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第11話 平和的な話し合い

 エレンが王の目の前まで行っても護衛の兵士達は動こうとはしない。


 自らの命を捨ててでも王の命を守るべき役目をおっている人間が、エレンの力を見たことにより、その足が動かなくなってしまっているようだ。


「ひ、久し振りだな...エレン殿。本日は一体どんな用件だろうか...?」


 エレンが王を睨み付ける。


 エレンに睨み付けられた王は怯えて震えているように見える。


「用? あんた達があそこにいるウチの息子を散々痛め付けてくれたお礼でもしようかと思ってね」


 エレンが俺を指差す。確かに俺はあの拷問官もとい尋問官に相当な目に合わされている。エレンが駆け付けてくれなかったら俺は今頃この世には居なかっただろう。


「貴様! 陛下に向かって無礼だろう!」


 スフィーダがエレンに向かって右手を広げた。


火球ファイアーボール


 スフィーダの放った火球(ファイアーボール)がエレンに向かって飛んで行く。


「今は話をしてる最中だって言うのに邪魔だね」


 エレンは左手の甲で火球(ファイアーボール)に触れると、火球(ファイアーボール)が弾き飛ばされた。


「バ、バカな...素手で魔法を弾くなど...あり得ん...」


 スフィーダには相当な驚きがあったようだ。確かに魔法を素手で防ぐ人間なんて存在するとは思えない。


 だが、それは相手が人間だった場合だ。俺はエレンが魔族だと確信している。


 王もエレンのことを知っているからこそあの反応なのだろう。

 

「くっ! 拷問などさせずにそのガキだけでも直ぐに殺しておくべきだったわ!」


 スフィーダの言葉を聞きエレンがピクリと反応をした。


「そうか...アンタの指示でロディを拷問させたんだね...」


 エレンは王の前を離れ、スフィーダにゆっくりと近付いていく。


「く、来るな! 化け物!」


 スフィーダは再び右手をエレンに向けると火球(ファイアーボール)を放った。


 エレンは目の前に飛んできた火球(ファイアーボール)を左手で受け止めるとそのまま握り潰した。


「う、うぁぁぁ!」


 スフィーダは目の前に迫ったエレンに恐怖を感じている。


 エレンは左手を握りしめるとスフィーダの腹部を殴り付けた。


 ドンという大きな音が部屋に響くと、スフィーダは後方に吹き飛ばされ壁にめり込んだ。


 その音はとても人間が殴られただけの音とは思えないものだった。


 パラパラと壁から破片が落ちると同時にスフィーダの身体が地面へと倒れ落ちる。


 生きているか死んでいるかはわからないが、あの一撃を受けてどう考えても無事でいられるとは思えない。

 

 再びエレンが王の前へと近付いて行く。


「スフィーダが言っておった勇者と魔王の職業が選ばれた者と言うのはひょっとして...」


「ああ。私の息子だよ」


「なるほど...だが、何故勇者と魔王のどちらもが選ばれたのだ。エレン殿の息子であるならば...」


 エレンは剣を王の喉元へ突き付ける。


 ここまでされても護衛の兵士達はエレンを止めようとはしない。


 いくらエレンが怖いとはいえ、流石に護衛としての役割を放棄し過ぎだろう...。


 貴族の2人もその場にしゃがみこんで頭を押さえているだけだ。この場にいる誰よりもエレンのことを恐れているように見える。


「余計なことは詮索しないでもらえるかい? 何だったらロディのお礼にこの国を滅ぼしても良いんだよ?」


「わ、わかった...。何も聞かぬことにしよう....」


 国を滅ぼすとか言ってることはメチャクチャだが、エレンがその気になれば実際に出来てしまいそうなのが怖い....。


「1つ頼みがあるんだけど、聞いて貰っても良いかい?」


「私に聞けることであれば...」


 エレンが王に望むこと? 俺を傷付けた代償に金銭でも請求するのだろうか...。


「今日の天礼(レクシール)でロディに魔王が選ばれたことを伏せておいてもらいたいのだけど」


 驚いた...。てっきり国家予算でも請求するのかと思えば、エレンの望みは俺に関することだった。


 俺が魔王になれる=自分が魔王だとバレてしまうのが嫌なだけかも知れないが、そうではなく俺に対する優しさで言ったことなのかも知れない。


「そ、そんなことで良いのか? だったら簡単だ。スフィーダを含めエレン殿の息子に魔王の職業が選ばれたことを知る者全員に、誰にも言わぬ様にキツく言っておこう。お主達も良いな!?」


「は、はい!」


この場でエレンの強さを目の当たりにした貴族や兵士達が漏らすことは絶対にないだろう。


「じゃあ宜しく頼むよ。私はロディを連れて帰るから。もしも誰かの口からはロディのことが漏れたら...その時はどうなるかわかってるよね?」


 再びエレンが王を睨み付ける。その視線からは凍えるような冷たさを感じる。


「だ、大丈夫だ...。天礼(レクシール)の場に居た他の神官にも口止めをしておこう。お前達! 誰か本日の天礼(レクシール)に関わった神官と兵士を呼んでまいれ。天礼(レクシール)の結果を知る者は全員だ!」


「かしこまりました!」


 3人の内、1人の兵士が謁見の間を出て行く。今日の天礼(レクシール)に立ち合った残り2人の神官。俺を牢に連れて行った兵士や牢の監視役の兵士を呼びに行ったんだろう。


 王は気付いていないと思うが、俺が魔王になれることを知っている人間が他にも2人いる。


 そう。ヘクトルとミラだ。


 ただ、それを言ってヘクトルとミラに危害が加わることになったとしても困る。


 俺のことが漏れない様にする一番簡単な方法は、俺のことを知っている全ての人間の口を封じてしまうこと。


 流石にそこまでするとは思えないが、念のため用心しておくに越したことはない。


「それじゃあロディ。家に帰るよ。今頃はマリスがご馳走を作って待っている筈だからね」


 マリスか...。賢者のマリスなら回復魔法が使える筈だ。


 早く家に帰ってマリスに回復魔法を掛けて貰おう。回復魔法さえ受ければこの痛みもなくなる筈だ。


 今日は色々とありすぎて考えなければいけないことが山積みだが、今はこの痛みから解放されたい。俺はそれだけを考えながらエレンと共に城を後にした。


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