第114話 背後からの刃
「ふふふ...どうですか? 作戦が失敗したご気分は? さぞ悔しいことでしょうね。うふふふ」
サウロスが不気味な笑みを見せる。俺達に一杯食わせられたことが余程嬉しいのだろう。
だが、まだ戦いが決した訳ではない。この場にはケルティア最強戦力できているんだ。逆転の道は残されている筈だ。
「エルザを信用した私が愚かだったということだな。まさかアルバス王が娘の命を犠牲にしてまで俺達を討とうとするとはな」
「エルザ...ああ、あの売国奴ですか。まぁ、あの女がこの国を裏切ってくれたお陰で、今この状況が生まれているので感謝すべきかも知れませんね」
どういうことだ? エルザがアルバスを裏切った? だとすればエルザのもたらした情報に間違えはなかったというのか? ならば何故、サウロスに俺達のことが伝わったんだ? まさか他にケルティア内に裏切り者が居るのか。
「お話はここまでですね。貴方たちにはとっとと死んで貰うことにします。ケルベロス。オルトロス。やりなさい!」
サウロスの号令とともに2匹が俺に向かって飛びかかってくる。
「ウォォォン!」
ケルベロスが大きく腕を振り上げて降り下ろす。
「ちっ!」
横に飛び攻撃を避けると、そこにオルトロスが吐いた冷気のブレスが襲い掛かってくる。
『火球』
氷のブレスに向けて魔法を放つが、魔法はブレスによって消滅させられてしまう。
「しまった!」
避けきれなかったブレスが俺の左足を包み込み、左足が凍結する。
動けなくなった俺に向けてケルベロスが炎のブレスを吐き出した。
避けることが無理だと判断した俺は少しでもダメージを減らすために身体を反らした。
「...?」
炎は俺の身体に触れることはなかった。
マリスが俺の前に立つと氷の壁を作り出し、炎を全て遮断している。
「ロディ様を傷付けようとは、その罪万死に価します」
『氷固凍結』
冷気がケルベロスを包み込むとケルベロスの身体が一瞬で凍り付く。
シュタイナー達に使った時よりも範囲を縮小して威力を高めているように見える。
「消えなさい」
マリスの手が凍り付いたケルベロスに触れると一瞬で氷がバラバラに砕ける。
「グォォォ!」
ケルベロスを殺されて怒ったのか、オルトロスがマリスに飛び付く。
「地獄に落ちなさい」
『獄炎
大地から黒い炎が吹き上がると、オルトロスの身体に燃え移った。
「グォォォン!」
オルトロスが苦しそうな叫び声を上げながらその場に崩れ落ちる。
パチパチパチ
拍手をする音が聞こえてくる。
音がする方に視線を向けるとサウロスが手を叩いていた。
「流石ですね。四魔将のマリス。いえ、元四魔将でしたね」
「土の勇者サウロス。この場で貴方の命を頂きます」
マリスが一気に速度を早めてサウロスに近付こうとするが、サウロスは後方に下がり進路には魔物の大群が立ち塞がる。
「くっ...」
マリスは1匹1匹魔物を倒していく。
広範囲魔法を使えば一気に片付けることが出来るが、そんなことをすれば街の住民にも大きな犠牲が出る。
それは俺が望むところではないと察してくれているのだ。
街の人間の命も大切だが、正直俺からすれば街の人間1000人の命よりもマリスの命の方が大切だ。
いざとなれば全力で戦って貰うことになるだろう。
俺の意思はトゥエント達にも伝わっているようで、出来る限り街に被害が出ないように戦ってくれている。
エアリからすれば広範囲魔法を使えないのはかなり厳しいだろう。マリスと違ってエアリは近接戦闘をする手段を持っていない。
「エアリ! 無理はするんじゃないぞ。これくらいの数なら俺1人でも何とかなるからな」
トゥエントの振る槍は簡単に魔物を貫いていく。
槍以外に格闘術にも優れているようで、次々と魔物を倒していく。
「いえ、私だって魔空なんです。これくらいの魔物どうってことありません」
エアリの放つ風魔法が魔物を切り刻んでいく。
今は順調に魔物を倒せていても魔法職ではMPが命だ。
尽きてしまえば戦闘継続は難しいだろう。
「このままでは不味いな...」
いくらマリスやトゥエントが強くても多勢に無勢。一気に殲滅が出来ないなら魔物を全滅させるまで皆の体力が持つとは思えない。
撤退も視野に入れるべきだろう。
「ロディ様。心配なさっているのですか? 大丈夫ですよ。必ずアルロン達がきてくれますから」
元々は俺達が出発した3時間後にアルロン達が出発する手筈だったが、馬を使うことが決まった後、アルロンにそれを伝え俺達が出た直ぐ後にアルロン達も出発する手筈になっている。
だが、それでもアルロン達の到着は数時間後になる。ギリギリのラインだ。
「もしかして増援を期待しているのですか? 残念ながら増援は来ませんよ。今頃あちらではパニックが起こっていることでしょう」
「何だと?」
一体何が起こっているというのだ。裏切り者ではなく、ケルティア軍の中に既にサウロスに操られている者がいるということか...。
だとすれば情報が筒抜けだったことにも頷ける。
「完全にお前の手のひらの上で踊らされていたということか...」
「勝負は私の勝ちです。大人しく死んで下さい」
「まだだ。お前さえ殺せば我らの勝利だ」
俺はマリスから離れ魔物達に突っ込んで行く。
この男さえ倒せば俺達の勝ちだ。
だったらやれることをやるだけだ。
「ロディ様!」
マリスが慌てて俺に付いてくる。
正直俺よりも強い魔物が大勢いて、サウロスに近付くことさえ出来ない。
「はははっ!悪あがきをしないで下さい。それではもう1つ良いものを見せてあげましょう。エアリやりなさい」
ん? 今、エアリの名前を呼んだよな? 一体どういうことだ...。
エアリの方を見ると青い顔をしながら身体を震わせていた。
「トゥエント様...ごめんなさい...」
『突風槍』
エアリの放った魔法がトゥエントの背後から迫る。
「ガハッ!」
風魔法で作られた槍はトゥエントの背中から突き刺さり身体を貫通した。
「トゥエント!」
トゥエントはその場に崩れ落ちた。




