第116話 土の勇者サウロス
これは逆にチャンスになるんじゃないのか? サウロスは俺の身に付けている覇者のローブの効果を知らない筈だ。
知っていれば、効果のないとわかっている相手にわざわざ特殊技能を使う真似はしない筈だ。
「ふふふふ。さぁ、貴方は私の位のままに動くのです。わかりましたね」
サウロスの身体から赤い輝きが消えるが、俺の身体に何か起こった形跡はない。
「さぁ、マリスを殺しなさい」
俺はサウロスに言われるままにマリスに向けて火球を放つ。
俺が全力で魔法を放ったところで、マリスには傷1つ付かないと確信しているからこそ、遠慮なく放つことが出来る。
「ロディ様! お気を確かに!」
マリスが俺の放った火球を避ける。
当然マリスも俺が操られていないことはわかっているだろう。
俺は更にマリスに接近し、拳で殴り掛かる。
「ロディ様。失礼致します」
マリスが俺の拳を受け止める。
俺の意図を察してくれているのならこの後の動きは予想が出来る。
俺の拳を握ったまま身体を回転させると、サウロスの方に俺の身体を投げ飛ばす。
「何だと...」
俺の身体がサウロスの身体にぶつかり、サウロスと俺がその場に倒れる。
サウロスの身体に俺がのし掛かったような体制になっている。
「ぐっ...ううっ...ど、どけっ!」
「残念だが、その指示には従えぬな」
俺は両手をサウロスの顔にかざす。
この至近距離から魔法をぶつければいくら魔力差があると言っても多少はダメージを与えることが出来る筈だ。
「私の全ての力をお前にぶつける」
『火球』
「ぐぁぁぁ!」
俺はサウロスの顔面に魔法を叩き込む。
当然一発だけではなく、残りのMPを全て使いひたすら火球を打ち続ける。
「うがぁぁぁっ!」
サウロスが苦しそうな表情を見せる。
顔面にこれだけ魔法を叩き込めばサウロスと言えど無事でいられる筈がない。
「ぐぅぅぅ...き、きさまぁ!! 絶対に許さんぞぉぉぉ!!」
サウロスが俺の首を握り身体を持ち上げる。魔法職とは思えない物凄い力だ。
俺の身体はサウロスに投げ飛ばされ建物に激突する。
「ぐうっ...」
「ロディ様!」
マリスが俺の側に近付こうとすると、魔物達が一斉にマリスに襲い掛かる。
「お前達はその女を殺せ! この男は私が殺る」
マリスは襲い掛かってくる魔物を次々と倒していく。
「エアリはもう大丈夫なのか?」
マリスが首を横に振る。エアリは助からなかったというのか...。
「辛うじて生きてはいますが、私の回復魔法がほとんど効かないのです。まるで意図的に身体が回復魔法を拒んでいるような...」
アイツの仕業か...。
おそらくサウロスがエアリに対して何かをしたのだろう。
「貴様。エアリに何をしたんだ?」
「ああ、あの女には闇魔法の強力な呪いが掛けてあるのです。回復魔法の効果は1%に。受ける魔法ダメージは200%になる呪いです。ちなみに私が死ねば呪いは解除されますよ。貴方には到底無理な話ですがね」
土の勇者のくせにそれだけの闇魔法を使うことが出来るのか。
ただサウロスの言っていることが本当ならば、サウロスさえ死ねばマリスの回復魔法でエアリを救うことが出来る。
「部下の力に頼っているだけで、自分自身は大した実力もないクセに目障りなんですよね」
『大地の拘束』
サウロスが魔法を唱えると、俺の足元から木のツタが伸びてきて俺の足に絡みついた。
「くっ...」
ツタは俺の足にガッチリと絡まり俺は身動きを取ることが出来ない。
身動きの出来ない俺の方に向かいサウロスが近付いてくる。
「ふふふ...貴方に受けた痛みを100倍にして返してあげましょう」
俺の魔法を顔面に受けた時はかなり感情を表に出していたが、今はもう落ち着いたようだ。口調が最初の頃に戻っている。
木のツタということもあり、火球を使えば焼き払うことが出来ると思うのだが、今の俺は完全にMP切れだ。もう1発も魔法を放つことは出来ない。
俺の目の前で足を止めたサウロスが拳を握り締め、俺の顔面に叩き付けた。
「ぐっ...」
仮面越しにサウロスの拳を受けているが、かなりの痛みだ。仮面がなければ顔の形が変わってしまったかも知れない。
「動けない相手を一方的に殴る快感はたまりませんね」
サウロスが俺に何発も拳を繰り出す。顔、体、腕、身体中に叩き困れた拳の回数は30発を越えるだろう。
「ロディ様ぁ!」
離れた場所で魔物と戦闘中のマリスが心配そうに俺の方を見ている。
当然、その間にも魔物達が次々とマリスに襲い掛かる。
「苦しんでいる表情を見れないのは残念ですね」
サウロスが俺の顔を横から殴る。
その衝撃で仮面が外れ、地面に落下する。
「おやおや...これは...」
出血をしている俺の顔がサウロスの前に晒される。
血に染まっているため、ハッキリと顔を確認することは出来ないだろう。
「まさかケルティアの新領主がこんな子供だったとは驚きですね」
「俺も地の勇者がこんなにクズな人間だったなんて驚きだよ...ぐはっ!」
剥き出しになった俺の顔にサウロスの拳がめり込む。
「魔族の分際で私にそんな口を聞くとは良い度胸ですね。もう貴方をいたぶるのにも飽きてきたので、そろそろ死んで貰うとしましょう」
サウロスが右手を上にあげて手のひらを広げる。
「大地を埋め尽くす土の恵みよ。私に力を与えたまえ。土の杖」
サウロスの足元が割れ、地面から1本の杖がサウロスの手へと向かって浮かび上がる。
「私の可愛いゴーレムに貴方とマリスを殺して貰うとしましょう」
『人形作成』
サウロスが魔法を唱えると大地が盛り上がり、1体の巨大なゴーレムへと変化をする。
「ゴーレムよ。先ずはその男を踏み潰しなさい」
ゴーレムが右足を大きく上げて、俺の頭上で止める。
このまま降り下ろされたら確実にペシャンコになってしまうが、足の動きを封じられている状態ではどうすることも出来ない。
「くっ...」
ゴーレムの右足が俺に向かって降り下ろされた。




