第16話 決断
「失礼します」
マリスが取手に手を掛けて扉を開く。
扉が開いた先では玉座に座る男の姿が確認出来た。
男からはこれだけ離れているというのに物凄い威圧感を感じる。
間違えない。この男が光の魔王クロードだろう。
俺達はクロードに近付いて行く。
身体から発せられる威圧感とは逆に、クロードの外見は俺が想像をする様な姿ではなかった。
額からは角が生えていて人間ではないことは直ぐにわかるのだが、それ以外には取り立てて人間と変わる部分は見当たらない。
魔族なので外見から年齢は判断できないが、人間にすれば20代後半くらいに見え、かなりのイケメン顔だ。
全身が白いマントに覆われているため、ハッキリとはわからないが、身体付きもそれほど大きくは感じない。
「マリス。お前には色々と迷惑を掛けさせたな」
「いえ、クロード様。ロディ様の側に居られてマリスは幸せです」
マリスがまるで恋をしている少女の様な目でクロードを見つめている。
マリスが他の者にそんな顔をしているのを見ると、少し複雑な気持ちになってしまう。
「お前がロディか...大きくなったな」
クロードが俺の頭に手を伸ばす。何をされるのかと思い反射的に目を閉じてしまったが、クロードは俺の頭を撫でただけだった。
「今までエレンの元で苦労をさせたな...。これからは私が父としてお前を立派な後継者へと育ててみせよう」
「何言ってるんだい! 勝手にロディをアンタの後継者に決めるんじゃないよ!」
エレンが俺とクロードの間に割り込む。クロードは俺が魔王になることを決めてここに来たと思っているようだ。
「どういうことだ? 天礼にて魔王の適正の方が高かったからここに来たのではないのか?」
「クロード様。それがですね...」
マリスがクロードに、今に至るまでの経緯を説明する。
話を聞いたクロードは頭を抱え込んでしまった。
「なんということだ...。どちらの適正もSとは信じられん...」
「私もだよ。だけど実際に起こってしまったことは仕方がない。今はロディがこの先どうするかってことを話し合わないと...。と言うことでロディは私の跡を継がせて勇者として育てるから!」
「と言うことでではない! ロディは私の跡を継ぎ、光の魔王となるのだ! お前は今まで15年もロディと一緒に暮らしていたのだ。それで満足せよ!」
「は? ふざけるんじゃないよ! 私はロディを闇の勇者にする為に必死に育てたんだ! アンタに渡すつもりはないよ!」
息子の目の前で夫婦喧嘩とか勘弁してほしい...。そもそも夫婦ではないのかも知れないが...。
一体何が起きたらこの2人が子供を作るってことになるんだ? 若き日の過ち程度じゃ済まされないぞ。
クロードの方は魔族なので実際に若いのかは不明だが...。
俺は2人の言い合いをずっと見させられている。お互いに引かない正格だから、言い合いが終わる気がしない。
俺の困っている姿を見て、マリスが口を開いた。
「あのー、ロディ様の将来のことなのですから、ロディ様本人に決めさせてあげてはどうでしょうか?」
争っていた2人がピタリと動きを止める。
「確かに...本人に好きな道を選ばせてやるのが父親というものだろう」
「そうだね。ロディがなりたい方にならせてあげようじゃないか」
2人ともわかってくれたか。俺の意見を尊重し、なりたい職業にならせてくれるようだ。
「もちろんロディがなりたいのは魔王だろうな? 魔王となれば誰の命令に従うこともなく、自分の好きな様にやりたい放題することが出来るぞ?」
やりたい放題とか、王なら国のことも考えなくちゃ駄目だろ。好き勝手やってたら部下なんて誰も付いて来ない気がする。
「アンタの答えは勇者だって決まってるよね? 勇者になれば可愛い娘が大勢寄って来るし、女に困ることはないよ? とっかえひっかえヤリたい放題さ」
とても母親の発言とは思えないな...。勇者なのにそんなことしてたら駄目だろ...。一瞬で評判が悪くなって誰にも勇者扱いされなくなるぞ...。
駄目だ。この2人には俺の意見なんて尊重する気は欠片もない。
どちらも自分の跡を継ぐものだと思い込んでいる。
しかし俺は結局どうしたいんだろう? 勇者と魔王の道、どちらも選べるとしても今の俺には簡単に決断をすることは出来ない。
前までの俺だったら勇者の一択だったが、マリスの様な魔族もいると知り魔族の認識が少し変わった今の俺は、魔王になるのもありかとも思っている。
国の王なんてなろうと思ってなれるものじゃない。自分の目指す国を作るとか大変だけど、面白そうではある。
ただ勇者というのも捨てがたい...。確かにエレンのいうとおり勇者になれば女にはモテる。可愛い彼女を作ることも簡単に出来る気がする。
魔王になってもハーレムを作り、女をはべらかすことは出来るかも知れないが、普通の恋愛すらしたことがない俺に、いきなりハーレムはハードルが高過ぎる。
それに勇者になれば俺がやりたかった冒険者をすることも出来る。
隠蔽スキルを持ってない俺が魔王の職業のまま冒険者になれば、問題が起こるのは目に見えている。
さてどうしたものか...。
究極の2択過ぎて俺には決めることが出来なかった。
ん? そう言えば俺の職業欄は後2つ。だったら勇者と魔王を両方やれば良いんじゃないのか? おかしな話ではあると思うが、別に勇者が魔王になってはいけないという決まりはない。
「俺...勇者も魔王も両方やってみたい!」
「!?」
その場にいた全員が驚きを見せる。
「魔王と勇者を両方やると言うのか?」
「はい! そして光の魔王も闇の勇者も両方俺が跡を継いでみせます!」
自分でも無茶苦茶なことを言っていることは理解している。
八竜勇者も八鳳魔王も選ばれた者にしか与えられない称号なのだから...。
「別にロディがやりたいって言うなら良いんじゃない? 私は闇の勇者さえ辞められるなら何でも良いから」
「そうだな...。ロディがそう望むなら私としても異存はない」
てっきり反対されると思っていたが、意外にも2人とも受け入れてくれたようだ。
「そうと決めたなら私から魔王になるということに付いての説明をさせてもらおう」
魔王のことなど何も知らない俺は、クロードから魔王になる為の説明を受けることとなった。