1日目(Ⅲ)
連れて来られた店は、和風のキャバクラのようなところだった。座敷に通されたωは、先ほどから腕にくっついて離れない、茶髪お団子の少女の扱いに困っていた。
「わたし、ˇって言うんですー。おにーさんの名前は?」
「……ωだ」
「ωおにーさん、よろしくねー!」
妙に慣れなれしい言葉を受け流し、彼は心の中でため息をついた。これが、天界の洗礼なのか。
ˇはしばらくベタベタした後、ωの赤い瞳をじっと見つめてきた。
「おにーさんの瞳、すっごくきれい……」
瞳のことに触れられ、ωは思わず嫌な顔をした。赤い目には、なりたくてなったわけではない。
「……止めてくれ」
「あれ、ひょっとしてタブーでしたか? ごめんなさい!」
彼女はあわあわした様子で、ペコリと頭を下げた。ようやく会話に一区切りがついたかと思った瞬間、彼女は即座に話題を変え、いじらしくねだってきた。
「ねーねー、わたし喉乾いちゃったー」
ˇは擦り寄ってくるが、先ほどの「金がない」というのは事実だ。本当に、金など一銭もない。
「さっきも言ったが、金がないんだ」
「嘘うそ! さすがにゼロってことはないでしょー?」
「嘘じゃない。本当にゼロだ」
「……本当に?」
――直後、彼女はガラリと態度を変えた。ぱっと腕を離し、冷たい目でこちらを見る。
「金がないと言い張るのなら、……その命と交換ですね」
そう言うや否や、ˇは左手を横に差し出す。
――次の瞬間、武士のような恰好をした青年が出現した。赤褐色の短髪に、右手に持った長い太刀。黄色い瞳の左方は、黒い眼帯で隠れている。
「おにーさんみたいな赤い瞳、ちょうど欲しかったんです。新しいお人形を作るのに必要なんで」
彼女はにやにや笑いながら、すっとωを指差した。
「ミナト、やれ」