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【問】と【解】

【問】この距離の埋め方を求めよ

作者: うかびぃ

気分転換に書いてみました。短編初めてなのでどれくらいの文字数が読みやすいか分からなくて苦戦しました。気が向いたら2パターンの【解】も書いてみようかと思います。

 

(…いいなぁ)


 休日の繁華街は今日も沢山の人で溢れている。駅に向かうサラリーマンだったりショッパー片手に楽しそうにしている学生さんだったり、同じ速度で仲睦まじく歩くカップルだったり。

 その中の距離の近さにどうしようもなく憧れてしまい、数メートル先を歩く背中を視界に入れた。


 彼はゴーイングマイウェイ過ぎる所がある。

 自分の興味のあるものに没頭したり何かの作業を行うと周りが一切見えなくなる。私が話しかけても反応が無くて同じことを繰り返すのはしょっちゅうだ。

 そして今も、彼はスマホに夢中で隣を歩いていた私がどんどん後ろでその背を見ているのを気付いていない。


 昔はここまで酷くなかった気がする。離されることはあっても割と早い段階で気付いてくれて、ごめんねって手を繋いでくれていた。スマホを見ながら歩くことも少なかった。

 今の私達を見て、きっと周りは知り合いとすら思わないだろう。


 いつからこんなに距離が出来るようになったんだろう。私の歩くスピードが遅いわけではない。寧ろヒールの高い靴を履かない分一般女性より早いと思っている。


 気付けば羨ましいと思ったカップルが私達の間にいた。強めの雨で傘をさしているから、二人のソレで彼の姿が隠れてしまう。


 追いかければ済む話なのかもしれない。走ってその腕を取って同じ速度で歩けば置いていかれない。

 でもそれでも彼はスマホから目を離さないと思う。私が手を離せばあっという間にまた距離が出来る。

 それが私ばっかり彼を想ってるような気にさせて、どうしても実行出来ない。繰り返す度に自分の中の何かが崩れていく気もした。歩く足も重くなる。


(このまま姿が見えなくなっても心配してくれないんだろうな)

(寧ろ何でついてきてないんだって機嫌悪くなりそう)

(怒りたいのはこっちだっていうのに)


 また間に人が入り込む。もう彼がどのくらい先にいるかも分からない。このまま横の家電量販店に駆け込んでしまいたくなる。なんでデートしてるのにこんなにツラいんだ。


(本当に彼は私のことが好きなんだろうか)


 遂にはそんなことまで考えてしまう。彼自身はいつも通りにしているだけなのに。


(いつも通り?)

(駅の改札前まで私が居ないことに気付かなそうなのが?)


 雨の鬱陶しさが思考をマイナス方向に持っていくのに拍車をかける。信号待ちで止まった私の視界に彼はいない。

 上着に入れたスマホが振動したので確認したが、ショッピングサイトからのDMだった。


(皆どうやってるんだろう)

(私が頑張るしかないんだろうか)

(そもそも何を頑張ればいいんだ)


 赤から青に変わってすぐ、少しだけスピードを上げる。駅に続く地下通路に降りて周囲を見回してやっとその姿を見つけた。

 向こうもこちらに気付いたようだが、彼はそのまま先に行ってしまう。


(待っててもくれないのか)

(遅い私が悪いのか)


 戻ってきてくれとは言わないが、まさか先に行かれるとは思っていなくて足が止まってしまった。そうしてる間にも入り込む人達。その一人ひとりが重りとなって私が進むのを阻止しようとしてるんじゃないかなんて被害妄想までしてしまう。一つ深呼吸してゆっくり足を前に出せば勿論そんなことはないんだけども。

 改札近くで待ってた彼は何も喋らずこちらを見るだけでさっさと中へ入っていく。遅いとすら言ってくれないのか。


(電車まだ時間ある…)

(乗ってる時間長いし、トイレ行っておきたいな)


 流石にこれは待っててくれるだろうと彼の名前を呼び伝えれば、コクリと頷いてくれる。良かった、分かってくれたと安堵して乗る路線へ続く階段に一番近いトイレへ足を向けた。彼は行かないようだけど近くで待っててくれるだろう。


 そんな期待は階段を登り始めた彼を見て粉々に砕け散ったけども。


(え?)

(今までだったら待っててくれたのに)


 真っ白になる頭をなんとか回転させてとりあえずトイレへ向かう。個室に入った途端どうしようもない虚しさを感じて涙が出た。


(もうこんなの付き合ってるって言わない…)

(嫌われてるんじゃん私)

(フラレるのか)


 駅のトイレで声を押し殺して泣く姿のなんと惨めなことか。電車の時間も迫っているのに。目だって赤くなって彼に泣いたのがバレてしまう。いや、それも気付かれないかもしれない。


 なんとか止まった涙に安堵して他の人に赤い目を見られないようにトイレから出れば、流石に遅いと思ったのか階段を降りてくる彼がいた。

 でもそこには心配しているような感じはなくて。さっさとしろと言わんばかりにまた登り始めたその後ろ姿を、またカップルが遮った。


 どうしたらこの距離は縮まるのだろう。


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