第104話 カイン
先ず1人目の男。
外見は人間に近く見た目で魔族と判断するのは難しいだろう。
「始めましてロディ様。私の名前はゼクス。魔空剣のゼクスです。この剣でロディ様の力になりたいと思っています」
そう言ってゼクスが剣を前に出す。
鞘に入っているため、刀身などを確認することは出来ないが、鞘からしてかなり立派な剣だということがわかる。
「俺の名はトゥバイト。魔空斧のトゥバイトだ。この斧でロディ様の力になるぜ!」
トゥバイトと名乗った男は伸長2メートル近い大男で、両のこめかみには大きな角が生えている。
この男も鬼という言葉が一番しっくりしており、顔もどことなくトゥエントに似ている。
「トゥバイト! ロディ様に対してはしっかりとした言葉遣いをしないか!」
トゥエントがトゥバイトを叱咤する。
この2人やはり似ている。ということは...。
「兄貴! 固いこと言うなよー。マリス様は俺が自由に発言することを許してくれたぜ?」
「今、我らが仕えているお方はロディ様なのだ!」
やはりトゥエントとトゥバイトは兄弟らしい。トゥエントを一回り小さくしたのがトゥバイトと言った感じだ。小さくしたとは言っても一般的に見ればトゥバイトはかなりの体格をしている。
「構わん。言葉遣いなど自由にすれば良い」
「へへっ! そうこなくっちゃな! 戦場では兄貴並みに働くつもりだから期待してくれ」
何人かの集団になると必ず1人は脳筋タイプが存在する。間違いなくトゥバイトもそうだろう。
「ロディ様。お初にお目にかかります。私の名はヴァン。魔空槍のヴァンです」
ヴァンと名乗った男は背中に大きな2枚の翼が生えた魔族だ。
顔はそれなりにイケメンで耳は長く尖っている。
トゥエント程ではないが、その手には大きな槍が握られている。
「ロディ様。私は魔空弓のシーダと言います。どんなに離れた相手だろうと私の弓で射貫いてみせます!」
4人目はシーダという女性。
可愛らしい顔をしており、ウサギのような耳をしている。魔族というよりは獣人に近い見た目だ。
年齢は俺と同じくらいに見えるが、実年齢はわからない。
彼女の得物は弓矢のようだが、背中に背負った筒状の矢入れには10本くらいしか矢が入っていない。これでは直ぐに打ち止めになってしまうのではないだろうか。
「...魔空杖のエアリです。宜しくお願いします...」
エアリと名乗った少女はシーダよりも更に幼く見える。
身体も小さく、おそらく伸長は150センチチョイといったところだろう。
その顔に笑顔はなく、話声も小さい。
杖を武器として使うことはあまりなく、基本的には魔力を高める補助道具として使われている。
このことからもエアリは魔法職だと思われるだろう。
「ロディ様。彼等が魔空と呼ばれる者達です。彼等にはそれぞれ兵を与え部隊として動いて貰うつもりですが、問題はございませんか?」
「問題はない。編成などに関してはお前に任せよう」
「ありがとうございます。それではアルバス進攻に向けて軍の編成をお伝えさせて頂きます」
ケルティア5000の兵をそれぞれ振り分けるのだろう。
全体の指揮はアルロンが取るにしろ、1人で直接5000人全員を指揮するのはかなり無理がある。ある程度部隊を分けてここにいる者達が部隊の指揮をとることになる筈だ。
「先ずはトゥエント率いる第1部隊。こちらは歩兵のみ1500の兵にて構成させて頂きます」
総員5000の内の1500を1軍に。まぁ妥当な数だろう。
「続いて第2部隊はゼクスが指揮、こちらは騎兵のみの600。第3部隊は、歩兵、騎兵、弓兵の混成部隊で600、トゥバイトが指揮。第4部隊は騎兵、歩兵の混成600でヴァンが指揮」
第2部隊は騎兵のみの部隊か。機動力は1つ突出することになるな。
「第5部隊は弓兵のみ600でシーダが指揮。第6部隊は歩兵、魔法兵混成の600でエアリが指揮だ」
600がそれぞれ5軍で3000。残りは後500人。確か正確な兵の数は5208名だと前にアルロンが言っていた気がするが、全員がルクザリアにいる訳ではないのだろう。
「最後にロディ様をお守りするための部隊に500。兵の振り分けはこれで良いかと思います」
俺を守るためだけに500人も割くのか? 流石にそこまでしなくても良いと思う。
「私を守る部隊など必要ない。その数を全て他に回せ」
「しかし...」
「マリス。私の守りはお前1人に任せるぞ。良いな?」
マリスがその場に跪き腕を胸の前に出す。
「お任せ下さい。この私がロディ様には指一本触れさせません」
守りを任せるとは言っても俺は後方でじっとしているつもりはない。自らも攻撃に加わるつもりでいる。
マリスが俺を守るためには攻撃にも参加することになる。マリスが参加するとなれば相当の戦力アップになる筈だ。
「...わかりました...。それではロディ様は私とマリス様でお守り致します。宜しいですか?」
「問題はない」
この2人を守るためだけに使ったのでは勿体無さすぎる。俺が敵軍に切り込めば周囲の敵を駆逐してくれるだろう。
「それでは残り500は第2軍から第6軍に100づつ振り分けることにします。これに魔流族の3部隊が加われば全9部隊の編成となります」
これでこちら側の全戦力は6500。それに対してアルバスの兵力は最低でも5万以上。まともに考えれば勝利することは不可能だが、アルロンには勝利するための算段があるのだろう。
「今から皆にはアルバス攻略に向けての作戦を伝える。会議室まで付いて来てくれ」
作戦会議か。魔流族がまだ合流していないので合流後に説明が必要になるにしろ、ケルティア軍だけでも説明を聞いておくに越したことはない。
「ロディ様とマリス様も会議室までお願いいたします」
そう言うとアルロンが謁見の間を出ていく。
それに続き魔空の5人も次々と部屋を後にする。
「ロディ様、私達も行きましょう。会議室までは私がご案内致します」
マリスに連れられて城の中を移動する。
この城の構造などは未だに理解していないので、今度時間がある時に一通り城の案内をして貰った方が良いかも知れない。領主が自分の城で迷子になるとか笑えない。
「ここが会議室になります」
マリスに案内された部屋は謁見の間より一回り小さな部屋だった。
中央には大きな長机が置かれており、その回りには多数の椅子。
先に入った者達は既に椅子に座っているが、机の頂点にある椅子が空いており、その隣の椅子も空席となっている。
反対側にアルロンが腰掛けていることから、頂点の席が俺の席でその隣がマリスの席なのだろう。
俺達が無言で席に付くとアルロンが机の中央に1枚の地図を広げた。




