第106話 出陣
「それでは皆、明日は宜しく頼むぞ」
作戦会議が終わると皆、会議室より退出していく。
この場に残っているのは俺とマリス、アルロンの3人だけとなった。
「ロディ様。今夜もマリス様とこの城にお泊まりになられますか?」
別に家に帰ったとしてもマリスの転移門を使えば一瞬で城に戻ることが出来る。
ただ転移門は転移魔法だ。転移魔法となると他の魔法よりも消費MPは多くなる。
戦争を前にして、わざわざ無駄にMPを消費することもないだろう。
「少し待ってくれ」
思念通話をエレンへと繋ぐ。
今夜だけの話ではなく、戦争が始まれば何日も家に帰ることは出来なくなる。
エレンにはちゃんと伝えておく必要がある。
流石に1日近くが経過していて、まだ古代竜との戦闘が終わってないということはないだろう。もしも思念通話が繋がらなければエレンに何かあった可能性が高くなる。
「何かあったのかい?」
直ぐにエレンから返答がくる。
良かった。声に全く焦りはなく何時も通りのエレンだ。
それほど心配していた訳ではないが無事だったようだ。
俺は今までの経緯を説明した。
アルバスとの戦争になること。決着がつくまで数日間は家に帰ることが出来ないことを伝えた。
「別に問題ないよ。私も1ヶ月くらいはこっちに居るからさ」
こっちと言われても俺にはエレンがどこに居るかわからない。
ただ、古代竜と戦っていたということを知っているだけだ。
「人間の国を攻めるというのに何も思わないのか?」
「アンタが決めたことなら好きにすれば良いさ。人間だとか魔族だとか、私にとってはどうでも良いことだよ」
まぁ、魔族であるクロードと子供を作るくらいだがら、エレンにとって種族の違いなどどうでも良いのかも知れない。
自分の敵になるなら人間だろうと魔族だろうと容赦しないというスタンスなのだろう。
それにしてもエレンは俺の言葉遣いに関して何も突っ込んでこないな。
仮面のせいだから仕方がないのだが、もしかしてエレンはこの仮面を身に付けた者がこうなることも知っているのだろうか? だとしたら一言くらいは伝えて欲しかったものだ。
「話がそれだけならもう切るよ。今から飲むところなんだ」
パーティーと古代竜を倒した祝杯でもあげるのだろうか。
パーティーが居ればの話だが...。
「わかった。また何かあれば連絡する」
エレンとの思念通話を終わらせるとマリスが近付いてきた。マリスには俺とエレンの会話の内容はわからないが、雰囲気で会話が終了したことを察したんだろう。
「エレン様にご連絡ですか?」
アルロンに聞こえないくらいの声でマリスが呟く。
「ああ。古代竜との戦闘は終わったようだ。結果は聞いていないがな」
「エレン様のことです。必ず討伐していると思いますよ。それ程高確率ではありませんが神話級装備をドロップしていれば、ロディ様に下さるかも知れませんね。」
〖神話級装備〗
主に武器や防具がメインでこの世界に存在する最強ランクの物になる。
神器にはランクが付けられていないので、比較することは出来ないがその性能は神器と同等とも言われている。
八鳳魔王には神話級の装備をしている者が多いとも聞く。
恐らく神話級|の次のランクにあたる伝説級の覇者のローブよりも更に高い性能を持った装備となるが、エレンが装備出来ない物なら俺にくれる可能性は高いだろう。ちなみに覇者のローブのランクに関しては俺の推測だが、もしかしたら神話級の可能性も0ではない。
神話級の中でもある程度は性能の上下があるからだ。
「だが、パーティーで討伐していればエレンの物になるとは限らないのではないか?」
神話級装備ともなれば、値段も付けられない程の希少さだ。
物によっては1億コル払うという貴族もいるだろうし、パーティー内で殺しあいが起こったとしても不思議ではない。
