第15話 魔族の国ディルクシア
俺達が通り抜けて暫くすると転移門は消えていった。
「ここがディルクシア...」
辺りを見渡すと綺麗な景色が広がっていた。魔族の国というイメージから不気味な場所を想像していたが、ラウンドハールと何ら変わりはない自然が広がっている。むしろラウンドハールよりも緑が多く空気も清んでいる様に感じる。
少し先には街が見え、更にその先には城が見える。
「あそこに見える街がファティアという街で、その先に見える城がクロード様のいるザインシュバイク城になります」
マリスが城から少し離れた場所に転移させたのはちゃんと考えてのことだろう。
いきなり城に転移をすれば、それこそいきなり攻撃を受ける可能性もある。
何せこっちには魔族にとっての天敵とも言える八竜勇者がいる。
「それじゃあ城へ向かうとしようか」
エレンが歩き出すのに続き俺とマリスも後を付いて行く。
多分ここからなら歩いて行っても15分くらいで着けるだろう。
暫く歩くと城の入り口が見えてきた。入り口には2人の魔族が立っているが、マリスとは違い見るからに魔族といった外見をしている。
1人は両方のこめかみの辺りから角が生えていて、もう1人は背中に大きな翼が生えている。
城に来たは良いがどうやって中に入るつもりなのだろうか...。
闇の勇者ですが、魔王に会いに来ました! と言って通してくれる筈もないだろう。
マリスが先頭に立つと入り口へと近付いて行く。
「これはマリス様! お戻りになられたのですね!」
2人の魔族はマリスに膝まずいている。光の魔王の部下と言っていたが、ひょっとしたらマリスは結構偉い立場なのだろうか...。
「こちらの2人をクロード様に会わせる為に戻りました」
「!? そ、その女は闇の勇者なのでは!?」
魔族が青い顔をしている。こんな下っ端の魔族にまで顔を知られているなんて、エレンは魔族の間では相当な有名人なんじゃないのか...。
「はい。ですが、安心して下さい。本日は戦いに来られた訳ではありませんので」
マリスは2人の前を通り抜け城の敷地内へと入って行く。
それに続き俺とエレンもマリスの後ろを付いて行く。
エレンにビビりまくっている魔族達だが、俺からしたらかなり恐い存在だ。
敷地内に入ると多数の魔族の姿があった。
恐らく建物の外だけで100人近くはいると思われるが、マリスの様に外見が人間に似た魔族は1人も居ない。
マリスの様な存在は結構珍しいんじゃないだろうか...。
1人の魔族の男が俺達に近付いてくる。
額には角を生やし、背中には2枚の翼を生やし、外見だけ見ればかなり強そうに見える。
「マリス様。お久し振りです。何ですか? この汚いガキは?」
男の言葉にマリスがピクリと反応をする。
「おい! ここはお前みたいなガキが来るべき場所じゃないぞ!」
男が俺の身体に触れた瞬間だった。
「汚い手でシオン様に触るなぁぁぁ!」
マリスの拳が男の頭に触れた瞬間、男の頭が吹き飛んだ。
頭をなくした身体はそのまま地面に倒れて行った。
男の死体からは真っ赤な血液が流れている。
魔族なら、てっきり血液は緑色だったりするのかと思えば人間と同じ赤色なんだな...。
「ちょっと...マリス...流石にやり過ぎなんじゃ...?」
今のことと言い、クレイアを滅ぼそうとしたことと言い、マリスは俺のことになると見境がなくなるようだ。
「クロード様の臣下でありながら気安くシオン様に触れたのです。本来なら命を亡くすよりも、もっと重い罰が与えられる様な罪なのですよ?」
命を亡くす以上に厳しい罰って一体なんなんだ? 少し気になったが、流石に確かめる勇気は俺にはなかった。
今のマリスの行動を見ていた周りの魔族達は誰1人として俺に近付いて来なくなった。
「さぁ、城の中へと入りましょう。クロード様の所へご案内します」
敷地内にある城の中へ入ると、中にも多数の魔族の姿があった。
何人かの魔族達はマリスに気付くと頭を下げた。
頭を下げていない魔族の中から1人の魔族の男がマリスに近付いてくる。
「なんだ? お前は? 人間がこの城に何の用だ?」
男はマリスの肩に手を置いた。あ、この男死んだな。と思ったが意外にもマリスは手を出さなかった。
「私は人間ではなく魔族ですよ。貴方は新人ですか?」
「魔族だと? 随分と弱そうな魔族だな。確かに俺はクロード様の配下になってから日は浅いが、実力ならば四魔将に次ぐ実力を持っている。お前はそれなりに美しい顔をしていることだし、魔族だと言うなら俺の妻にしてやっても良いぜ」
この男は自殺願望でもあるのか...。知らないということは恐ろしいことだな...。
「結構です。私はクロード様に会いに行くので退いてもらえますか?」
マリスは男の手を振りほどき先に進んで行く。
「この女! 調子に乗りやがって!」
男が拳を握り、マリスを殴ろうとしたところで他の魔族達が男を止めに入った。
「お前! 止さないか! この方が何方か知らないのか? 四魔将のマリス様だぞ!」
「イ、四魔将...」
男の身体からは冷や汗が流れ出している。四魔将と言うのがどんなものなのかは知らないが、話を聞く限りではかなり偉い立場だと思われる。
そんな立場の者にあれだけ無礼を働いたんだ。殺されたとしても文句は言えないだろう。
「申し訳ありませんでした! どうか! どうか命だけはお許し下さい」
男は土下座をしながら必死にマリスに頼み込んでいる。
「貴方の命など興味はありませんよ。さぁ、エレン様。シオン様。こちらへ」
マリスは自分のことに関しては、多少の無礼を働かれたとしても広い心を持っているようだ。
俺達はマリスに案内されるままに奥へと付いて行った。
マリスに案内された先は大きな扉が付いている部屋の前だった。
扉は銀色に輝いており、縁には金色の装飾が付けられている。
「クロード様。マリスです。シオン様とエレン様を連れて参りました」
マリスが扉の中に居るであろう人物に向けて声を上げると、部屋の中から返事が返ってきた。
「入ってくれ」
返ってきた低い声の主はおそらく光の魔王。俺の父親だろう。
遂に光の魔王に会うと思うと、俺の心臓がドキドキと音を立て始めた。




