第100話 認められた力
「最後の審判だと...何故、アンタがその魔法を使えるんだ!?」
トゥエントが凄い剣幕で俺に迫ってくる。
どうやらトゥエントは今の魔法のことを知っているようだ。
「トゥエント。落ち着きなさい」
マリスがトゥエントを宥める。
トゥエントと違いマリスの方は冷静だ。
「何故、そんなに落ち着いていられるのですか!? あの魔法はクロード様しか使うことが出来ない特殊魔法の筈です。それを使える者がいるなんて、どう考えてもおかしいじゃないですか!?」
なるほどな。クロードにしか使えない魔法。それをいきなり俺が使ったら驚くのも当然か。
ただ、マリスは俺がクロードの息子だと知っている。
特殊魔法が受け継がれていたとしてもおかしくはないと思ったのだろう。
それにしても俺の身体が回復したのは何故なんだ? 最後の審判は単純に超高火力の攻撃魔法で、身体を回復させるような効果はない。あの回復は別の力によるものだ。
能力値を確認すると、闇竜のような強敵を倒したお蔭か、LVが30まで上がり魔王の職業LVが3に上がっている。
だが、新たに増えたスキルや魔法を含めても一瞬で身体を癒したものの正体や、最後の審判を確認することは出来なかった。何か発動条件があるのだろうか...。
闇竜に視線を向けるが、死体から特に外傷などは見られない。
いくら闇竜に対して効果が抜群な光属性の魔法だとしても強すぎるだろ...。
俺の魔力で闇竜をワンパン出来るとなると、初級、中級、上級、超級と分類される中の超級すら上回っている気がする。
「ロディ様お見事でした。お身体の方は大丈夫でしょうか?」
マリスが俺に近付いてくる。
俺に聞いてくるということは、先程俺を癒した力の正体に付いてはマリスも知らないということだろう。
「ああ、問題ない。先程私が使った魔法に付いてマリスは詳しいのか?」
「はい。あの魔法は最後の審判。クロード様のみが使うことが出来るとされている特殊魔法で、クロード様の使える単体魔法の中でも最大の火力を持っている魔法となります」
クロードにしか使えない特殊魔法が使えるとわかれば、俺がクロードの息子だと気付かれる可能性もある。
力のない今の俺が光の魔王の息子だと知られれば命の危険が増える可能性がある。
今後あの魔法を使う時は周りに気を付けなければいけない。
とは言っても今はあの魔法を使う方法がわからないのだが...。
「もしかして...アンタはクロード様とマリス様の隠し子なんじゃないのか!? だとすればマリス様が四魔将の座を譲ったことにも説明がつく」
やはりこうなってしまうか...。
母親は違うが、クロードの息子だということは正解だ。
「さぁ、どうでしょうかね。そんなことよりもロディ様はお力を示しました。貴方も約束を守って頂けますよね?」
マリスが俺の代わりに返答をするが、自分の息子ではないと否定をしない。
肯定も否定もせずに話を最初の話へと戻す。
マリスの言葉を聞くと直ぐ様トゥエントがその場に膝を突く。
「今までの失礼な行いお詫び致します。このトゥエント、ロディ様のために命を賭け尽くすことをお約束します」
アルバスとの戦争を前にしてトゥエントの力を得ることが出来たのは大きい。
戦慣れもしているだろうし、アルロンとともに軍の指揮を任せることも出来る。
「お前の力には期待しているぞ。それでは城へ戻るとしようか」
マリスのMPが残っていれば転移門を使い一瞬で戻ることが出来たが、今のマリスに転移門を使うMPは残っていないだろう。
正直、疲労も溜まっているが徒歩で帰るしかない。
「ロディ様。ここで少し休んでいきませんか? ロディ様もお疲れでしょうし、少し休めば転移門が使えるようになりますから」
徒歩で帰ることを考えたらその方が効率が良いかも知れない。
身体のことを考えても休むのは歓迎だ。
「ロディ様。どうぞお使い下さい」
マリスが膝をポンポンと叩く。膝枕をしてくれるようだが、流石にトゥエントも居て恥ずかしい。
俺が躊躇しているとマリスが俺の身体を引き、膝の上に倒す。
「お、おい...」
「暫くここでお休み下さい」
強制的に膝枕の体勢にされてしまいトゥエントの方に視線を向けてみるが、トゥエントは至って普通の表情だ。
まぁ、暫くはこのままで良いか...。
疲れていたこともあり、俺はそのまま眠ってしまったようだ。
暫くして目を開くと目の前にマリスの立派な胸があった。
「おはようございます。ロディ様」
「眠ってしまっていたか。どれくらい時間が経ったわかるか?」
「正確にはわかりませんが、3.4時間といったところですかね」
周りに視線を向けるがトゥエントの姿はない。
「トゥエントはどうしたのだ?」
「先にルクザリアに戻ると言ってましたよ。私たちに気を使ったのかも知れません」
マリスが悪戯な微笑みを見せる。
トゥエントはケルティアに戻るということになったんだ。ルクザリアでやることもあるだろう。
何時までもマリスの膝で眠る俺の姿を見ていても意味はない。
「それだけ時間が経っているとなれば、そろそろ良い時間になっている頃だな?」
「そうですね。バトウ達魔流族の村へ向かいますか?」
「ああ、頼む」
マリスが村へと繋がる転移門を開く。
俺達が転移門を潜ると1つの村の前へと出た。
外はすっかりと暗くなっている。
「ここがバトウ達の住む村か?」
「はい、そうです。特に村に名前などはないので皆は魔流族の村と呼んでいますね」
村とは言っても3000人が住んでいることもあり、街でもおかしくない程の規模だ。
日本では人口の数により村から街へと名前を変えるが、こちらの世界でもそれは同じだ。
とは言っても元居た世界に比べて、こちらの世界の方が人口は遥かに少ない。3000人も住んでいれば街と呼ばれてもおかしくない筈だが、魔流族の村というのが関係しているのかも知れない。
村の入り口へ近付くと屈強そうな2人の魔族の男が入り口に立っていた。
2人とも武器を手に持ち武装をしている。
「バトウに会いに来たのだが、バトウは戻っているか?」
「お前達がバトウ様に依頼を出したというケルティアの者か?」
「ああ、そうだ。日時などの詳しい話をバトウとするためにきた」
「バトウ様の元へ案内しよう。私に付いてくると良い」
俺達は1人の男の後に続き村の中へと入って行った。