1日目(Ⅱ)
背中に大剣を背負い、ωは派手な色のホテルを出た。改めて外の様子を見てみると、想像していた天界とは似つかない場所だと分かる。
目の前の大通りを歩く、楽しそうな人々。その種族は様々で、天使などと言う類には到底収まらない。林立する高層ビルと、賑やかな飲食店。少し先には、風俗街がはっきりと見える。
はっきり言って、ωは拍子抜けした。この統括区εは、神々しさの欠片もない。往来する人々を除けば、「ここは日本ですよ」と言われても信用できるだろう。
目まぐるしく変化する電子掲示板の下をくぐり、レストランの前を通過する。とにかく、さっさと神を見つけなければならない。空にはすでに夜の帳が降りている。今日が一日目だとすると、後十七日間しか残されていないことになる。
「おにーさん! ちょっといいですかー?」
グルグルと考えを巡らせながら、黙々と通り歩いていると、突然後ろからグイっと肩を掴まれた。振り返ると、天女の羽衣を纏った少女がこちらを見ている。茶髪のお団子にかんざしを通し、豪華な和風のドレスを惜しみなく身に着けた彼女は、キャラメル色の瞳をパチパチとさせた。
「わたし、あそこの店で働いてるんですー! おにーさんが来てくれると、すっごく嬉しいんだけどなー」
彼女が指差す先は、紛れもなく風俗街。ωは見事にキャッチに引っかかってしまった。
「悪いが、金がない」
そう言って場を後にしようとする彼だったが、羽衣の彼女は無理やり引き留めてくる。
「またまた、そんなこと言ってー! お金がない人が、εになんか来ませんよー」
「とにかく、おれは急いでるんだ。他の客を当たってくれ」
強引に彼女の手を払うと、彼女は途端に泣き出した。
「うぅっ、そんなぁ……。おにーさん、ひどぉい……」
もちろん噓泣きだが、その演技があまりにも上手いので、周囲の人が一気に彼女に注目してしまった。……これは分が悪い。完全に、ωが泣かせたようになっている。
「おい、泣くなよ」
「だってだってぇ……」
心の中で舌打ちしつつも、ωは彼女の肩を引き寄せた。こうなったら、有益な情報が得られることを期待するしかない。
「分かった。店に行ってやるから」
「ホントですか!?」
彼の承諾を聞いた瞬間、彼女はぱぁっと笑顔になった。
「ありがとう、おにーさん! 大好き!」
そう言って、右腕に飛びついてくる。この態度の変わりようは、まさにプロと言った感じだった。