第10話 王との対面
「おっ、おえっ!」
男の死体を見た俺はその場で吐いてしまった。
さっきまではあんなに楽しそうに俺を痛め付けていた男が、今は目を見開いたままピクリとも動かない。
これが人が死ぬということか...。
「何だい? これくらいで吐くとかだらしないじゃないか」
「いや、だって人が死んでるんだよ。しかも殺したのは母さんで...」
「そりゃあ殺すさ。可愛い息子をこんな目に合わされたんだよ? 本当ならバラバラに切り刻みたかったところだけど、アンタの前だったし、遠慮したんだよ?」
やはりエレンは魔王なのか? 人を殺すことに何の罪悪感も持っていない様だ。
「ねぇ? そこのアンタ?」
「ひっ、ひぃぃぃ! 命だけは見逃して下さい!」
兵士はその場で土下座をして頭を上げようとしない。
エレンがその気になればこの男の首は一瞬で飛ぶことになるだろう。
「ディオスがどこにいるか知ってる?」
「ディ、ディオス?」
「ラウンドハール王のディオスだよ! 自分達の国の王の名前も知らないのかい?」
「し、失礼しました! 陛下でしたら謁見の間に居られると思われますが...」
「行くよ。ロディ」
「え? 行くってどこに?」
エレンは俺の返事も聞かずに牢を出て行く。牢の中に残る訳にもいかないので、俺もエレンに続き牢を出ると、牢の中には男の死体と兵士だけが残された。
「決まってるだろ。王の所に行くんだよ」
「王ってこの国の王様のこと?」
「それ以外に誰が居るって言うんだい?」
「ひょっとして...王様を殺そうとか思っていないよね...?」
「それはディオスの出方次第だね」
間違えない...。エレンは魔王だ。そうじゃなければこんな発言をする訳がない。
俺はエレンの血を引いているから、魔王になることが出来るんだ。勇者に関しては血筋も影響はするが、村人の息子が勇者になったという話も聞いたことはある。
別に父親が勇者でなくとも俺が勇者に選ばれる可能性は0ではない。
俺はエレンに付いて行っているだけだが、何故、エレンは城の中を迷わずに進むことが出来るんだ? 過去にこの城に来たことがあるのだろうか...。
「着いたよ。ここが謁見の間だ」
案内された場所は豪華な金色の扉が付けられた部屋だった。
謁見の間と言うくらいだから、城に訪れた色々な人間と謁見する為の部屋だと思う。
王がこの部屋に居ると言うことは、今は誰かと謁見をしている筈だ。
他国のお偉方と一緒にいる可能性すらある。そんな場所に無許可で立ち入ったりすれば、ただではすまないだろう。
だが、そんなことはお構い無しにエレンは部屋の扉を蹴飛ばした。
凄い勢いで扉が開き、部屋の中にいる人間が全員こちらを注目する。
部屋の中にいる人間は8人。
奥にある立派な椅子に偉そうに座っている男が1人。おそらくこの男が王なのだろう。
王の直ぐ側にはスフィーダと武装をした兵士が3人。貴族らしき男が2人。明らかに雰囲気が違う男が1人。
この男からはかなりヤバそうな雰囲気を感じる。
年齢的には20代後半くらいだろうか。白銀の鎧にマント。腰には鞘に入った剣を帯びている。
気になった俺は男の能力値を確認してみた。
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セイン
聖騎士 職業LV7
LV90
HP930
SP470
MP200
力563(25%)
技563(25%)
速さ563(25%)
魔力210
防御380
[装備]
聖騎士の剣
聖騎士の鎧
攻撃力713
守備力460
[加護]
炎D 水D
風D 地D
聖B 魔D
光C 闇E
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つ、強い...もう少しでマリスに匹敵する程の強さだ。
この国にはこんな人間がゴロゴロしてるのか...。
「お、お前は!? 陛下! 魔王の職業が選ばれた者というのは、この少年のことです!」
丁度、スフィーダが報告をしていたところだったのか? それにしては報告が遅すぎる気がするが、何か他にすることでもあったのだろうか。
「ディオス。久し振りだね」
そう言うとエレンは王の元へと近付いて行く。
「陛下を呼び捨てにするとは無礼者が! その少年と一緒に居るということはお前も魔族なのだろう! セイン!」
「はっ!」
「直ちにこの女を討ち取れ! 陛下に害をなさんとする者だ!」
「かしこまりました」
セインは腰の鞘から剣を抜いた。聖騎士の剣というだけあって、装飾もかなり豪華な装飾となっている。
それに引き換えエレンが持っている剣は兵士が使っていた安物の剣だ。
打ち合いではかなり部が悪くなる。
「セインはこの国でも最強の騎士だ。お前の様などこの馬の骨ともわからぬ女など相手にもならないだろう」
「お前たち止さぬか! その女性に手を出すでない!」
王は青い顔をしながらセインを止めようとしている。
その顔は何かに怯えているようにも見える。
「陛下。ご安心を。セインに任せれば陛下の身に危険が及ぶことはありません。さぁ、セイン! さっさとその女を殺せ!」
「美しい女性を切るなど俺もしたくはないのだが、命令なのでな。悪いが切らせてもらう!」
セインはエレンに向かい走り込むと剣を振り下ろした。
エレンは頭上に振り下ろされた剣を自らの剣で受け止めた。
「ほぉー、今の一撃を止めるか...中々やるな」
セインは連続で攻撃を繰り出す。
俺には目で追うのすら厳しい速度の剣撃だが、エレンは全て剣で弾いている。
「この国最強の騎士と言ってもそんなものかい? 今度はこっちから行くよ?」
エレンが動いた瞬間...。
気が付けばセインの剣は折れ、鎧が砕けていた。
「ぐっ...ぐあっ!」
セインはその場に崩れ落ちた。口からは泡を吹き、目は白目を向いている。
失神したのだろう。鎧が砕けて失神をしたということは、おそらく強烈な一撃を腹部に受けたのだと思われるが、俺には何が起きたのか全くわからなかった...。
「バ、バカな...セインが一撃で...」
スフィーダは信じられないといった顔をしている。エレンのデタラメな強さを知っている俺でも今の一撃には驚きを覚えたくらいだ。何も知らないスフィーダなら当然の反応だろう。
「ディオス。部下のしつけはしっかりしときな。それじゃあ今からは平和的な話し合いを始めようか?」
エレンは不気味な笑顔を浮かべながら王の元へと近付いて行った。