「エレン様がパーティーを? それはないと思いますよ。エレン様が誰かと共闘をしたなんて話を聞いたことがありません。私達と戦った時もお一人でしたからね」
八鳳魔王が治める国に一人で喧嘩を売るとか正気の沙汰とは思えない。
だが、それでも無事でいるということはエレンにとって一般的な常識など通用しないのだろう。
古代竜を一人で討伐出来る程の強さ。俺がそんな強さに近付けることはあるのだろうか。
そもそもそれ程の強さが必要になることがあるのか。
異次元の強さは必要ないにしろ今の俺はあまりにも弱い存在で、守りたい者を一人で守ることすら出来ない。
せめて大切なものを守れるくらいには強くならなければ。
「やはりエレンは化け物だな。今夜はこの城に泊まるとアルロンに伝えるとしよう」
そして俺達は今夜もルクザリア城で過ごすこととなった。
落ち着いて食事を取ることも暫くは出来なくなる。
ゆっくりと食事を済ませた後は早めに就寝をすることにした。
そして数時間が経過して出陣の朝を迎える。
「ロディ様。おはようございます。昨夜はよく寝られましたか?」
マリスが部屋に呼びにきたが、俺はマリスがくる前から既に目を覚ましている。
「ああ。体調は万全だよ」
正直、今日から始まる戦いに緊張してあまり眠れていない。
仮面をしたまま眠ればそんなことはなかったかも知れないと少し後悔をしている。
枕元に置いてあった仮面を付けてベッドから起き上がる。
「朝食の準備が出来ているそうです。食堂へ向かいましょう」
マリスと2人で食堂に向かうとアルロンの姿があった。
「おはようございます。ロディ様。私もご一緒させて頂きますね」
どうやらアルロンも一緒に朝食をとるようだ。
この城に住んでいるということはアルロンもこの食堂で食事をしている筈だ。何時も夕食の時は敢えて時間をずらしているのかも知れない。
アルロンと3人で食事を済ませる。
朝食なので当然、軽い食事となっている。
「それではロディ様。行きましょうか。兵達も集まっている筈です」
マリス、アルロンと共に城の建物から出るとそこは物凄い数の兵士で埋め尽くされていた。その中からこちらに向かってくる3人の姿が確認出来る。
「我ら魔流族1500名合流したぞ」
1人はバトウで他の2人は見たことのない男女だ。
「アンタがケルティアの領主ロディか? 俺はバトウの息子でトウマだ。宜しくな」
トウマと名乗った男は上半身裸で、背中に2本の剣を身に付けている。
どことなく顔もバトウに似ている気がする。
「始めまして、ロディ様。私はバトウの娘でアズナと申します。依頼完了まで宜しくお願いします」
アズナの方は丁寧な言葉遣いで、見た目もバトウとは全く似ていない。
白く綺麗な肌に長い耳。美しい顔をしていてバトウの嫁に似ている。
武器は見当たらないので恐らく魔法職なのだろう。
「宜しく頼むぞ」
合流した3人にアルロンから作戦が説明される。
魔流族はアルバス城を攻撃する戦力に加わることになる。
「作戦はわかった。わざわざ陽動作戦などしなくても、我らが加われば落とせそうだがな」
バトウは強気だ。その自信が実力の伴っているものなら何の問題もない。
「さぁ、ロディ様。兵達に出陣の号令をお願いします」
俺はここにいる7000を越える魔族の命を預かっている。戦争ともなれば必ず命を落とす者も出てくる。それでも戦わなければいけないと思い決断したことだ。だからこそこの戦いに必ず勝利してみせる。
「アルバスの者によって同胞の命が奪われた。アルバスをこのままにしておけば再び同じことが繰り返されるだろう。そんなことを許す訳にはいかない。アルバスの奴等に我らの力を思い知らせてやろう。全軍出陣せよ!」
『オオォォー!!!』
俺の号令を起に、アルバスを目指して7500の軍勢が一斉に出陣を開始した。




