第117話 援軍
「間一髪ってところだったな」
俺に迫っていたゴーレムの足が粉々になる。
俺の目の前にはバトウが立っていた。
その手には巨大な剣が握られていて、この剣でゴーレムの足を破壊したのだと推測出来る。
相当な重量がありそうな剣だが、右手1本で扱えていることからバトウの腕力が如何にに凄いかということがわかる。
「アズナ。頼む」
『火炎鞭』
俺の足元に炎の鞭が迫り、身動きを封じていたツタを燃やした。
炎はツタだけを燃やし、決して俺の足に燃え移ることはなかった。
「大丈夫ですか?」
アズナがひょっこりと姿を現す。
どうやらアズナの魔法によって、俺の拘束が解けたようだ。
「お、お前達は一体なんなんだ!?」
サウロスが驚きの表情を見せる。流石にこの状況は奴にも予想できていなかったようだ。
「見てわからんのか? ケルティアの援軍だよ」
バトウが大剣をサウロスの方へと向ける。
たった2人とはいえ、今の俺達にとってはかなりの戦力だ。
「援軍だと? ここにくるまでには魔物の大群がいたはずなのだが...?」
『月光斬』
ゴーレムの身体に丸い穴が開く。
よく見ると鋭利な刃物で丸く切り取られたような跡が見える。
「魔物の大群? そんなの俺達が全部倒したに決まってるじゃねーか」
ゴーレムが崩れ落ちる。
ゴーレムがいなくなり、視界が開けた場所にはトウマが立っていた。
その両手には2本の剣が握られている。
元は日本に住んでいた俺からすれば二刀流に違和感を抱くことはないが、この世界で二刀流はあまり見ることがない気がする。
「ロディ様。こっちの魔物は全部片付けました」
トゥエントが合流する。
残りの魔物はマリスが相手をしている魔物達だけ。
これは一気に形勢逆転したと言っても良いだろう。
「トウマ、アズナ、ここは俺に任せてお前達は残りの魔物を討伐しろ。お前達のレベルではコイツの特殊技能に操られてしまうからな」
「わかったぜ。オヤジ。トチるんじゃねーぞ」
「お前達の方こそな」
トウマとアズナがマリスの方へ向かう。
バトウの言葉からいけば2人はレベル100を下回っているのだろう。
2人が加わったことにより、魔物の数が減る速度が早くなっていく。
「トゥエント。ここは俺1人で十分だ。お前も魔物の掃討に加わると良い」
「ああ、任せた。ロディ様を頼んだぞ」
トゥエントも魔物の掃討に加わる。
あの4人がいれば間違いなく魔物を全滅させられるだろう。
「さぁ、久し振りに俺に全力を出させてくれよ。土の勇者さんよー!」
バトウが剣を構えながらサウロスに接近する。
接近戦ならば圧倒的にバトウに分があるだろう。
当然、それはサウロスも気付いているので、後方に下がりながらバトウに向かって魔法を放つ。
『石の弾丸』
大量の石つぶてがバトウに向かっていくが、バトウは避けたり防御をしたりする素振りを見せない。
そのまま石つぶての中を平然と通り抜けていく。
石の弾丸は土魔法にはなるが、石つぶてを飛ばすということで、どちらかと言えば物理攻撃に近い印象がある。
防御が高い相手にはほとんどダメージを与えることは出来ないだろう。
「ちっ! だったらこれでどうだ」『大地の拘束』
バトウの足下から木のツタが出現して、バトウの足に絡み付く。
先程、俺の動きを拘束していた魔法だ。
「ふんっ!」
バトウが足に力を入れるとツタが千切れる。
あれを力で抜け出すとは相当なものだ。
「バカな! 私の拘束から力で抜け出すだと!?」
「こんなもんが拘束だと? お前は本当に八竜勇者なのか?」
「何だと!? ぐはっ!」
サウロスが喋り終わるよりも早くバトウの蹴りがサウロスの腹に直撃する。
モロに蹴りを受けたサウロスは口から液体状のものを吐き出した。
「弱い弱すぎる...」
バトウは大剣を地面に突き刺すと、拳を握り締め何度もサウロスを殴り付けた。
「ぐばっ!」
「うごっ!」
今度はサウロスの口から赤い液体状の物が飛び散る。
真っ赤な血液だ。
どうやら、こんな人間でも流れている血は赤いらしい。
しかし気になることがある。
サウロスだが、怒りくるっている時は異常な力だった。
だが、今のサウロスを見ているとバトウに一方的にやられているだけで、さっきまでの力を全く感じない。
魔法職なら当然といえば当然なのだが、どこか気になる...。
「アンタはこの男をどうしたいんだ? アンタが望むなら俺がこの場で殺してやるぞ?」
バトウが左手でサウロスの襟元を掴み宙に持ち上げる。
その気になればサウロスなど一瞬で殺せるということだろう。
「待て。そいつにはウィーネの居所を聞かなければならない」
俺は落ちた仮面を拾うと再び顔に付ける。
痛いな...。少し間が空いたことで身体中の痛みを深々と感じる。
だが、今は優先しなくてはいけないことがある。
先ずはエアリに掛けられた呪いを解除すること。
それからエアリの妹であるウィーネの居所を聞き出すことだ。
痛 みを堪えながらゆっくりとサウロスに近付く。
「エアリに掛けた呪いを解除しろ。大人しく従えば命だけは助けてやるかも知れんぞ?」
当然、こんな男を生かしておくつもりはない。
この男のせいで周囲には街の住民の死体がゴロゴロと転がっている。
ザッと見た感じだが、サウロスの魔物のせいで、この辺りの住民の1/3ほどが命を落としているだろう。
汚いかも知れないが、俺は助けるとは一言も言っていない。助けてやるかも知れないと言っているだけだ。
「ふふ...あれだけ強力な呪いだぞ? 私本人にも解除することは出来ん。ふははは」
「何を笑ってんだ!」
バトウがサウロスの右頬を叩く。
サウロスの右頬が赤く腫れ上がった。
「くふふふ...ははははは!」
突然サウロスが大きな声で笑い出す。
殴られ過ぎておかしくなってしまったのだろうか。
「貴殿方に本当の恐怖というものを味あわせてあげましょう!」
「!?」
一体何が起こったというんだ...。
気付いた時にはサウロスの襟元を掴んでいたバトウの左手首の先がなくなっていた。




