第1話 浅田修二死す
俺の名前は浅田修二。大学四年で来年は就職だと言うのに、12月24日の今日になっても未だにどこからも内定が貰えていない厳しい状況だ。
今日は夜からコンビニのバイトがあるため、歩いて家の近くのコンビニへと向かっている所だが、世間は完全にクリスマスムード一色。
まぁ、ボッチな俺には何の関係もない話だが。
正直、幸せそうなカップルを見るとリア充死ねと思ってしまう自分が、悲しい奴だなぁと思ってしまう。
今まで彼女など居たことはなく、彼女いない歴=年齢のDTボーイで、このままでは魔法使いになってしまう男だ。
別に女性に興味がなかった訳じゃない。見た目もそんなに悪くはないと思うし、性格だって悪い訳じゃないと思う。
まぁ、リア充死ねと思ってしまう部分は問題ありだと思うが...。
あー、可愛い彼女が欲しいなぁー。
そんなことを考えながら街中を歩いていると突然人の叫び声が聞こえてきた。
声の主は明らかに若い女性だ。
何かトラブルに巻き込まれている様なら、それを解決すればお近づきになれるかも知れない。
そんな邪な感情を抱きながら声のした方に走って行くと、声の主が居たのは路地裏の通行人からは死角になっている場所だった。
俺以外にも数名が叫び声を聞いた筈だが、駆け付けたのは俺だけ。他の人間はわれ関せずと言った具合に見過ごしているのだろう。
日本人の悪い癖だ。
予想通り声の主は若い女性で、少し茶色の長い髪の毛に白いワンピースを着ている。
ワンピースが張り付き身体のラインがわかるが、かなりのナイスバディだ。顔は飛び抜けた美女と言う訳ではないが、それなりに可愛い顔をしていて、俺的には全然ストライクゾーンだ。
昔、修二のストライクゾーンはメジャーリーガー並みに広いよなー。などと言われていたこともあるが、それはストライクゾーンが広い訳ではなく、妥協をしているだけだ。
妥協をした結果が未だに彼女なしと言うのが悲しいところだが...。
女性は年齢的にも俺と同じくらいに見えるので、学生か社会人と言ったところだろうか。
その女性の腕を引く様に1人の男の姿があった。
明らかに嫌がる女性の腕を掴み、無理矢理どこかへ連れて行こうとしている。彼氏かも知れないが、ここは口を出しても良いだろうと判断をした。
「お兄さん。その人嫌がってるじゃないですか。嫌がる女性を無理矢理連れて行くのは流石に良くないと思いますよ」
「あん!? お前こいつの彼氏か!?」
取り合えず男の発言からこの男が彼氏ではないことが確定した。
こういう時は彼氏の振りをして助けるってパターンが王道だとは思うけど、実際にやる勇気はないな。
「違いますけど、流石にこの状況は見過ごせなかったんで」
「だったら黙ってろよ! この女ヤラせてくれるって言って金だけ取っておいて、逃げようとしやがったんだ!」
あー...援交的なやつですか...。正直、こうなると男が一方的に悪い訳ではなくなる。女性は身体を見返りに金銭を要求したのだろう。
「アンタみたいなブサイク、金を貰ってもヤルとか無理だわー!」
確かに男は、お世辞にもイイ男とは言えない顔をしている。顔だけでこの男と勝負をしたら確実に俺が勝てる自信がある。
「ねぇ、お兄さん。助けてくれないかな? この男を何とかしてくれたらヤラせてあげても良いわよ? お兄さんならちょっとタイプだからお金なんて払わなくても良いわ」
来た! DT卒業チャンス! 愛のないホニャララはなんたらとか言うが、そんなの関係ない! 俺は魔法使いになる訳にはいかないんだ! 正直腕っぷしにはそれなりに自信がある。
昔ボクシングとかしてたらモテるんじゃないかと思って、ボクシングジムに通っていたことがあるのだが、そこの会長から一緒に世界を目指そうと言われたこともあるくらいだ。
美女と世界に行くならまだしも、オッサンと世界に行くなど御免なので丁重にお断りしたが...。
その後、ボクシングをしていても全くモテることはなかったので、ジムは止めたが未だに拳は鈍っていないと思う。
「お姉さん。俺の後ろに」
女性が俺の後ろに隠れると逆上した男が殴り掛かってきた。
「何で俺じゃ駄目なんだよー!」
可哀想だがそれは顔の問題だと思う。そればかりは生まれ持ったものなのでどうすることも出来ないが...。
男の拳を楽々避けると、俺は男の腹を目掛けて拳を打った。
「がはっ!」
拳が腹にめり込むと男はその場に崩れ落ちた。
「お兄さん凄ーい!」
女性が抱き付いて来たことで、立派な胸が俺の身体に触れる。
「お姉さん怪我はないですか?」
「うん。私は大丈夫! それじゃあ今からホテルに行こっか!?」
先程と配役が変わり、女性が俺の腕を引きホテルへ連れて行こうとしている。
マズイ! 心の準備とか全くしてないし、メッチャ緊張してきた...。そういやー、今日のパンツは見せても大丈夫なやつだったっけな...。
そんなことを考えていると、突然女性が険しい顔を見せる。
「お兄さん! 後!」
「え!?」
鈍い音がしたと同時に背中の辺りに熱い痛みが走る。
痛みは腹の方にまで広がり、大量の血が溢れ出てくる。よく見ると腹からはナイフの尖端が突き出ている。
「ぐっ、ぐはっ!」
口からも大量の吐血をすると、ようやく背中をナイフで刺されたことに気が付く。
腹から尖端が飛び出ているということは完全に貫通してしまっているということだ。
身体を貫通出来る程のナイフとなると、かなり特殊なナイフになる筈だ。そんな物を一体どこで手に入れたんだ...。
「キャァァァ!」
女性は叫び声を上げながら走り去って行く。
ああ...俺のDT卒業が...。
こんな状況でもそんなことを考えるところは男って悲しい生き物だなぁと思う。
段々と身体に力が入らなくなり、俺はその場に膝を突いてしまった。
身体が痛い...腹も背中も焼ける様な痛みだ。意識も薄れて行くし、俺はこのまま死んでしまうのだろうか...。
誰かが直ぐに救急車を呼んでくれて、目覚めたら病院のベッドの上ということを願いながら俺の意識は遠くなっていった...。