第101話 魔流族の村
男に続き村の中をドンドンと奥に進んで行く。
何人もの村の住人の姿があるが、男も女も皆屈強そうな者ばかりだ。
魔流族全てが戦闘能力に優れているのだろうか。
よそ者は珍しいのか、俺達が通り過ぎるところをジロジロと見られている。
「ここがバトウ様の家になる。ちょっと待っていろ」
バトウの家と言われた建物は2階建てで、俺の家の1.5倍くらいの大きさがある。
作りは木造建てで、それほど高価な物が使われている雰囲気はない。
「バトウ様。ケルティアの人間をお連れしました」
男は入り口の扉を軽くノックすると、中に声を掛ける。
暫くすると入り口の扉が開き中からバトウが姿を現した。
「早かったな。中に入ってくれ」
ここまで案内をしてくれた男はバトウに挨拶をすると、村の入り口へと戻っていった。
俺達はバトウに続き家の中へと入って行く。
案内された部屋は中央に丸テーブルが置かれており、テーブルの回りには四脚の椅子が置かれていた。
一脚の椅子にバトウが腰を掛ける。
「どこでも好きなところに座ってくれ」
俺がバトウの正面の椅子に腰を掛けると、マリスがその右の椅子に腰を掛けた。
椅子に座ると1人の女性が何かを持って部屋へと入ってきた。
綺麗な長い金髪に透き通るような白い肌。
細身な身体だが、出るところは出ていて抜群のプロポーション。
顔も美しい顔をしていて、まさに完璧な美女と呼ぶに相応しい女性だ。
ん? 魔族にしては耳が長い気がするが、これだけ美しければそんなことはどうでも良いことだ。
「どうぞ」
女性が俺達の前にコップを置いていく。コップの中には八分目くらいまで透明の液体が入っている。
この世界にもお茶は存在しているが、あまり流通はしていない。そもそも客人にお茶を出すという文化もないからだ。
女性はテーブルに飲み物を置き終わると一礼して部屋を出ていった。
「あれは妻のカミラだ。さぁ、遠慮しないで飲んでくれ」
妻だと? あんな綺麗な女性と結婚出来るとか羨ましすぎるんだが...。
のども渇いていたことだし、コップを手に持つと仮面を少し前に出し、中に入っている水分を身体の中へと流し込んだ。
「うぐっ!」
中に入っている物は勝手に水だと思い込んでいたが、実際には酒だった。それも相当強い酒だ。これ程強い酒は今までに飲んだことがないレベルだ。
隣で同じようにマリスも酒を口に運ぶが、平気な顔をしながら体内へと流し込んでいく。
「これは上等なお酒ですね。しかし私が知らないお酒です。この村独自の物ですか?」
「流石はわかっているな。この酒はこの村で作っている物で、村外には一切出していないものだ」
2人ともコップに入っていた酒を全て飲み干しているというのに平然とした顔をしている。
こんなに強い酒を飲んだら倒れたとしてもおかしくはないレベルなのに...ん? というか酒の強さには驚いたが、俺の身体も特に変化はないぞ? ベロベロになっていてもおかしくない筈なのに...。
不思議だ。この世界に転生して酒に強くなったということだろうか? いや、待てよ? もしかして覇者のローブによる状態異常無効が酒に対しても効果を発揮しているのだろうか。
確かに泥酔なども状態異常と言えば状態異常に入るかも知れない。
コップに半分程残った酒を全て飲み干してみる。
相変わらず物凄い強さの酒だが、吐き出すこともないし、飲んだ後に何か変化も訪れない。
今後、上司に無理矢理酒を飲まされる機会があったとしてもこれなら大丈夫だ。
ただ、全く美味しいとは感じないので、自分から好き好んで酒を飲もうとはならないだろう。
「それじゃあ仕事の話に入るとするか。そのためにわざわざこんな村まで来たんだろう?」
「そうだな。わが軍は明日にでもアルバスを攻める準備がある。後はそちらの準備だけだがどうだ?」
「サーダンの依頼が終わったばかりの者もいる。明日1日休養を取らせて明後日ということでも問題はないか?」
明後日には出兵か。戦争が現実に迫ってくるとドキドキするな...。
だが、もう避けることは出来ない。
後は味方の犠牲者が少しでも少なくなるように動くだけだ。
「ああ、それで頼む。そちらから出せる人員はどれくらいいる?」
「俺達からは1500人を出す予定だ。部隊を3部隊に分け、それぞれに部隊長を置く。当然、俺も部隊の1つを率いるつもりだ」
アルロンは魔流族が1000人力を貸してくれればアルバスに勝利することが出来ると言っていた。
それが1500人になれば益々勝利に近付くことだろう。
「わかった。このことをアルロンに伝え、作戦を立てることにしよう。ルクザリア城で待っているぞ」
「ああ。明後日の朝、部下を連れて必ず行くことを約束しよう」
バトウとの約束を取り付けた俺達はマリスの転移門を使いルクザリア城へと帰還した。
城へ戻った俺はバトウとの話をそのままアルロンへと伝える。
「なるほど。1500人を3部隊ですか。でしたら部隊の指揮を取るのはバトウの他には彼の子達でしょう」
バトウの子供? 一瞬、そんな若くて大丈夫なのかと思ったが、俺はバトウの年齢を知らない。
見た目は40代前半くらいに見えるが、魔族の見た目はあてにならない。100歳を越えているという可能性も全然あるだろう。
「バトウの子も実力者なのか?」
「そうですね。長男の方は父親と同じく流牙の称号を持つ者。戦力としては申し分ないでしょう」
流牙。確か選ばれた魔流族だけが得られるという称号だ。
マリス、トゥエント、バトウにバトウの長男。個々の戦闘力だけでいえば仮に相手が八竜勇者だとしても簡単に負けることはないと思う。
そう言えばアルロンの能力値はどうなんだろうか。参謀タイプだとは思うが、ある程度は戦闘も出来るかも知れない。
アルロンの能力値を確認しようとするが、隠蔽能力により見ることが出来ない。
「ロディ様。私の能力値が気になるのですか?」
「あ、ああ...どれくらい戦えるものなのかと思ってな...」
「ロディ様。ご安心下さい。アルロンはこの私よりも強いですから」
マリスが笑顔でそう放つ。
マリスより強いってことはケルティア最強なんじゃないのか? 近接戦闘においてはトゥエントより下にしても総合的な能力ならマリスが一番だと思っていた。
「いえいえ、マリス様が特殊技能を発動している状態なら私では手も足も出ませんよ」
特殊技能? マリスが特殊技能を持っているとは初耳だ。
まぁ、マリスくらいになれば特殊技能の1つや2つ持っていても不思議ではないが。
「丁度良い機会です。明日1日ありますし、ケルティア軍の中でも上の位になる者をロディ様に紹介したいと思います。今夜はこちらに泊まっていかれますか?」
今夜...!? しまった...。夜もいい時間だというのにエレンに何の連絡もしていない。
俺は急いでエレンへの思念通話を試みた。




