡単なことだ。今の四魔将に挑戦をして見事勝利を納めれば良いだけだ」
...いや、四魔将ってマリスクラスの強者ってことだよな? どう考えても俺が勝てる筈がない。
マリスに関しては、マリスと戦うこと事態が選択肢に入れられないから論外だ。
俺の手でマリスを傷付けるなんてことは絶対にしたくない。
「クロード様。そのことですが、私の四魔将の地位をロディ様にお譲りしたいと願います」
「マリス? 良いのか? お主とて相当な苦労をして四魔将の地位を得たのだろう? ロディの為とはいえ、私はお主にその地位を捨てさせようとは考えておらぬぞ?」
「いえ。私が四魔将を目指したのは少しでもクロード様のお側に近付きたかったからです。クロード様の命ということは別にしても、今はロディ様に生涯尽くすことが私の望みとなっております」
マリスがクロードに対して、王と部下という感情以外に特別な感情を持っているのは間違えがない。
マリスが俺を慕ってくれているのはクロードの息子だからなんだろう。
「うむ。お主がそう言ってくれるのなら四魔将の地位はロディへと引き継がせることにしよう。魔王の職を持たぬ者を四魔将にすることは出来ぬ。ロディよ。この場で魔王の職に就くが良い」
いよいよか...。魔王に就いてしまえばいくら後悔をしようとやり直すことは出来ない。
死ぬまで一生魔王の名が付きまとうことになる。
しかしもう俺に迷いはない。魔王も勇者も両方やると決めたんだ。
「職業決定魔王!」
俺の能力値に魔王の名前が表示される。今の状態で他人から能力値を確認されれば、俺が魔王だと簡単にわかってしまう。
「ロディよ。汝を四魔将へと任命する。国の為に忠誠を尽くすが良い」
仕来たりなど全くわからない俺は、この後にどういう行動を取れば良いのかがわからない。
「膝まずいて、ありがたく頂戴致しますと言えば良いのですよ」
マリスが俺の耳元でボソッと呟く。俺はマリスに教えられた様にその場に膝まずいた。
「ありがたく頂戴致します」
「ロディよ。今日からお前は四魔将となった。その自覚を持って生きるのだぞ。それとこれは私から四魔将になったお前への祝いの品だ」
そう言ってクロードが俺の前に小汚ない袋を差し出す。
祝いだというのにこんな小汚ない袋を渡すとはどういうことだ? 冗談でも言っているつもりなのだろうか...。
「その袋は異空間収納袋と言って、中は異空間となっておる。袋の口を開き向けた物ならどれだけ大きい物でも収納することが出来るし、どれだけ物を収納しようと袋の重量が変わることはないので、移動で不便を感じることはないだろう」
異空間収納ってやつか...。確か買おうとすれば飛んでもなく高価なアイテムだった筈だ。
ありがたい。これがあれば冒険者をやる時も相当便利になる筈だ。
俺は異空間収納袋を腰へとくくりつけた。
「ありがとう。と、父さん」
「これでスタート地点には立つことが出来たが、肝心なのはこれからだぞ。お前を私の後継者に選んだとしても誰からも文句が出ない様に、お前にはこの国に貢献をしてもらわなければならぬ」
「国に貢献? 俺は一体何をすれば?」
「それは自らで考えるのだ。四魔将としてのマリスに与えてあった領地はそのままお前が引き継ぐこととなる。取り敢えずはその領地を広げることから始めるが良い」
魔族でも人間でもそれなりの地位となれば、国の一部を領地として与えられる。
領地を与えられた俺には領地に住む者を守る義務が生まれる。
勇者と魔王の二足のわらじを履いてそんなことが出切るのだろうか...。
「俺はその領地にずっと滞在をするということが出来ないと思うのですが、大丈夫なのですかね?」
「自分が留守の間は信頼できる者に領地を任せると良い。現にマリスがそうしておるではないか」
確かにそうだ。マリスはずっと家に居て俺の面倒を見てくれている。たまに留守にすることはあっても、1日家を留守にしたことなど記憶にない。
「領地のことは信頼出来る部下に任せてありますから。私は領地を広げるつもりはありませんでしたので、それで十分だったのです」
領地を広げる。つまりは他の魔族の国か人間の国を攻めると言うことだ。
流石に戦争を起こすとなれば部下の判断で動かせる訳にはいかないだろう。
自分の領地を広げるということは、人間とも戦争をする必要があるかも知れないということだ。
今の俺に人間と戦うことなんて出切るのだろうか...。
「ロディ様のことを部下に紹介する必要もあります。今からルクザリア城へと向かいたいのですが、宜しいでしょうか?」
ルクザリア城? それが俺の領地にある城の名前か。と言うか...いきなりマリスに四魔将の座を譲ったと言われて部下が納得するのだろうか...。マリスだからこそ部下になっていた者も居るかも知れない。
「私は先に帰ってるから家に送ってくれ。ロディが帰って来たら勇者の心得という物をタップリと教えてあげるからね」
エレンが不気味に微笑んでいる。
何だろう...凄く嫌な予感しかしないのだが...。