第102話 エンシャントドラゴン
早く繋がれ! 早く繋がれ!
エレンからお叱りを受けるのが少しでも少なくなるように、エレンに繋がれと願うが中々エレンからの反応はない。
お腹を空かして家で待っているのであれば直ぐに反応がある筈だ。
もしかしてエレンに何かがあって俺は助かったのかも知れない。
エレンからのお叱りを受けなくても良い可能性があると思うと、自然と安堵の表情へと変わっていくのがわかる。
とは言っても仮面を付けているお陰で、2人に表情は伝わってないと思う。
普通、母親に何かあったかもと思う場合、先ずは安否を心配するのが普通だが、相手はあのエレンだ。例え魔王との戦闘になっていたとしても心配はないだろう。
仮に思念通話に反応がなかったとしても、ちゃんと思念通話で連絡をしたという実績は残る。
俺が思念通話を切断しようとしたところで丁度エレンからの反応があった。
「一体なんだい!? 今、かなり忙しいんだけど」
よし、明らかに食事を待っている感じではない。大ピンチは凌ぐことが出来たぞ。
「今日はルクザリア城に泊まろうと思うんだが、問題はないか?」
「好きにしなよ! こっちは今、古代竜と戦ってて命懸けなんだ。もう切るよ!」
そう言うとエレンとの通信は切断された。
今、確かに古代竜って言ったよな? 古代竜と言えば竜種の中でも最強クラスの竜で、人間が勝てるような相手じゃない筈なのだが...。
当然、その力は八竜勇者や八鳳魔王をも遥かに上回る。
流石にエレンでもソロで古代竜と戦って勝てる筈がない。
古代竜と戦うなら最低でも八竜勇者が5人は必要な筈だ。
うん...そうだ...そうだな。エレンは八竜勇者達と共闘をしているに違いない。
エレンが他人と共闘とか珍しいとは思うが、それしか考えられない。
流石のエレンでも古代竜と戦っているとなると、かなり心配になるが俺が心配していてもどうにもならない。
仮に俺がその場に駆け付けたところで、1秒と経たずに退場することになるだろう。
ともかくルクザリア城に泊まる許可は得ることが出来た。今は自分のことに集中するとしよう。まぁ、その前にマリスに軽く話だけは聞いてみるか。
「1つ聞きたいのだが、ディルクシアの戦力で古代竜を倒すことは出来ると思うか?」
「古代竜ですか...クロード様と四魔将が全員集まれば何とか互角に戦えるかどうかという戦いですね。古代竜には魔法が一切効きませんからね。クロード様にとっては天敵とも言える相手になります」
魔法が効かないとなると魔法職ではあまり戦力にならないな。
強化を掛けるのと回復役くらいなら出来るだろうが。
「何故、突然古代竜のお話を?」
「実は現在、母が古代竜と戦闘中のようなのだ」
アルロンに聞こえないようにマリスの耳元で呟く。
「エレン様がですか...」
マリスは少し驚いた表情をするが、その後ニッコリと微笑む。
「楽な戦いではないと思いますが、エレン様なら大丈夫だと思います」
大丈夫? さっきの話からいけば全然大丈夫だとは思えないのたが...。
「しかし、ディルクシアの最高戦力を持ってしても、互角の相手なのだろう? 流石に...」
「ロディ様はエレン様のお力をご存知ないですよね?おそらくクロード様と四魔将全員で戦ったとしてもエレン様に勝つことは出来ません。実際に私も戦いましたが、相手になりませんでした」
過去にエレンとマリスは戦ったことがあるのか。
まぁ、光の魔王の部下ともなれば闇の勇者であるエレンと戦っていてもおかしくはないか。
しかし、エレンがそれ程の強さを持つとなると、世界最強なんじゃないだろうか。
「マリスがそう言うなら大丈夫なのだろう。この城に泊まる許可も得れたし、今晩はここに泊まるとしよう」
「かしこまりました。それではロディ様のお部屋を案内させて頂きますね」
俺の部屋=領主の部屋となる筈だ。
元々はマリスが使ってた部屋だろう。
「ロディ様。マリス様。直ぐに食事を作らせますので後程食堂へとおいで下さい」
「ありがとうございます。それでは私はロディ様をお部屋へとご案内しますね。ロディ様、私に付いてきて下さい」
マリスに続き部屋を出る。
そのままマリスの後に続き城の中を進んで行く。
「こちらのお部屋がロディ様のお部屋となります」
俺が案内された部屋はテーブルと2脚の椅子。それにベッド以外には何も置かれていない部屋だった。
テーブルやベッドや椅子。カーテン等は全て白で統一されている。
「何もない部屋ですみません。私が使っていた時のままになっていますので」
「問題はない」
俺は椅子へと腰を掛ける。
見た目は普通の椅子に見えるのだが、座り心地はかなり良い。
「隣の部屋が私の部屋となります。後程食堂へご案内致しますので、暫くはこの部屋でおくつろぎ下さい」
そう言うとマリスは部屋を出て行く。
マリスが出ていったのを確認すると俺はベッドにダイブする。
家のベッドに比べてフカフカでかなり気持ちが良い。
しかも洗濯はしていると思うが、ベッドのシーツからは女性特有の良い香りがする。
マリスの香りだ。
何故、女性からはこんなに良い香りがするのだろうか。永遠の謎だ。
俺がベッドの上で癒しの時間を過ごしていると、入り口の扉を叩く音がする。
「ロディ様。失礼します」
マリスの声が聞こえ急いで身体を起こし、ベッドの上に腰を掛ける。
俺が姿勢を変え終わったのと同時に部屋の扉が開かれる。
「食事の準備が出来たようですので、食堂までご案内しますね」
「あ、ああ」
マリスに案内され食堂へと向かう。
食堂のテーブルには既に料理が用意されており、俺とマリスは食事を進める。
普段家で食べる料理とは違い高級レストランで出されるような料理ばかりで、味も美味しい。
食事を済ませ少し休憩をした後、俺達は俺の部屋へと向かう。
部屋に戻ってきた俺は部屋の中へ入るが、マリスは部屋の外で立っている。
「ロディ様。何かあれば直ぐに私の部屋までおいで下さい」
この城にいて何か起こるとなれば余程のことだろう。それこそクーデターでも起こらなければマリスの部屋に行くことはないだろう。
「ああ。お前もゆっくりと休んでくれ」
「ありがとうございます。それではロディ様、お休みなさい」
そう言いマリスは隣の部屋へと姿を消していった。
マリスが去ったのを確認した俺は再びベッドへダイブすると、マリスの香りに包まれながら眠りについた。




